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第50話:黒い拾得物_黒の祝福編②

ーーめぐみフェーズ


徳島・ホテルレストラン。


すだちぶりは、思ったより美味しかった。


脂はあるのに重くない。


噛むと、魚の甘みの後からすだちの香りが抜けていく。


「……本当に、すだちの味がするんだね」


向かいで、山上が刺身を見つめている。


「ちょっと腹立つくらい、ちゃんとしてるね」


「美味しいのに腹立つんだ」


山上が笑った。


派手な髪。


整った顔。


相手に合わせた薄い笑い方。


ホストとしては、見栄えがいい。


ただ、楽しそうではなかった。


「ホストの仕事、好きじゃないんだよね?」


箸が止まった。


それだけで答えは出ている。


高校卒業後、山上は大企業の工場に二年間勤めた。


退職すると両親に責められ、家を出た。


そこでスカウトされ、ホストになったらしい。


客の話を聞く。


笑わせる。


欲しい言葉を渡す。


その仕事自体は向いていた。


半年で、店のナンバー三。


ただ、客に金を使わせることには耐えられなかった。


生活を削る人。


風俗で稼ぐ人。


危ない仕事へ手を出す人。


そうして作った金で酒を入れさせる。


それを見るたび、自分が何をしているのか分からなくなったという。


「向いてないね」


「はっきり言うね」


「褒めてるんだよ」


「どの辺を?」


「人から金を奪ってると思いながら、続けられる人間じゃないところ」


山上は苦笑した。


優しさは、使い方によって長所になる。


「奪わなくても売れるものを扱えばいい」


「例えば?」


「ホームページ」


山上が怪訝な顔をした。


古いホームページ。


スマートフォンでは見づらい画面。


分かりにくい予約方法。


間違った営業時間。


検索しても出てこない店舗。


そうした問題を抱える相手へ、改善策を売る。


相手は金を払う。


こちらは、その金額に見合う結果を返す。


「山上は話せるし、相手の話も聞ける。向いてると思うよ」


山上の目に、わずかに光が戻った。


「久世も、それをやってるの?」


「今は弁護士や会社経営もあるから、人手が足りないんだよ」


「……やっぱり、あいつはすごいんだな」


「放っておくと、変な方向へ全力で走るけどね」


すだち真鯛を口へ運ぶ。


こちらも悪くない。


「明日、実際に見せてあげる」


「何を?」


「ホームページを売るところ」


「そんな簡単にできるの?」


「簡単じゃないよ。でも、できる」


恒一から営業の進め方は聞いている。


相手の困りごとを確認する。


今の集客方法を聞く。


どこで客を逃しているのか見せる。


必要な理由を、相手自身の言葉から引き出す。


聞いたものは、使えばいい。



翌朝。


最初に電話をかけたのは、駅から離れた整体院だった。


ホームページはあるが、古い。


スマートフォンでは文字が小さく、予約ボタンも分かりにくい。


「営業の電話ですか」


「はい」


正直に答えた。


隣で山上が驚いている。


嘘をつく必要はない。


若い新規客が増えていないこと。


近くに新しい整体院ができたこと。


院長の困りごとは、すぐに出てきた。


一件目の約束が取れた。


二件目は、小さな飲食店。


ネット上の営業時間が間違っていると伝えると、面倒そうだった店主の声が変わった。


こちらも約束が取れた。


電話を切ると、山上がこちらを見た。


「営業電話って言っても、切られないんだね」


「切る人は切るよ。でも、本当に困ってる人は聞く」


山上は感心するだけでなく、なぜ相手が話を聞いたのか考えている。


やはり、いい拾い物だ。



整体院では、院長の説明が丁寧だという口コミを山上が見つけた。


「ここ、強みにできますよね」


売り込みではない。


相手の価値を見つけ、言葉にした。


院長の表情が明るくなる。


「うちは、説明だけはきちんとしようと思っていて」


その言葉を軸に提案を組み立てた。


症状別のページ。


予約フォーム。


施術方針。


口コミへの導線。


スマートフォンへの対応。


五十万円の見積もりを出すと、院長は少し考えた。


「お願いします」


店を出た後、山上が息を吐いた。


「五十万円も払うのに、嬉しそうだった」


「払う理由があるからね」


「五十万円あれば、シャンパンタワーができるな……」


比べる対象がおかしい。


だが、山上なりに違いを理解し始めている。


二件目の飲食店でも、山上は店内に飾られた常連客の写真を見つけた。


「新しい人には入りづらく見えるかもしれません。でも、この写真を使えば、店の雰囲気は伝わりますよね」


店主の顔が緩んだ。


人の表情を読み、その人が大切にしているものを言葉にする。


山上はやはり、営業に向いている。


二件目も契約になった。



午後三時。


ホテルのカフェで、山上へ尋ねた。


「やってみたいでしょ?」


しばらく考えた後、山上は頷いた。


「やってみたい」


「理由は?」


「金を払う人が、嫌そうじゃなかった。むしろ、完成を楽しみにしてた」


それで十分だ。


基本給は二十五万円。


成約に応じたインセンティブと賞与。


大阪の部屋も、最初はこちらで用意する。


山上が何度か目を瞬かせた。


「早いね、段取りが」


「決定事項だからね」


「加藤さんって、そんな権限あるの?」


「取締役だから。だいたい何をしてもいいんだよ」


「怖い会社だな……」


山上は苦笑した後、頭を下げた。


「一緒に仕事をさせてほしい」


「決まり」


「久世にも借りがあるからな。命の恩人だし」


高校の事件で、恒一は山上たちを守った。


山上は、そのことを忘れていなかった。


「それに、君にも拾い上げてもらった」


「まだ拾っただけだよ」


「俺には十分だよ」


山上が少し笑う。


「久世の彼女に恩を売れるなら、悪くない」


「彼女じゃないけどね」


「それ、どういう冗談?」


答える必要はない。


少しだけ機嫌がよくなった理由も、考えないことにした。


「これから、表の仕事をよろしくね」


「裏もあるのかよ」


山上は笑った。


それ以上は聞かなかった。


この距離感も悪くない。


その夕方。


山上と別れた後、病院の方角を見た。


次の面会は明日。


母が手放さない古いノート。


あれが父のものなら、何が書かれているのか確かめたい。


見せてもらえないなら、奪る。


山上は拾った。


次は、母から答えを奪る。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・コメントで応援いただけると嬉しいです。 #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公 #社会風刺
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