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第36話:宿敵_選別都市大阪編③

ーー大阪・久世事務所


封筒は、ひとみの事務所に届いた。

だが、中に入っていた白い紙には、俺たちの新しい事務所の住所が印字されていた。


『ようこそ、大阪へ』


たったそれだけ。


俺のデポル狩り。

ひとみの情報収集。


恐らくこれらが原因で情報は漏れているのだろう。

めぐみやひとみは、”徳島の連中”にもバレている。


(遅かれ早かれ、だな)


仲間を作り共に行動する時点で、彼女らは俺の弱点になってしまっている。

弱点なら、管理しなければならない。

失わないために。


(...にしても、だ。)


紙には、事務所の住所が印字されていた。

まだ表に出していない住所。

契約には使った。

不動産屋にも出した。

回線契約にも出した。

銀行にも出した。


だが、仕事用の事務所として公にはしていない。

大阪に来て、まだ二日目。

早すぎる。


「……行政、業者、回線、郵便。そのどこかに目があるのかな」


みずきが不安そうに呟く。


「全部かもね」


めぐみはあっさり言う。

重い内容。

しかし軽い声。


昨日までと違い、みずきの顔には少しだけ硬さがある。

無理もない。

大阪に来て初日。

彼女はカメラを切った。

しかし、その映像にこちらを見上げる男が映った。

そして翌日にはこの手紙だ。

偶然ではない。


みずきの指が、キーボードの上で一瞬止まった。

それだけで十分だった。


怖いのだ。

俺も、同じ。


「みずき、君は遠隔でできるのだから徳島の家からでも構わないんだよ」

「…仲間外れにする気?私はビビってなんかない!」


強がりだ。

この強がりが、悪い方に傾かなければいいが。


めぐみがホワイトボードの前に立つ。


「まず整理しよう」


文字を書き出していく。


一、封筒が届いた

二、住所も割れている

三、差出人なし

四、印は大阪市のもの、なので恐らく二階堂の筋

五、昨日のスーツ男と関連は不明


そこで止まる。


「問題は、どこから漏れたか、だね」


みずきの顔色が悪い。


そして論点もそこではない。

——時間だ。


怖がっている間にも、相手はこちらを調べる。


住所。

顧客。

資金。

協力者。

家族。


弱い場所から、順番に潰される。

俺ならそうする。

なら、相手もそうする。


「動く準備をしよう」


ぽつりと口に出た。

めぐみが頷く。


「うん。相手の方が街に馴染んでる。こっちは来たばかり。時間をかけるほど不利」


みずきが顔を上げる。


「じゃあどうするの?」

「短期で崩す」


俺は言った。


「リソースは少ない。全部は無理だから、まず一つに絞ろう」


めぐみがホワイトボードに、新しく書く。


播磨健二の調査からだ。



数時間後。


みずきが解析していた防犯カメラの映像が出た。

播磨の調査を一旦切り上げ、みずきのPCに視線を落とす。


「誰かが直接入れてる!」


画面には監視映像。

ビル入口。

深夜二時十三分。


スーツの男。

顔は映っていない。

帽子。

手袋。

郵便受けの前で止まり、封筒を入れる。

それだけ。


「ここから先、追えない」


みずきが別画面を開く。

周辺カメラ。

しかし、その時間だけ違和感がある。


「消されてる?」


めぐみが聞く。


「違う。消えてない」


みずきの声が少し低くなる。


「映像自体はある。でも、その時間だけ“誰も通っていないように見える”」


背筋が冷える。

消すのではない。

なかったことにする。

雑な隠蔽じゃない。

生活の中に溶け込ませて、記録からだけ抜き取る。


(……怖いな。しかしそれ以上に——)


認めたくはないが、相手は情報戦に慣れている。

少なくとも、今のこちらより。


みずきが黙った。

悔しさ。

恐怖。

その全部が顔に出ている。


「……やばいね」


(みずきの方がやばい。ストレスでどうにかなりそうだ…)


そして、彼女のいう通りこちらもやばい。


相手は暴力だけではない。

こちらの武器である情報にも手を伸ばしている。

大阪のデポルは、人を襲うだけの獣ではなくなっている。

社会を使う。

記録を消す。

足跡を作らない。

そして、こちらの足跡だけを見る。


沈黙。


その沈黙を破ったのは、めぐみだった。


「やっぱりさっき決めたように、播磨からでいい」

「そうだね」


みずきが問う。


「なんで?!もっとハッキングしてスーツの男を暴いた方がいいんじゃ…」


めぐみは淡々と答える。


「スーツの男が誰であり、そこまでして情報を消しているのに、拠点を突き止めるのは容易じゃない」

「でも播磨は違う。弁護士。事件。検察。不起訴。ここは恒一の領域に近い」

「何より、播磨法律事務所という拠点がわかってる」


その通りだ。

言語化され、イメージが湧いてくる。


「二階堂も拠点はわかるけど、市長に直接会うのは至難の業だからね」


消去法で、播磨から調査するしかない。


めぐみは続ける。


「播磨を崩せれば、不起訴ルートの入り口が見えるかもしれない。逆に播磨を崩せなければ、大阪では何もできない」


正しいと思う。

暴力でデポルを一人殺しても、制度が十人逃がす。

なら、その制度に触るしかない。


「…殺すの?」


みずきが聞いた。


「殺さない」


俺は即答した。


「デポルでも、ね。彼がどちらであれ、消したところで替えが用意されるだけだと思う」


どちらだとして、いち弁護士がやるには規模が大きすぎる。

播磨ですら駒だろう。


「じゃあどうするの?」

「証拠を取る。金、通信、人間関係。検察やデポルとの接触」


めぐみが続ける。


「それで逃げ道を潰す」


みずきが手を上げる。


「三日ちょうだい」

「?」


「播磨の事務所、周辺カメラ、通信の入口。全部は無理でも、入口くらいは探す」

「危険だ」


「知ってる」

「逆探知されたら?」


「その前に切る」


即答。


俺は少し黙った。

みずきは使える。

だが、場数が足りない。

危機感が薄い、というより理解しているようで、できていない。

自分の置かれている状況に。

既に住所は割れている。

兵隊はそこいらにいる。


(今この瞬間に襲撃に遭ってもおかしくはない)


覚悟はある。

怒りもある。

技術もある。

だが、焦っている。

熱くなる。

それはリスクだ。


(みずきの暴走にも気を配らなければならない…諸刃の剣だ)


「…ん?」


画面をもう一度よく見る。


播磨法律事務所の入居するビル。

エレベーター前。

スーツの男が立っている。

防犯カメラの角度が悪い。

顔の半分しか映っていない。

だが。

その輪郭。

姿勢。

肩の力の抜き方。


(……見覚えがある)


心臓が、わずかに跳ねた。

どこで見た。

徳島。

山中。

集落。

暗闇。

軽い声。


『君、しぶといね』


記憶が、遅れて繋がる。


「……まさか」


カメラの映像を見る限り、敬われている感がある。

もしかすると播磨より偉いのか。

そうなると——


めぐみが画面を見つめる。


「知ってる人?」

「…どうだろう」


名前は出さなかった。

まだ、確信ではない。


だが。

背筋の奥に、嫌な冷たさが走る。

大阪は、こちらを見ている。

いや——少なくとも、こちらを見ている奴がいる。


スーツの男が本当に”奴”なら、やりようはある。

「一枚岩ではない」と言っていた。


なら次は——

こちらが見る番だ。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです( ^ω^) #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公
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