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第21話:水面下_捕食逆転編⑧

ーー久世フェーズ


「目が覚めたら、見知らぬ天井だった」

ーーというやつだ。


重い瞼が、ゆっくりと開く。


白い光が、視界を焼く。


身体は重い。


上半身のどこが痛いのかすら判別できないほど、痛覚が散っている。


(今は何時だ。ひとみに連絡は……したはずだ)


思い返す。


デポル。


仕留めきれていない。


加藤。


クラスメイト。


(……どうなった)


思考を巡らせたその時、陽気な関西弁が聞こえてくる。


「おっ、目ぇ覚めたやん」


視界が定まる。


ベッドを囲むように、人影があった。


加藤めぐみ。


水谷ひとみ。


吉田みこと。


吉田さおり。


沢口冴子。


圧迫感がある。


「……美女四人に囲まれて目が覚めるとは。今度は、ハーレム系主人公で人生が始まるのか」


「これだけ軽口叩けるなら、もういけそうやな。で、美女枠から外れた私以外の可哀想な女は誰やねん」


声を出すと、意外に疲れる。


加藤はともかく、なぜ吉田姉妹や冴子さんまでいるのか。


お見舞い、ということはないだろう。


「……で、どういう状況ですか」


「説明したるわ。私の直感で、お前と交流のあった美女たちを集めよ、って天啓がきてな。それでや」


「世間一般では、それを“説明”とは言わないんですよ」


部外者がいるから語らないのか。


語るつもりがないのか。


その空気を、静かに割ったのは冴子さんだった。


「久世さん……今回も、誰かを助けたんですね」


一瞬、空気が止まる。


めぐみ。


さおり。


みこと。


三人の視線が、冴子に集まる。


冴子は、穏やかな声で続ける。


「あの時……私たちを助けてくれた時みたいに」


「あれは結果的に、そうなっただけですよ」


「それでも、です」


声は穏やかで、距離がある。


「私は……あの時、あなたに救われました。命も、その後の時間も」


加藤が、ほんの少しだけ目を細めた。


吉田姉妹の表情も動く。


冴子は、たぶん気づいていない。


「だから今回、ひとみさんに言われて来ただけですけど……来てよかったと思っています」


ほんの少しだけ、笑う。


「ほんの少しでも恩を返せたなら」


左腕に包帯が巻かれている。


冴子だけでなく、彼女たち全員に。


「状況を見るに、わざわざ輸血するために来てくれたのですね」


あの時、守れなかった“誰か”ではない。


過去は切り離している。


冴子は、今ここにいる沢口冴子だ。


「もしまた何かあれば、呼んでください。出来ることなら、協力します」


それだけ言って、冴子は帰っていった。


(さて、かなり疲れた。話すのにも体力を消費するな…)


「……吉田さん、みことさん。お久しぶりですね」


「……久しぶり。相変わらず他人行儀だね。今回はさすがに肝が冷えたよ」


次の瞬間、抱きしめられた。


(小学二年の時も、こんなことがあったな。ある事件の解決後だったか)


「本当に怖かったんだよ」


腕に力がこもる。


加藤は、こちらを見ている。


妙に冷静な目だった。


吉田さんは、タイミングが合わず狼狽えている。


「何やお前、ええ女おったんか。それやのに冴子、冴子言うて。一生懸命頑張って動いてたのに、別の男に取られてガックリきてたくせに! ハハハ!」


いつも通り、ひとみ節が炸裂している。


当然、無視するつもりだった。


「久世くんは!」


俺のいつもの選択とは裏腹に、吉田さんの声が、病室に響いた。


すぐに、少しだけ抑えた声に戻る。


「……違います。彼は、損得勘定より、自分の正義を貫きます」


「……ほう。正義……ねぇ」


「今聞いた冴子さんの話や、大怪我した今回も、いつも誰かのために戦ってボロボロになっています。久世くんは、そういう人です」


少し震えた声で、さおりさんは俺に向き直る。


「久世くん……あの時、助けてくれた時に言えなかった言葉があります」


「はい」


「助けてくれてありがとう。あの時すぐ言えなかったのは、暴力を目の当たりにしたから。ただ、ずっと怖いと思っていたわけじゃなくて、その……タイミングが……」


「分かった。ありがとう。それが聞けてよかったよ」


本心ではある。


彼女が俺を怖がった。


その後、俺はよくない表情をしてしまった。


だから、それを気にしていた、というところだろう。


しかし、そんなことはいい。


俺は、あの日に二度目の決心ができた。


その時、″裏テーマ″も出来上がった。


君のおかげで、俺の芯は出来た。


手段は選ばない。


俺は、「鈍感系難聴主人公」ではない。


きっとこの姉妹は、俺のことを好いてくれているのだろう。


しかし、彼女たちとこの先どうこうなりたいとは思わない。


こちらとしても、彼女たちは恩人だ。


そんな人たちを近くに置くわけにはいかない。


大切だと思える人は、いずれ弱点になる。


邪魔になるだけだ。


ひとみが、女たちを眺めている。


その目は、明らかに値踏みするものだった。


「で、この中の誰か好きなの?」


加藤が、まっすぐに聞いてくる。


「おっ! 突っ込むねぇ。ええやん聞かせてーや。全員とか、別に、とかつまらんのはやめてな」


「人としては、みんな好きですよ」


「つまらんねん、そういうのは!」


確かにつまらない。


恋愛だの何だの。


そんなものをやっている余裕はない。


加藤が、こちらをまっすぐ見ている。


まるで、値踏みするかのように。


それも、どうでもいい。


俺だけが、冷めていた。



ーー偵察役フェーズ


病院敷地外。


「定時連絡です」


「ドウダ、ナニカツカンダカ?」


「ええ。ただ、正確性に欠けるので、きちんと分かり次第連絡します」


電話越しの声は、低く湿っている。


「それから、四国進出の件ですが——」


徳島。


高知。


愛媛。


香川。


順番に、四国をデポルの国にする。


理由は明白だった。


人口が少なく、地力が弱いからだ。


関西や関東は人口が多い。


当然、デポルに向かう人間も少なくない。


しかし、四国はそうでもない。


全国の土地柄や人柄を調査しながら検証した結果。


四国は大阪からのアクセスもよく、攻めやすい。


そして、落としやすいと判断された。


俺は端的に内容を伝え、定時連絡を終えた。


ただ、一点だけは伝えなかった。


「久世恒一……ね」


メモ帳に記載した文字列を眺めながら、呟く。


初めて見る名前ではない。


ただの高校生ではない。


今回の件。


そして、大阪のシマ荒らし。


線が重なりかけている。


まだ確証はない。


だから、報告はしない。


情報は、正確な形で持っている者に価値がある。


上へ流すのは、価値を失ってからでも遅くない。


俺はメモ帳を閉じた。


水面下で、何かが動き始めている。


その中心に。


久世恒一という名前が、沈んでいた。

捕食逆転編 終了。

1話挟んで別編突入します。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです( ^ω^) #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公
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