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第40話:偽証_選別都市大阪編⑦

ーー久世フェーズ


大阪市内・事件現場付近。


夜。


アパート周辺だけが、街の光から切り離されたように暗い。


ひとみは現場を見ながら、淡々と説明した。


「被害者はこの部屋。石津は後ろから口を塞いで——」


周囲を見回す。


「管理会社もグレーや。民泊絡みかもしれんな」


俺は頷いた。


ひとみが話すのは、被害者から聞いた必要最低限の情報だけだった。


部屋には、古い畳の匂い。


薄いカーテン。


壊れかけの照明。


ひとみが位置を示す。


「私はこっち。あんたはそっち」


「はい」


「緊張してる?」


「なぜ?」


「殺すぞ」


ひとみが笑う。


「もっと近づかな写真にならんやろ」


「やってるじゃないですか。膝痛いんですよ」


石津が襲ったとされる場所で、同じ体勢を作る。


窓の外。


向かいの建物には、カメラを構えためぐみ。


みずきは離れた場所から、周囲の状況を確認している。


全員。


共犯者だった。


「なあ、久世」


「何ですか」


「おもろいな」


「これがですか?」


「犯罪を暴くために、犯罪してるこの状況や」


「ええ。笑えてきます」


「わろてへんやん」


それ以上、ひとみは何も言わなかった。


一枚。


また一枚。


事件当日の写真ではない。


だが。


そう見えるように撮っている。


正義ではない。


証拠でもない。


武器だ。


俺たちは今。


武器を作っている。


『終わり』


イヤホン越しに、めぐみの声。


『撮れた』


みずきも続く。


『加工は最低限にする。やりすぎると逆に怪しい』


「任せる」


ひとみが髪を整えながら笑った。


「私との逢瀬の写真、後生大事にせえよ」


「はい」


「絶対すぐ捨てるやろ!」


いつもの調子だった。


その軽さに。


少しだけ救われている自分が、不快だった。


・

・

・


大阪・難波駅前。


翌日。


大阪市長。


二階堂傑の街頭演説には、人だかりができていた。


『大阪は、違いを受け入れてきた街です』


スピーカー越しに声が響く。


『生まれも、言葉も、文化も違う。それでも、それぞれが居場所を持てる街でなければならない』


拍手。


言葉だけなら。


正しい。


『違いを恐れる社会ではなく、受け入れる社会へ』


また、拍手。


『大阪から、新しい共生の形を作りましょう』


(本当にくだらない)


舞台裏。


スタッフ用のテントには。


播磨健二。


半グレ風の男。


くたびれた中年。


そして。


細身のスーツ。


真壁。


こちらを見て、口元だけで笑っている。


「あのニヤけた奴は外して撮れる?」


みずきが小型カメラを構える。


「たぶん」


その指が止まった。


「……いる」


「誰が?」


「石津」


画面を見る。


演説会場の端。


警備員のように立つ男。


石津だった。


不起訴になり。


再び女性を襲った疑いがある男。


そして。


初日に、俺が逃がしたデポル。


人混みの向こうで笑っている。


腹の奥で。


何かが軋んだ。


だが。


動いてはいけない。


ここで手を出せば。


二階堂の演説会場で暴れた若者。


危険な司法試験合格者。


弱者を敵視する暴力的な男。


好きな見出しを作られる。


「恒一」


めぐみが、低い声で呼ぶ。


「何?」


「目が殺したがってる」


「……やばい奴だな」


「今更? トップクラスだよ」


二階堂の演説は続く。


『排除では、街は良くなりません。必要なのは、理解と制度です』


理解と制度。


綺麗な箱に。


腐ったものを詰め込んだような言葉だった。


「何枚か撮れた」


みずきが画面を見せる。


播磨。


石津。


二階堂陣営の関係者。


半グレ。


民泊業者。


一枚では弱い。


だが。


組み合わせれば、火種にはなる。


「帰ろう」


めぐみが俺を見る。


「いいの?」


「これ以上、できることはないよ」


石津を見る。


まだ笑っている。


(今殺しても、一匹だけだ)


視線を外した。


・

・

・


大阪・久世事務所。


事件再現の写真。


演説会場の写真。


そこにいた共犯者たち。


すべてを並べる。


「写真だけだと弱いね」


みずきが言う。


「分かってる」


「それでもやる?」


「やる」


石津の名前に丸をつける。


次に。


播磨。


「石津の名前は直接出さない」


みずきが頷く。


「でも、分かる人には分かるようにする」


「そう」


断定はしない。


疑問だけを置く。


情報は、第三者を経由して流す。


めぐみが尋ねる。


「ひとみさんは?」


「記者筋へ繋ぐ」


俺は、播磨の名前を見る。


「最初に燃やすのは、石津じゃない」


「播磨」


「そう」


不起訴後の再犯疑惑。


同じ弁護人。


そして。


演説会場で、石津たちと接触する姿。


火種にはなる。


「播磨を社会的に殺す」


一拍。


「その手前まで持っていく」


みずきが顔を上げた。


「手前?」


「交渉材料だからね」


写真も。


情報も。


使うためにある。


「石津は?」


「今は動けない」


「また誰か襲ったら?」


答えが詰まる。


「……明確な答えはない」


二人を見る。


「戸締まりだけはして。何かあれば、すぐ警察を呼ぶこと」


腹の奥は。


ずっと煮えていた。


俺は、画面の石津を見る。


(いつまでもーー俺の目の前で、生きていられると思うなよ)


ホワイトボード。


二階堂の名前だけは。


まだ丸で囲んでいない。


だが。


中央にある。


大阪という街の輪郭が。


少しずつ見えてきた。


綺麗な言葉で覆われた。


腐った輪郭。


「火種は置いた」


椅子へ身体を預ける。


「明日には、少し燃える」


窓の外。


難波の夜は、明るい。


奪われた者の声など。


光と音で消してしまえるほどに。


・

・

・


ーー石津フェーズ


今日。


街で、黒髪の女を見つけた。


播磨さんに連絡すれば。


居場所くらい、すぐに分かるだろう。


「次は、あの女だな」


隣にいた男は。


彼氏だろうか。


気に食わない顔だった。


(あいつの目の前で、全部奪ってやる)


想像するだけで。


笑いが漏れる。


石津は布団へ潜った。


次に奪うものを考えながら。


自分がすでに。


狩る側から見られているとも知らずに。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・コメントで応援いただけると嬉しいです。 #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公 #社会風刺
― 新着の感想 ―
最後の一文好きですわぁ。 斉木楠雄でもサルに対して同じことを言うシーンがあるんですがソレなんです。
大阪市長はデポルとズブズブやないすか。 大阪市長も腕が赤黒くなってんのとちゃいまっか?? 赤黒くならない特殊なデポルとかおったりしてね。 デポルは何年前から日本で蔓延っているのか。 ストーリーで解き明…
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