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第43話:真意_選別都市大阪編⑩

ーーめぐみフェーズ


大阪。


久世事務所。


「ごめん。私のせいだ」


みずきへ頭を下げる。


「油断してた」


一人で買い物に行かせた。


階段を使うよう指示した。


結果。


みずきは、石津に襲われた。


「そんなことないよ」


みずきは毛布に包まれている。


頬は腫れ。


唇も切れている。


手は、まだ震えていた。


「めぐみは、ずっと言ってくれてたし」


危機感が足りない。


そう何度も伝えていた。


それでも。


結果は変わらない。


恒一が間に合わなければ。


取り返しがつかなかった。


「病院行くで」


ひとみが言う。


みずきが顔を上げた。


「……警察は?」


「来えへん」


ひとみが、あっさり答える。


「先、病院や」


「なんで?」


「私が止めたから」


理解が遅れた。


「……止めた?」


「そらそうやろ」


ひとみは笑う。


「久世が間に合った後に警察来たら、階段室に何が残る?」


石津の死体。


そして。


血まみれの恒一。


二階堂側に利用されれば。


どんな見出しにもできる。


若き司法試験合格者が男性を殺害。


被害者は、示談交渉中。


石津がデポルだったことなど。


報道されない可能性もある。


理屈は分かる。


だが。


「警察の方が先に着いた可能性もあったよね」


ひとみを見る。


「それを、切ったの?」


「せやな」


指先が冷えた。


つまり。


恒一が間に合う方へ賭けた。


みずきがどうなるかも分からないのに。


(この女……)


視界が狭くなる。


殺せ。


そんな言葉が。


自然に浮かんだ。


自分でも驚くほど。


迷いがなかった。


「おい、めぐみ」


「……何?」


「急に怖い顔すんなや」


ひとみが笑う。


「美人は怒っても美人やな。私と一緒や」


いつもの軽い口調。


だが。


今は、それすら信用できない。


「そういえば、久世は?」


「汚かったので、風呂場へ入れました」


「自分、言い方おもろいな」


ひとみは笑っている。


私は。


何も返さなかった。


この女は。


危険だ。


情報。


判断。


立ち回り。


どれも。


今の私たちより上にいる。


切ることもできない。


だが。


恒一を利用し。


壊すような真似をするなら。


その時は。


私が、この女を殺す。


理由は分からない。


私は四度、生き直している。


頭の中には、女神まで現れる。


そして。


ひとみにも。


普通の人間だけでは説明できない何かを感じていた。


今は。


見ておくしかない。





ーーみずきフェーズ


私には。


友達がいなかった。


だから。


舞い上がっていたのだと思う。


初めてできた男友達。


女友達。


仕事。


収入。


祖父母との生活も楽になった。


全部。


嬉しかった。


少しパソコンが得意で。


役に立てる。


それだけで。


二人と同じ場所に立てた気になっていた。


置いていかれたくなかった。


私にもできる。


私にも覚悟がある。


そう言い続けて。


ついてきた。


久世くんは。


分かっていたのだと思う。


何度も。


徳島から遠隔で手伝うだけでもいいと言ってくれた。


それでも。


私は大阪へ来た。


そして。


今日。


現実を知った。


『目を逸らすな』


久世くんは。


私にそう言った。


石津へ。


何度も刃物を突き立てる背中を。


見ろ、と。


怖かった。


石津も。


久世くんも。


どちらも。


人間には見えなかった。


それでも。


一番怖かったのは。


私が壊された後だった。


祖父母が悲しむ。


きっと。


自分たちを責める。


大阪へ行かせなければ。


仕事なんてさせなければ。


もっと守れたんじゃないか。


あの二人なら。


きっと、そう考える。


そんなことをしようとした石津を。


私は許せなかった。


資料と。


現実は違う。


画面越しの怪物と。


自分の腕を掴む怪物は違った。


ガチャ。


浴室から音がする。


久世くんが出てきた。


上半身には。


いくつもの傷が残っている。


胸。


腹。


腕。


古い傷も。


新しい傷も。


風呂に入っただけなのに。


ひどく疲れて見えた。


多分。


この人は。


ずっと無理をしている。


冷酷なのではない。


冷酷であろうとして。


そう振る舞っている。


「なんで、まだいるの?」


久世くんが私を見る。


「病院は?」


「さっきから言うてんねんけどな」


なぜひとみさんが答えるのか。


私は。


久世くんを見る。


「久世くん」


「はい」


「全然違った」


「何が?」


「資料で見るのと、画面で見るのと」


息を吸う。


「本物は、全然違った」


久世くんは黙っている。


「腕を掴まれた時、本当に怖かった」


「そうだね」


「でも」


拳を握る。


「腹も立った」


「うん」


「私が壊されたら、祖父母が悲しむ」


声が震える。


それでも。


続ける。


「あの人たちは、自分たちを責める」


「そんなことをしようとした奴を、私は許せない」


部屋が静かになった。


「犯罪でも何でもいい」


久世くんを見る。


「私も、続ける」


ひとみさんと。


めぐみが黙る。


久世くんは。


あっさり頷いた。


「そう」


一拍。


「分かった。これからも頼む」


「ええっ!?」


私ではなく。


ひとみさんとめぐみが驚いた。


「止めるとこちゃうん!?」


「私も徳島に送り返すと思った」


この二人。


なんだか腹が立つ。


久世くんは、表情を変えない。


「階段室で」


静かに言う。


「見ろと伝えた」


「みずきは」


私を見る。


「それを見た上で、続けると決めた」


「だから」


「俺から言うことはないよ」


私が決めた。


ただ。


それだけ。


ひとみさんが肩を叩く。


「ほな、これからもよろしゅうな」


めぐみも頷く。


「護身術くらいは覚えようか」


「……うん」


今度こそ。


分かった。


覚悟なんて。


口で言うものじゃなかった。


怖い。


それでも。


ここに残る。


私は。


自分で選んだ。


もう。


画面の向こう側へ戻るつもりはなかった。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・コメントで応援いただけると嬉しいです。 #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公 #社会風刺
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