第18.5話:盤上の干渉者_閑話
ーー天界・アステリアフェーズ
久世の意識が途切れた。
その瞬間。
私は、隣にいた女神を怒鳴りつけた。
『おい、メル!』
「はい! アステリア様!」
『お前、何かしたな?』
「誓って、能力は与えてません!」
一拍置いて。
メルは、小さく付け足した。
「久世くんには」
『やっぱり、何かしたんじゃねえか』
こいつは信用ならない。
以前から、私が転生させた人間へ勝手に干渉している。
しかも。
メルの魔法は、小賢しい。
痕跡を隠すことに長けている。
何を変えたのか、すぐには見抜けない。
『何度も言ったはずだ』
血に沈んだ久世を見下ろす。
『私は、あいつ自身の運命力を見るためにやり直させた』
誰かに与えられた力ではない。
久世が、自分で何を選ぶのか。
どこまで進むのか。
それを見るためだ。
『あいつは、私のおもちゃだ』
メルへ視線を戻す。
『余計なことをするな』
「分かってますって」
メルは、面倒そうに手を振った。
「相変わらず、うるさいなあ。じゃあ、私はこれで」
止める間もなく。
気配が消えた。
完全に、舐められている。
『そろそろ、一度分からせる必要があるな』
静かになった空間で、ひとり呟く。
だが。
今回の行動には、気になる点があった。
以前。
メルは、久世の骨折を一晩で治した。
明らかな干渉だった。
それ以降。
久世へ直接、大きな力を与えた形跡はない。
少なくとも。
今回の異常な強化は、久世自身の能力ではなかった。
なら。
久世のそばにいる誰か。
思い当たる存在は、一人しかいない。
加藤ベアトリクスめぐみ。
(私と同じように、おもちゃを見つけたか)
メルが興味を持ったのは、久世ではない。
めぐみだ。
何を与えた。
何を代償にした。
あの一瞬で、何を混ぜた。
確認したいことは多い。
だが。
メルは、もういない。
あいつには、これまでにも何度も盤面を掻き回されてきた。
しばらくは。
めぐみも含めて、注視する必要がある。
『はあ……』
それよりも。
久世の野郎。
死んでから約十年。
ずっと見続けてきたからだろうか。
わずかに。
情のようなものが湧いている気がする。
だからといって。
運命を直接、捻じ曲げるつもりはない。
久世が生きるのか。
死ぬのか。
それを選び取るのは、あいつ自身だ。
そのはずだった。
だが。
教室の床に倒れた久世を見る。
血は止まらない。
呼吸も弱い。
このままでは、長く持たない。
(今回は、さすがにまずいか)
手を出すつもりはない。
助けるつもりもない。
ただ。
見届ける。
そう決めている。
それでも。
私は、久世から目を離すことができなかった。
その時。
少し離れた場所で。
メルの気配が、一瞬だけ揺れた。
誰かへ近づいていく。
久世ではない。
大阪から徳島へ向かう、一台の車。
その中にいる女。
水谷ひとみ。
(今度は、そっちか)
私は、眉をひそめた。
また。
盤面が、書き換えられようとしていた。




