第23話:予兆_徳島侵蝕編①
新章開幕!
ーー久世フェーズ
防縁高校。
放課後。
「……こんな感じで作ってる」
立花みずきが、ノートPCをこちらに向ける。
シンプルな構成。
無駄がない。
俺は軽く頷いた。
「いいと思う。かなり。これ、WordPress?」
「そう。大したことじゃないよ」
「収益は?」
「アフィリエイトで、少しだけ」
一瞬、間が空く。
「祖父母と暮らしてるから、生活の足しにしてる。育ててもらってるから、返したくて」
あの事件以来、ようやくまともに会話ができた。
助けられたから、何か返したい。
ただ、それだけの動機。
「仕事として依頼したい」
「え?」
「ホームページ制作の会社をやってる。業務委託で制作依頼するよ」
「……いいの? お礼がしたくて話したんだけど」
一拍。
「一件ごとに報酬を出す。最低三万、上は七万」
「……えっ?! 高校生に、そんなに? 高校生が?」
「出すよ。それだけの価値がある。できれば継続的なお付き合いを所望する」
短い沈黙。
「……やる」
立花は、頷いた。
(これで二人)
めぐみ。
みずき。
在学中での戦力確保は完了。
(これで大阪と徳島、両方自由に動ける)
その時、教室の端で集まっているグループの会話が聞こえてきた。
「なあ、聞いた?」
「まただって。失踪」
「どこの?」
「徳島。山の方とか」
「この前もなかった?」
「ある。漁師も消えたとか」
どこか他人事の空気。
だが。
(……多いな)
消えているのは、大人だけ。
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自宅兼事務所。
机に広げられた新聞。
失踪記事が、いくつも並んでいる。
めぐみが口を開いた。
「偏ってるね」
「何が?」
「場所。山、海、過疎地域」
紙面を、指でなぞる。
「目立たない場所ばっかり」
俺は頷く。
確かに、住所的に過疎地域ばかりだ。
沈黙。
(……全く気づかなかった)
思考を巡らせ、電話をかける。
数コール。
「ちょっす!」
「ひとみさん。徳島の失踪、把握してますか」
少しの間。
「おっ。よう気づいたな。久世のくせに」
声色が変わる。
「増えてますよね」
「増えとるな。しかも場所がいやらしい」
「山と海の過疎地域ばかり」
「せや。人目につかへん。やるやん、久世のくせに」
短い沈黙。
ひとみが続ける。
「……あれな、“抜いとる”で」
「何を?」
「戸籍や。人消して、別の奴が入っとる」
俺は目を細める。
「そんなことできるものなんですか?何を根拠に」
「私の情報網は広いんや。数は数十単位らしいで」
一拍。
「あなたは、なんでも知ってますね」
「そりゃそうや。お前も弁護士続けてたら、分かるようになるんちゃうか」
引き続き情報収集するとのことで、電話は切られた。
(この女、信頼はするが信用はしない。だが、今は利用する)
それにしても、これは侵蝕だ。
前世では、こんなにもデポルの動きは活発だったのだろうか。
俺はこの時期、高校野球をやらされていた。
そして家では、父の暴力に怯える日々。
それがなくとも、ニュースなど見ていただろうか。
(それとも、俺の行動が徳島に押し出したのか)
大阪で狩りすぎた影響。
押し出された先が、徳島。
息を吐く。
視線を上げると、めぐみがこちらを見ていた。
何も言わない。
ただ、観察している。
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ーー真壁フェーズ
徳島県庁。
知事室。
夜の街を、一人の男が見下ろしている。
徳島県知事。
井口おさむ。
その背後に、もう一人。
「報告です」
静かな声。
「例の対象、確認できました」
井口は振り返らない。
「……確定か」
「はい。“久世恒一”という高校生です。彼が、大阪の“シマ荒らし”の犯人です」
井口は顔色を変えず、短く息を吐いた。
「何人やったんだ?」
「大阪、徳島含めて、百名弱というところです」
井口が振り向く。
「一人でか?」
「はい。確認できている限りでは」
短い沈黙。
「田舎の高校生が、一年も経たずに、デポルを百名近く殺して回っているのか」
(狂気だな)
井口の視線は、再び街へ向かう。
「排除しますか?」
「いや、いい。それより、シマ荒らしが“久世”であることを知っているのは?」
「知事と私だけです」
「よし。それでいい。引き続き泳がせろ」
「はい、承知しました」
「それと、二階堂側からの偵察は続けろ。向こうには、まだお前の首輪が二階堂にあると思わせておけ」
「承知しています」
もう一つ、報告を重ねる。
「それと、関西からの受け入れは順調です。例の戸籍も」
わずかに間。
「問題なく“使えてます”」
井口は小さく頷く。
「よし。数は力になる。票にも、な」
それ以上は何も言わない。
この人は、どこまで先を見据えているのか。
それに。
(この高校生、放置していい存在ではないと思うが)
井口おさむは、何も語らない。
ただ。
街を見下ろしていた。




