第27話:日常_徳島侵蝕編⑤
ーー田中フェーズ
徳島。
過疎地域。
集落。
カーテンの隙間から、光が差している。
「……」
目を開ける。
知らない天井。
だが。
(……チガウナ)
怖くない。
先日の、闇夜の海とは違う。
(……ココハ、アンゼンダ)
「起きた?」
声。
振り向く。
女がいる。
自然な笑顔。
だが。
(……オナジダ)
匂いで分かる。
デポル。
「水、置いといたよ」
女は、テーブルの上を指す。
「今日もゆっくりしていいって」
断片的に思い出す。
暗い海。
揺れる船。
岸。
誘導。
(……マダ、ヘイワナ、イマニナレナイ)
女は淡々と続ける。
「書類はもう通ってるから」
一拍。
「田中拓海。名前、ちゃんと覚えてる?」
(……ソウダ)
思い出す。
言われていた。
戸籍は用意する。
名前も渡す。
「前の持ち主のことは、考えなくていいから」
女は、何でもないことのように言った。
(タナカ……タクミ)
口には出さない。
頭の中でなぞる。
(オレノ、ナマエ)
違和感は、なかった。
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市街地。
昼。
人間が行き交う。
車。
店。
音。
「この辺は自由に使っていい。金があれば、喋らなくても生活できる」
女が横で言う。
「シゴト、ハ?」
「しなくても問題ない。補助金が出るから」
(……ヒツヨウナイ)
生きる手段は、別にある。
「困ったらさ」
女が軽く言う。
「奪えばいいし」
笑う。
当然のように。
(……ソウダナ)
「それに、私たちに対する法律なんてないし」
「ホウリツ?」
「そう。デポルを裁く法律も、デポルが何かした時の法律もない」
女は、冗談のように笑った。
「いい国だよね」
(タシカニ……オオサカデハ、ダレモ、ケイムショニ、イカナカッタ)
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スーパー。
明るい店内。
商品が並ぶ。
肉。
魚。
野菜。
(……オオイ)
視線が動く。
人間。
財布。
隙。
(……アル)
近づく。
ぶつかる。
取る。
それだけ。
気づかれない。
(……カンタン)
罪悪感は、ない。
(オレガホシイカラ、ウバウ)
普通のことだ。
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住宅街。
夕方。
家々。
笑い声。
(……フツウダ)
足を止める。
(……ココデ、フツウニイキル)
急ぐ必要はない。
奪うのも。
隠すのも。
全部、許されている。
少なくとも、そう教えられている。
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集会所。
夜。
数人。
同じ匂い。
「どうだった?」
「……フツウ」
「だろ?」
笑い声が起きる。
「ここは楽園だよ」
「本土よりな」
別のやつが言う。
「人間、鈍いし」
「本土にいたら、シマ荒らしにいつやられるかわかんないからな」
また、笑い声。
軽い空気。
(……イキヤスイ)
誰かが口にする。
「この辺は真壁さんが抑えてるからな」
(……マカベ)
「上とも繋がってるし」
「しばらくは安泰」
頷きが、いくつも返る。
「受け入れも増えてるしな」
(……フエテル)
問題ない。
むしろ、歓迎されている。
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外。
夜。
風。
ポケットの中。
昼に取った財布。
開く。
(……タリテル)
満たされる。
(……ココハ、イイ)
名前がある。
場所がある。
奪っていい。
法律もない。
(……フツウニ、イキラレル!)
遠くで、犬が吠える。
一瞬だけ、胸がざわつく。
(……?)
すぐに消える。
(キノセイダ)
気づかない。
同じ夜。
似た場所で。
同じ数だけ。
仲間が消えていることに。
(オレハ、ココデフツウニ、イキル)
そう思ったまま。
田中拓海は、夜に溶けた。




