第34話:監視者_ 選別都市大阪編①
第二章、選別都市大阪編、開幕!( - `ω - )
物語の核となるこの章。
大変楽しみである( - `ω - )
ーー大阪:難波駅
人。
人。
人。
「……相変わらず多いな」
思わず口から漏れた。
徳島とは空気が違う。
駅構内を埋め尽くす足音。
電子音。
広告。
怒鳴り声。
知らない外国語。
全部が混ざり合い、耳の奥で反響している。
視線を上げれば、大型モニター。
横を向けば監視カメラ。
この街は、人を見ている。
「酔った?」
隣を歩くめぐみが笑う。
短くなった金髪。
肩にかかる程度。
以前よりも、大人びて見えた。
「…まぁ」
そう答えながらも、少しだけ息苦しい。
人が多い。
つまり——
隠れやすい。
デポルにとって。
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事務所は難波から少し離れた雑居ビルだった。
二階が事務所。
そのフロアを全て借りきり住居とする。
彼女たちにも部屋を貸し与えた。
極力近くに置くためだ。
ビジネスが大きくなった際に、住居スペースを徐々にオフィスに戻していく。
少し楽しみではある。
そして--
見方を変えれば、一つ屋根の下。
美少女たちとの同居生活の始まりだ。
と、ハーレム主人公なら願ってもない状況だが、俺はそうではない。
守れるか、守れないか。
生死がかかっている。
楽観視はできない。
それほどの余裕はない。
オフィスを歩き回るみずきが口を開く。
「……準備早くない?」
「三年間、大阪通ってたしね。準備は進めてた」
すでに回線も設備も整っている。
最低限の家具。
パソコン。
モニター。
資料。
法律書。
ホワイトボード。
生活感は薄い。
めぐみとともに窓の外を見る。
「……大阪って感じ」
(俺は目に入るあの事務所に見覚えしかない)
そう。
あの女。
水谷ひとみ弁護士事務所だ。
これから連携がより一層取りやすいよう、近くに構えた。
というより構えさせられた。
ツテがあるからということで、格安で借りることができた。
(怪しい…)
あの女には、世話にはなっている。
しかし、″味方″か、と言われれば首を傾げてしまう。
ひとまず、″仲間″という認識ではいるが、全面的に信用はできない。
ふと下を見る。
狭い路地。
違法駐輪。
ゴミ袋。
雑多な看板。
そして——
雑居ビルの一室に並ぶ、外国人観光客向けの案内板。
「民泊かな」
「違法っぽいね、何も掲げてない。」
みずきが苦笑する。
「この辺、結構グレー多いよ。調べたら」
グレー。
その言葉が妙にしっくり来た。
白でも黒でもない。
見えているのに、見逃されている。
この街そのものみたいだった。
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夜。
ひと通り荷物の片付けが済んだ。
みずきがノートパソコンを睨む。
大量の画面。
地図。
防犯カメラ。
ニュースサイト。
「大阪、監視カメラ多すぎ」
「徳島なんかカメラあったっけ?」
「でも、その分」
みずきがニヤっと笑う。
「穴も多い」
頼もしい。
一年で、ここまで変わるとは思わなかった。
一部のカメラならハッキングして、映像を映し出せる。
足もつかないのだという。
(…本当なのだろうか)
懸念はあるが、ネットワークの脆弱性をつけるものは多いらしい。
その時。
一つの画面で手が止まる。
「……ん?」
空気が変わる。
「久世くん」
画面を拡大。
路地裏。
女が囲まれている。
映像が荒いが…
三人。
肌。
ドス黒く見える。
「デポルかな」
みずきが頷く。
「恐らく…これが本物…」
高校の事件以来、二度目のデポルとの接触。
(身に沁みてわかってきたか。平気で犯罪を犯す奴らが近くにいることに。)
めぐみが注視する。
「…動き方が妙」
画面を切り替える。
別角度。
囲んでいる。
だが——騒いでいない。
静かすぎる。
「……慣れてる、のか」
思わず呟く。
暴れるというより、“処理”している。
それが気持ち悪かった。
「行く?」
めぐみが問う。
俺は短く答えた。
「…もちろん」
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大阪の夜は明るい。
なのに、少し路地へ入るだけで暗い。
ネオンの光が届かない。
湿った臭い。
酒。
煙草。
生ゴミ。
その中に混ざる、血の臭い。
「……映像通り、三人」
相手もこちらに気付く。
だが、徳島の連中と違った。
笑わない。
騒がない。
ただ——観察している。
そして何より不気味なのが——
まともな服を着ている。
返り血だらけの小汚い布切れではなく、
ブランドもののジャージ。
ジャケットにジーパン。
襟のついたシャツにチノパン。
(……なんだこいつら)
本能的な恐怖とは別の寒気。
「お前ら、何者だ」
一人が口を開く。
日本語は自然だった。
「それ、こっちの台詞だろ」
三人とも首元と腕がドス黒い。
しかし、感情を制御し、自ら変色しているような感覚がある。
そして、彼らの十八番。
サバイバルナイフの登場だ。
そこは変わらないらしい。
こちらも特殊警棒とナイフを抜く。
その瞬間。
相手の視線が変わる。
「……なるほど」
小さく呟いた。
まるで。
“理解した”みたいに。
次の瞬間。
一斉に動く。
速い。
連携。
無駄がない。
「ッ——」
頬を掠める。
重い。
徳島のデポルみたいな雑さがない。
狩り慣れている。
(あぶな…こいつら強い)
だが——
「みずき」
通信。
『カメラ、四十秒なら切れる』
(短くない?…結構不安)
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「……痛ぇ」
壁に寄りかかる。
頬が切れていた。
肩と腹に打撲。
警棒とナイフには血。
足元には、這いつくばったデポル。
通信音が入り、めぐみが息を吐く。
「初日からボロボロ」
「…想定以上だった。これからトドメを——」
ほんの一瞬。
ほんの一瞬の隙をつかれ、三人に逃走を許した。
(…まじかよ。反応できなかったぞ)
幸い女性は無事だったようだ。
三人のデポルの意識が俺に向いた途端、女性は駆け出していた。
見事なスタートダッシュだった。
それくらいでいい。
でなければ、この街では生き残れない。
みずきからの通信。
「……ねえ」
声が少し低い。
「さっきのデポルたち、“普通″に馴染んでなかった?肌の色以外」
その違和感は当然覚えた。
確かにドス黒い肌、代名詞のナイフは所持していた。
デポルかどうかより、大阪のいち不良に近いと感じた。
(…であれば、人じゃねえか)
毎週末、大阪には来ていたが、変化が早く感じる。
ここまで、あいつらは人に馴染んでいるのか。
これでは……
口にしていないが、戸惑いをよそに代弁者が語る。
「……大阪、思ったより終わってるかも」
めぐみが呟く。
遠くでパトカーの音。
だが近付いてこない。
誰も見ない。
誰も触れない。
見えているのに。
この街は、無視する。
・
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事務所へ戻る。
めぐみはシャワー。
みずきはパソコン。
俺はソファにもたれ、天井を見ていた。
(…強かった。そして倒しきれなかった)
疲れているはずなのに、眠気が来ない。
頭の奥に、あいつらの顔が残っている。
——“理解した”みたいな目。
まるでこちらを知っていたような。
その時。
みずきが声を上げる。
「……え?」
振り返る。
画面。
監視カメラ映像。
数秒前まで消していたログ。
そこに——
こちらを見上げる男の顔が映っていた。
知らない男。
スーツ姿。
男はカメラ越しに、笑っていた。
「……見つけた」
小さく。
そう口が動いた気がした。




