第22話:観測者
時は久世が倒れた直後。
ーー防縁高校:教室
悲鳴。泣き声。血の匂い。
床に転がる生徒。動かない異形。いや”異色”と呼ぶべきか。
(ああ、やっぱりこうなるんだ)
私は、久世くんが倒れる瞬間を、最後まで見ていた。
「……任せる」
血を吐きながら、彼はそれだけ言った。
(任せる、か)
普通は、無理だと思う言葉。でも私は——
(ああ、任せてくれるんだ)
ほんの少しだけ、嬉しかった。
今更、教員がやってきて狼狽えている。
「先生、救急車呼んでください」「え、あ、でも——」
「今すぐです。出血量が多いですから」
彼ならどうするか。
指示は簡潔に。迷わせない。
(この人は助かる)
理由はない。ただ、そう判断した。
私は警察に要点を伝えて、久世くんの止血をする。
「使ってないハンカチある人は持ってきて!私が全部弁償するから!血が苦手な人は出ててね。」
(残って積極的に止血を手伝う奴は証人として確保しておく。証言は、揃えた方がいい)
誰に教わったわけでもない。自然とそう考えていた。
床に倒れている“異色”を見る。
デポル。
人と同じ形をしている。でも中身は違う。
(……)
それでも久世くんは、迷わなかった。
躊躇なく、殺しにいった。
(……すごい。あれが、本物の“暴力”。人の形をしているのに、迷いなく壊せる。あそこまでやらなければ、守れない現実を——私は初めて見た)
しかし彼を怖い、とは思わなかった。
(人の形をしたものを、あそこまで迷いなく壊せるなんて。やっぱり、この人は——)
畏怖の念を込めて——普通じゃない。
担架で運ばれていく力ない姿をを見ながら、思考を巡らせる。
(あの時の“力”。使った瞬間、脱力感すごかったけど…)
今はなんともない。
本当に寿命十年も取られたのかな。
触れた瞬間を思い出す。
(回復はしていない)
(でも、止血はしていた)
(持続は短い)
(……使い方を間違えたら、彼も私も死ぬ)
口角が自然と上がる。
私は寿命をかけて、彼を強化した。
それを知らなかったにせよ、火事場の馬鹿力が起きたことに変換するとは。
(おもしろい、あの人)
この力は、彼にだけ使おう。
きっと彼の暴力はこれからも止まらないだろう。
常に一緒にいて、サポートするふりをして、間近で見ていたい。
(私もおかしいのかな。寿命が減るのに…)
十年の寿命が減ったはずなのに、どこかすっきりとした気分だった。
ーー病院・廊下
「アンタが加藤めぐみか?めちゃくちゃべっぴんやな。」
振り向く。
関西弁。軽い調子。
「久世のこと、ありがとなぁ。助けてくれて」
(……いやいや、まだ助かってはいない)
まだ、生死の境目にいるはずなのに。
(この人、結果を前提に話してる)
笑っている。
でも——
(目が、笑ってない)
「アンタ、よう的確に動いたな。普通の高校生ちゃうで」
「そうですかね」
「せやで。あんたから聞かせてもらった状況下で、指示飛ばせる奴なんかおらんおらん。」
(観察されている)
「久世くんに任されたので」
「そういえばそうやったな」
(お父さんが言っていた)
——笑顔で近づいてくる年上には気をつけろ
(この人は、そのままだ)
優しそうに見えて、何を考えているのかわからない。
(危ない人。注視しよう)
ひとみは、少しだけ目を細める。
(……こいつ)
血を見ても動じない。状況整理が異常なほど早い。感情より判断が先に来る。
(久世とは違う)
あいつは“衝動”で動く。
(こいつは、違う)
最初から冷静に“選んでる”。
(……こっちの方が、ヤバい奴なんちゃうか?...なぁ、メル。どう思う?)
『…..』
(珍しいな、だんまりか)
(久世くんは“力”。この人は“情報”)
じゃあ、私は——
思考が整理されていく。
間を繋ぐ、流れを作り、”調整”する。
そういう立ち回りをする。
(それが一番効率がいい。それが最適だ)
「……あの人、助かりますよね」
「当たり前やろ。誰やと思ってんねん」
即答。
迷いがない。
(この人も、“確信してる側”)
少しだけ、考える。
目の前の女。
久世くん。
そして、自分。
今後、久世くんとどこまでいくかはわからない。
(——制御しよう)
あの人は、自分では止まらない。
前に進み続ける。
多分、壊れるまで。
そしてこれは私の勘だ。
(この人はきっといつか、久世くんの”敵”になる。そんな気がする)
直感が告げる。
危険信号。
まだ、その時ではないのかも知れない。
しかし油断できない。
(久世くんは本当にこの人を信頼しているのだろうか——)
彼の性格上、そうは思えない。
(…私が壊れないように調整してあげる。久世くんの邪魔をする奴は私が——)
ひとみは、その視線に気づく。
ほんの一瞬だけ。
「……おもろい目しとるな、アンタ」
「おもろい目?」
「せや。気ぃつけや」
(誰に?あなたに?)
まあいいや。
この人は信用しない。
私が間に入って調整する。
(そのほうがきっとおもしろい。)
次話から再び長編。
作品の根幹に当たる部分かも




