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第46話:二階堂崩し(前編)_選別都市大阪編⑬

ーー大阪・久世事務所


机の上に、資料が広がっている。


真壁から渡された内部情報。

みずきが拾った法人登記。

民泊の住所。

運送会社の配送記録。

人材派遣会社の契約書。

福祉団体の補助金資料。


ばらばらだった点が、少しずつ線になっていた。


二階堂を殺すのではない。


二階堂が作った仕組みを暴く。

デポルとの繋がり。

デポルの輸入。

デポルの犯罪とそのもみ消し。


これらに二階堂が関わったとされる証拠を今日と明日で一気にまとめる。


それが、今回の目的だった。


「要するに、こういうことだよね」


みずきが、ノートパソコンを見ながら言った。


画面には大阪市内の地図が表示されている。


赤い点。

青い点。

黄色い線。


民泊。

倉庫。

派遣会社。

福祉団体。

法律事務所。


それらが、蜘蛛の巣みたいに繋がっている。


「二階堂は、デポルを大阪に入れてる」


みずきが続ける。


「住ませる場所があって、働かせる会社があって、移動させる運送会社がある。事件を起こしたら、別の場所に逃がす」


めぐみが画面を覗き込んだ。


「それを共生政策を語りながら、裏でやってると」


「そう」


みずきは頷く。


「表では弱者支援とか、福祉とか、多文化共生とか言ってる。でも実際は、デポルを大阪に輸入して、生活させる仕組みを作ってる」


人ではなく。

荷物でもなく。

だが、荷物のように扱われる何か。


掠奪種デポル


「二階堂の演説は綺麗だった」


俺は言った。


「でも実際には、デポルが大阪で犯罪を犯し、人間が被害に遭っている。その原因が、二階堂の作った仕組みなら」


ひとみが、資料を指で叩いた。


「全部、二階堂に返せる」


「ええ、そうです」


二階堂は共生を語る。


だが、その共生政策によってデポルが大阪に入り、人間が襲われた。


不起訴にする弁護士や検察がいる。

示談金を出す流れがある。

逃がす業者がいる。

受け入れる団体がある。


それを繋げられれば、二階堂の言葉は反転する。


共生ではない。


侵蝕だ。


「勝利条件はこれだ」


俺はホワイトボードに書いた。


一つ。

二階堂側がデポルを大阪へ入れていた証拠を押さえる。

可能なら、現場責任者も連れ出す。


二つ。

デポルを住ませ、働かせ、逃がす流れを押さえる。

そこに二階堂の政治団体が繋がっている証拠を取る。

足りなければ、繋がって見える形に整える。


三つ。

播磨に事件内容の裏付けをさせる。


「これで、二階堂の共生政策は壊れる」


めぐみがまとめる。


「二階堂が直接、石津に襲えと命じた証拠までは必要ない。二階堂の仕組みが石津のような個体を大阪に入れ、逃がし、再犯を可能にした。それを示せればいいということだね」


「そう」


ひとみが口角を上げた。


「ただし、証拠が弱かったら終わる。陰謀論扱いされるだけや」


「ですね」


俺は資料の一枚を見る。


真壁から来た中継地点の情報。


大阪市内の倉庫。

表向きは配送センター。

実態は、東京から入ったデポルの仮置き場。


そこで振り分ける。


使える個体は大阪市内へ。

問題を起こした個体は別ルートへ。

戸籍を作る前の個体は、番号で管理する。


「端末か台帳がありそうだね」


みずきが言った。


「それが取れたら、移動記録と民泊、派遣会社、福祉団体の線が繋がる」


「現場責任者もおるはずやな」


ひとみが言う。


「そいつを拉致するんやろ?」


「はい。今晩拉致して、播磨と合わせます」


俺は答えた。


「播磨は、事件後の流れを知っている。現場責任者は、デポルの移送と振り分けを知っている」


めぐみが続ける。


「二人の証言と、端末データが合えば、裏付けになる」


俺は頷く。


つまり、今夜やることは一つ。


証拠を取る。

取れなければ、証人を拉致する。


その時、俺の携帯が震えた。


電話に出る。


「はい」


『準備できた?』


真壁の声だった。


「ええ」


『今夜の移動の件だ』


部屋の空気が変わる。


『予定通り、場所は送った資料の大阪市内の倉庫。表向きは配送センター。二階堂側の中継地点だ』


真壁は続ける。


『数は少なくとも三十。護衛を含めれば、もっと』


三十。


部屋が静かになった。


石津一人で、あれだけ面倒だった。


それが三十。


正面から行く数ではない。


『恐らく台帳があるはずだ。それと、現場責任者。できればそいつも押さえてほしい』


端末や台帳だけでも足りない。


証人が必要だ。


二階堂側が、実際にデポルを運び、住ませ、逃がしていたと証明する人間。


いや、人間かどうかは分からない。


「警察は」


『動かさない方がいい。動かした瞬間に漏れる可能性がある』


「念のための確認ですよ」


『井口さんは別件で動けない。大阪で生きていきたいなら、君はここでケリをつけなければならない』


真壁が、電話の向こうで笑った気配がした。


「言われなくとも」


『じゃあ、よろしく』


通話が切れた。


部屋が静まり返る。


三十以上のデポル。

端末。

台帳。

現場責任者。


「さて、役割を改めて確認しよう」


そう言うと、めぐみがすぐに顔を上げた。


「私は恒一についていくね」


「…何故?」


めぐみの目が細くなる。


「三十超えたデポルがいるから、一人ではキツいよ」


「めぐみが居たら楽になると?」


思ったまま伝える。

武闘派は俺しかいないのだから、邪魔になる。


ここで、意外な人物が援護に回る。


「まあ、まてや」


ひとみがでしゃばる。


「合気道教えてるし、強いでこいつは」


何を言い出すかと思えば。


「たった数日の間、合気道かじっただけでは?」


脅かすつもりで、左手をめぐみに伸ばそうとした瞬間、俺は天井を眺めていた。


「…あれ?」


めぐみが、俺の手首を取ったまま、ドヤ顔で見下ろしていた。


スカートの裾が、ふわりと揺れている。



「久世。世の中には天才がおる。何をやらせてもすぐ出来る奴も居れば、お前みたいに血反吐吐いて努力しても高みに届かへん奴もおる」


「……唐突にディスられたような」


「めぐみは強い。私と組み手しても、たまに負ける。私、合気道五段やで?」


「そういうこと。私は、守られるだけの場所に戻るつもりはない」


「殺し合いには向いてへんけど、状況判断にも長けてるし連れてったれや」


ひとみは、あっさり言った。


今回必要なのは、殺す力だけではない。


証拠を押さえる時間。

端末を抜く時間。

逃げる時間。


一秒。


その一秒が、勝敗を分ける。


床から起き上がり、深呼吸する。


「わかりました、ではめぐみは同行」


めぐみが頷く。


「今後の予定と役割を」


俺とめぐみが、倉庫を襲撃し証拠を確保。

みずきは、夜までに情報の整合性確認。夜は、車内から防犯カメラと周辺道路を確認。

ひとみは、車で逃走経路の確保。

翌日には、証拠をもとに、播磨を完全にこちら側へ落とす。


各々が頷く。


これで二階堂の大阪に、最初の穴を開ける。



ーー大阪市内・移動中

 ーーめぐみフェーズ


ひとみの運転する車は、夜の大阪を抜けていく。


助手席に恒一。

後部座席に私とみずき。


みずきが口を開く。


「現場近くの防犯カメラ、いくつか見つけた。倉庫正面は無理。でも周辺道路は取れそう」


恒一は無表情に答える。


「わかった。それ以外は、目視で頼む」


緊張しているのだろうか。


私は、車の後部座席で、窓の外をひたすら見ている。

明るくて。

騒がしくて。

それなのに、どこか寂しい。


今から行く場所には、三十以上のデポルがいる。


普通なら怖い。


たぶん、怖がるべきだ。


でも、私の中で一番大きいのは恐怖ではなかった。


恒一を一人で行かせたくない。


それだけだった。


頭の奥に、気配が生まれる。


アステリア。


最近は、来た瞬間が何となく分かる。


(いる?)


『今来た。なんで分かった』


(最近、何となく分かるんだ)


『(こいつ、魔力を感じられるようになってる…?)』


(祈って、触って、一秒十年の寿命が減るんだよね?)


『…あ、ああ。そうだが。今更返せといってもできないぞ』


(OK。ただ私、もしかしたらコントロールできるかもしれない)


『寿命の消費をか?そんなことできるわけがない。魔法が使える異世界でも、MP(マジックポイント)を消費するんだぞ』


(まあ、見ててよ)


アステリアはできないという。

けど、私にはわかる。

多分、できる。


仮にできなくても十年消費するだけだ。

それは普段と変わらない。


女性の平均寿命が、八十六歳。

今の私は二十歳。


あまり乱発すると、すぐに寿命を迎える。

だから、″節約″してみせる。


私は、自分の手を見る。


祝福ベアトリクス


寿命を使い、触れた人に力を与える力。


今は、二回使って、二十五年分持っていかれてる。


私にぴったりな魔法。


馬鹿みたいな代償だと思う。

けれど、私にしかできないことがある。


恒一は修羅の道を行く。

そして恐らく——私は最後まで隣にいることはできない。


助手席の恒一に目をやる。


恒一はきっと成し遂げる。

その後、私のおかげだったと、きっと思わせてみせる。


(恒一が野望を成し遂げたら、彼はもう”魔王”だ)


平成の魔王。

いや、恒一の記憶で見た”令和”かな。



明らかに歪んだ感情を、恒一に押し付け満足したい。


次に彼に触れる時。

〇・五秒だけ、祈る。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです( ^ω^) #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公
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