第3話:神さまのありがたい気まぐれ
かつて私は、死んだ人間を異世界へ放り込む仕事をしていた。
適当な能力を与えて、「魔王を倒してこい」と送り出す。いわば派遣会社の社長のようなものだ。
それを、何千年も繰り返した。
結果、どうなったか。
——全部、平和になった。
どの世界も似たようなものだ。強い力を与えられた人間が、敵を倒し、称賛され、終わる。
いわゆる「俺TUEEE」の量産。どれも同じで、どれも退屈だった。
「はぁ……」
ため息が漏れる。
やることが、ない。
暇つぶしに、下界の「スマートフォン」というものを拝借したこともある。板切れのくせに、なかなか面白い。
モンスターを弾くゲーム。パズルで戦うゲーム。育成レース。
少しの間、神であることを忘れかけた。
だが、電池が切れたら終わりだ。充電という仕組みもあるらしいが、面倒だ。
「廃神になるぞ」と他の神に止められて、それもやめた。
——結局、退屈は変わらない。
そんな時だった。
天界にまで届くほどの、粘ついた感情が流れ込んできたのは。
『……何もかもつまらない人生だった』
『でも、後悔している』
『もっとやれたはずだ』
『全部やり直したい』
『理不尽が腹立つ。許せない』
『俺も、デポルも、国も——全部消えろクソが!!』
『ああああああああああああああああああああああああ!!』
「……うわ」
思わず声が漏れる。
「気持ち悪い」
だが、口元はわずかに緩んでいた。ここまで濃い憎悪は久しぶりだ。
ただの恨みじゃない。後悔、怒り、執着が、ぐちゃぐちゃに混ざっている。
しかも、自分だけじゃない。【デポル】と【国】ときたか。
「……面白いな」
未練の強い人間は、異世界でよく伸びる。
だが、今さら送り込む場所がない。どの世界も、平和すぎる。
「じゃあ——戻してやるか」
異世界じゃない。こいつ自身の、過去へ。
幼少期あたりにでも放り込めば、時間はたっぷりある。
どうせ「やり直したい」なんて言っていたんだ。なら、その機会をくれてやればいい。
私は無造作に髪をかき上げる。
「行ってこい」
指を軽く鳴らす。
「お前が口だけなのか、それとも本気なのか」
ほんの少しだけ、楽しみだった。
「特等席で見物させてもらう」
——チート能力は、、、いらないな。
あれだけ威勢のいいことを言っていたんだ。なら、自分の力だけでやればいい。
もし、それでも同じように終わるなら。
「その時は——途中で飽きて捨てるだけだな」
興味なさげに呟きながら、寝転がる。
手元には、のり塩のポテトチップス。一枚つまんで、口に放り込む。
「さて」
サク、と軽い音が鳴る。
「二度目の人生か」
ほんの一瞬だけ、視線を下界へ向けた。
——血に塗れたまま、何もできずに終わった男。
その続きを、眺めるために。
本日はもう1話更新しています。
次話、第4話:リスタートの意味




