第29話:狂気の証明_ 徳島侵蝕編⑦
徳島侵蝕編、終了まであと2話。
ーー徳島・山中_集落
全身が痛む。
頭がぼやける。
(…ということは、まだ死んでいないのか)
冷静に分析していく。
頭部からの出血。
止まっている。
右拳。
砕けている。
左腕、両足。
力は入る。
その他はわからない。
そして——拘束はされていないが、地面に這いつくばっている。
袋叩きにされてから、どのくらいの時間が経過したのか。
カツン、カツン、カツン——
階段を降りる音。
(革靴か?...真壁)
ドアが開く。
真壁、デポルの十数名が這いつくばる俺の周りを取り囲む。
「…君、しぶといね」
「そ…れだけが、と、取り柄なんで…ね」
口が乾いてうまく話せない。
痛み、空腹。
思考がまとまらない。
真壁
「よし、一つゲームをしよう」
「君が勝ったら、君と君の大切な人たちを救える」
「負けたら、死ぬ。シンプルだろ?」
(…)
「端的に言うよ。ここにいる十六名のデポルには、君が”シマ荒らし”だとバレている」
「そして——君のお仲間、加藤ベアトリクスめぐみ、水谷ひとみ。」
(…はぁ.......またか)
「彼女たちが君の協力者であることも、すでにわかっている」
「君が負ければ、彼女たちがどうなるか——わかるよね?」
久世「…いーや、わから…ないです…ね。はっきり、教えて…ください」
真壁「…君も悪趣味だね。犯され、奪われる。命を。それが、僕たちデポルの日常なんだ」
デポル「ウオオオオオオオオ!!!アノオンナタチ、オレタチノモンダ!!」「ギャハハハハ!」
ボトン。
コロコロコロ。
ペットボトルの水が放り投げられた。
真壁「飲みなよ。説明をするよ。至って簡単だ」
(...毒、が入っていても、飲むしかない)
「ここにいる全員を殺すんだ。それができなければ、君もお仲間も死ぬ。彼女たちは凄惨な最期を迎える。」
ゴクゴクゴクゴク。
(はぁ、生き返る)
デポル「エッ?マカベサン…オレタチ——」
真壁「そうだ。無能な部下はいらない。死にたくなければ、彼を殺せ」
デポル「…..オオオォォォォ!!コロスコロスコロス!!」
地下倉庫のような場所。
窓はなく、光は小さな電球一つのみ。
出口は、ドアが一つだけ。
「俺が死ねば、加藤とひとみが死ぬ、か」
あえて事実を口ずさむ。
怒りが込み上げてくる。
現状にだけではない。
あの時の夜。
俺が無様に殺され、冴子さんも殺された。
きっと今、真壁が言ったように。
「….ふふふ。はは、ははははっははは!!!!あっはっはー!ギャハハハハ!!!!」
笑いが止まらない。
父から逃げ、虐待から逃げ、たどり着いたのは、凄惨な死。
好きになった人を守れなかったという絶望、後悔、罪悪感。
なんの因果か、人生をやり直せた。
にも関わらず、何も変わらないこの現状。
おかしい。
笑わずにはいられない。
真壁(こいつは油断ならない。ブラフか。策があるのか。)
デポル「コワレチマッタゼ、コイツ!」「ブチコロスマエニ、ケツアナショジョ、イタダコウゼ」「ソレハ、オマエダケノ、シュミダロ」「ワハハハハハハ!!」
水分が染み渡る。
右拳以外は、動かせる。
視界もはっきりしてきた。
——研ぎ澄まされる。
(あの時の感覚。全身に電気が走るような...火事場の馬鹿力)
久世「動ける。多分、少しなら」
真壁(...何か、来る!)
足元に落ちていたレンガを拾い、照明にぶつける。
瞬時に広がる闇。
(狙うは左側のデポル。何故なら——)
「…ナイフを持っている」
「ウオッ?!」
右肘で目を狙う。
ドカッ!
カラン!
「ウワァァァァ、メガアアアァァァァ」
落ちたナイフをすかさず拾い、突き刺す。
的が大きい腹部へ。
二回。
一人、二人、三人。
次々に刺す。
「ナンデ、アイツダケ、ミエテルンダ!!」
真壁(確かに…まさか、目が覚めてから——)
久世(片目はずっと閉じていた)
だから見える。
ぼんやりでいい。
十数人。
多勢に無勢。
だが、相手は何も見えない。
デポル「トビラヲ、アケレバ!!」「バカ!ヨセ!」
開かれた扉から、部屋の三分の一の位置関係が照らし出す。
久世「一、二、三、四、、、五」
真壁「…!人間の…動きではない…」
踏み出した一歩で数メートルの距離を詰める。
左手に構えたナイフ。
予め、引かれたルートをなぞるように。
頸動脈を最短距離で。
ザシュ。ザシュ。ザシュ。
肋骨の下。
肝臓、腎臓、胃、大腸。
授業中落とした”彼女”の消しゴム。
それを拾って渡すように優しく突き入れる。
ドスッ。ドスッ。
デポル「マ、カベ…サ——」
プシューーーー….
デポルの頸動脈から勢いよく血液が噴き出す。
(開いた口が…塞がらない。彼の動きは、人間の動きを超越していた。それに——)
目の錯覚か。
久世の身体の周りを、薄いオーラのようなものが見える。
いや、気のせいかもしれない。
しかし——この状況。
言い訳のしようがない。
(こんなことを狙ってできるのなら、こいつは使える。殺すのは惜しい)
「…グフッ….」
ピチャッ…ピチャッ…
頭から流血。
そして、吐血。
「…ボーナスタイム(火事場の馬鹿力)、、、終…了…か。クッ…ソ」
全身から力が抜ける。
前と同じ。
(...加藤。ひとみ..さん)
膝が折れ、片膝になる。
(前世と同じ。また、、、守れない)
(人生二週目。俺だけの特権。俺だけのやり直し。この傲慢さが、、、俺の敗因)
後悔はより深まり、自分への絶望と憎悪で思考がぐちゃぐちゃになる。
いや——まだ戦える。
前とは違う。
このループから抜け出せない。
「...久世くん。場所を移そう。会わせたい人がいる」
「…殺し合いゲームの最中だったのでは?」
「ああそうだ。しかし事情が変わった。君にとっても悪くない話になると思う」
まっすぐ目を見て話す真壁は、人間そのものに見える。
(勝手なやつ。しかし——これ以上は俺も…)
「…いいでしょう。」
俺の返事を聞き、どこかに連絡をしている。
意識が朦朧とする。
身体中が痛い。
今にも意識が飛びそうだ。
車である場所に向かうと言う。
車に揺られながら、更なるピンチなのでは?と冷静に考えていた。
だが俺は、身体が動かないことを言い訳に、ただただ揺られることを選択した。
徳島侵蝕編、次回で最終話。




