第31話:久世くんに魔法を与えよう
ーー天界
メル「よし、久世くんに魔法を与えよう」
女神たち「賛成!!」
少し席を外していたらこれだ。
久世が集落でピンチに陥っていた時、
天界では、久世をどうするかで勝手に揉めていた。
アステリア「なあ」
メル・女神たち「はい!」
アステリア「これ以上、久世に干渉するなら手段を選ばない」
女神たち「……」
圧に押され、女神たちは一人、また一人と消えていく。
残ったのは——メルだけだった。
メル「アステリア様は、久世くんが死んでもいいんですか?」
アステリア「よくはない。だが、それはあいつの運命力の問題だ。強い人間は、いかなる状況でも生き延びる」
メル「それは……主人公補正と魔法や剣があったからでしょ」
アステリアは小さく息を吐く。
アステリア「現代において、記憶を持ってやり直せる。それだけで十分すぎる“魔法”だ」
そして視線を細める。
アステリア「……お前、なぜそこまで久世に執着する」
メルは笑った。
メル「好きになっちゃったんです!」
アステリア(違うな)
アステリア「お前——」
メル「アステリア様、私、本気なんです!」
声が強くなる。
メル「絶対に死なせたくない。でも、これ以上やると怒るでしょ?だから——」
一瞬。
メル「“私も”協力者を使います」
消えた。
舌打ちする。
(すでに仕込んでいるくせに)
そして、もう一つ。
(私の協力者にも気付いている)
面倒だ。
そして、厄介なのは性格。
欲しいものは何としてでも手に入れる。
そして飽きては壊す。
「……歴代史上、最悪の女神」
軽く頭を押さえる。
「ただの暇つぶしのはずだったんだがな」
ため息が落ちた。
ーー徳島・久世自宅兼事務所
通信を切られた。
「……久世くんに、通信を切られた!」
静かに言った後、机を蹴る。
「……ふざけんなよ!」
あの場で、全部話した。
覚悟も見せた。
それでも——切った。
(……一人でやる気だ)
許せない。
行くか、と立ち上がりかけた時——
『やめておけ。もう同じ場所にはいない』
声。
アステリア。
間髪入れずに確認する。
「遠隔で魔法、飛ばせない?」
一瞬、沈黙。
『できる。だが——寿命が削れる』
「知ってる」
『一秒十五年だ』
少しだけ迷う。
「…やる。方法は?」
短く答えた。
時計に触れる。
祈る。
ただひたすらに。
バチッ——
焦げる匂い。
視界が揺れる。
膝が崩れる。
『これで二十五年だぞ』
声が遠い。
『……わかっているのか?長くはないぞ』
「いいよ」
息が浅い。
「助かるなら、それでいい」
『……ああ。恐らくな(こいつも…壊れてる)』
意識が沈む。
ーー朝
扉の音。
「……ただいまー……」
その声で目が覚めた。
視線を向ける。
血。
傷。
壊れた身体。
(……)
一瞬で理解する。
——こいつ
立ち上がる。
近づく。
そして——
殴る。
「——ッ!?」
もう一発。
もう一発。
「私も一緒に戦うって言ったよね」
殴る。
殴る。
拳が痛い。
でも止めない。
「なんで勝手に死にに行くんだよ」
声が震える。
ようやく手が止まる。
息が荒い。
「……病院行くよ」
「……はい」
治療後。
ーー自室
加藤は腕を組む。
「全部話せ」
逃がさない声。
久世は少しだけ目を伏せ、話し始める。
奪われたもの。
デポルという存在。
そして——
「法で殺す」
その一言で、部屋の空気が変わる。
総理大臣になる?
法律を変える?
極刑にする?
全部。
静かに、淡々と。
現実として語る。
私は黙って聞く。
最後まで。
沈黙。
長い沈黙。
——狂ってる。
まず最初に浮かんだのは、それだった。
総理大臣。
法改正。
極刑。
どれも現実離れしている。
でも——
(この人は、“できる前提”で話している)
願望じゃない。
妄想でもない。
手段として、そこに置いている。
(……だから厄介なんだ)
私は黙って聞く。
最後まで。
——そして、理解する。
(……なるほど。だからこの人は“助けを拒否した”んじゃない)
(“切った”んだ)
(邪魔になると判断して)
(私を——いつでも切るつもりでいたんだ)
「……腹立たしい」
ぽつり。
「……本気でやるつもりなんだ、バカじゃないの」
「やる。俺の行動は全てそのためにある」
迷いがない。
それが一番厄介だと理解する。
天井を仰ぐ。
この男は止まらない。
(なら——)
視線を戻す。
「……一つだけ」
久世「?」
「次、通信切ったら——殺す」
静かに言う。
冗談じゃない。
「私はあなたの“協力者”。そしてもう他人事じゃない。私も個人情報を握られてる。勝手に一人で完結しないで」
久世は一瞬だけ黙る。
そして——
「善処します」
「善処じゃなくて、やれ」
短く言い切る。
その後、無理やり「はい」と言わせ、彼は眠りについた。
体力の限界だったのだろう。
私はそれを見下ろす。
(この人は——)
化け物だ。
久世が眠るベットに腰掛ける。
酷いケガ。
酷いクマ。
思い詰めた寝顔。
これが17歳の高校生なのか。
デポルを根絶することしか考えていない。
そして私も渦中の人物となったわけだ。
でも、それは構わない。
これで、彼と共に戦う大義名分ができた。
(…彼は私が死なせない)
それは——守るためじゃない。
彼に使った″二十五年″
それに後悔はない。
(この男は、まだ壊れきれていない)
なら——
(壊れるまで使う)
私が、この暴力を完成させる。
野望を叶えさせる。
それが私の役目だ。
久世の横顔を見ながら、ゆっくりと目を閉じた。




