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第18話:死に際の違い_捕食逆転編⑤

ーー久世フェーズ


前世で死んだ俺は、走馬灯なんて見なかった。


あっという間にデポルに刺され、身体が冷えていく。


痛いのか、もう麻痺しているのかもわからない。


後悔、絶望、怨嗟ーー


視界が暗くなり、音が遠ざかり、やがて鼓動が止まる。


ーー人は、こうやって死ぬ。


それは、想像よりずっと静かで、そして、どうしようもなく恐ろしいものだった。


気がつけば、俺は“やり直し”の中にいた。


過去に戻され、勉強して、鍛えて、デポルを狩る。


楽しいわけじゃない。


だが、狩らなければならない。


狩っても狩っても、満たされない。


全部、消し去らなければ気が済まない。


ーーだが。


その執念も、今この瞬間、終わろうとしている。


あの時と同じ。


デポルに刃物を突き立てられ、虫の息。


(……はあ。だから嫌なんだよ)


一番許せないのは、自分だ。


弱くて、未熟で、傲慢でーー


やっぱり、弱い。


(今度こそ、これで終わりか)


口の中に血の味が広がる。


あの時と同じ感覚。


「……上等!」


(……誰かの声?)


そう思った瞬間。


頬に、鋭い痛みが走った。


「……っ!?」


加藤に、思い切り叩かれていた。


その直後、右手が俺の身体に強く押し当てられる。


(“死体に鞭打ち”を体現するとは……おもしれー女)


思わず、口角が上がる。


こんな状況で、笑えるとは思わなかった。


次の瞬間。


心臓が、大きく跳ねた。


(……!?)


血が巡る。


流れが、速さが、全部わかる。


出血すら、収まっている。


(……きた! これは間違いなくーー)


「……これが“火事場の馬鹿力”ってやつか」


(いや、今風に言えば、“ゾーン”か)


名前なんてどうでもいい。


身体が、動く。


それだけで十分だ。


(動けるなら、やることは決まっている)


「ありがとう。続きは俺がやる」


加藤を見る。


その表情に、一瞬だけ思考が止まる。


ーー恍惚。


中学の頃、助けた少女がいる。


彼女は、俺の暴力を目の当たりにし、怯えた表情を浮かべていた。


俺はそれが普通だと思った。


人が人を殺そうとしているのを、間近で見せられたのだから。


(彼女は……彼女たちは元気だろうか)


いや。


今は、それどころではない。


彼女とは違い、こいつはーー


俺の暴力に、見惚れている?


(……怖いな)


雑念を振り切る。


やることは一つ。


まずは状況整理。


殴り飛ばしたデポルはまだ動かない。


椅子で叩き潰した連中は、立ち上がりかけている。


「よし……一番弱そうなあなたから」


右拳を叩き込む。


「えっ?」


次の瞬間。


相手の身体は、教室の窓を突き破り、廊下の壁に叩きつけられていた。


静まり返る教室。


全員が、俺を見ている。


(うん。その怯えた顔は、さっき思い出していたよ)


もう慣れている。


しかし、奴は違う。


振り返ると、加藤はーー


恐怖ではなく。


理解でもなく。


ただ純粋に、俺の暴力に見惚れていた。


「……どちらにせよ、今が削り時だ」


ナイフを持った小柄な目出し帽が突っ込んでくる。


全部、見える。


視線。


重心。


刃の軌道。


背後の気配。


「まずは君から」


背後の長い髪の目出し帽に蹴り。


返す足で、小柄な目出し帽の腹を抉る。


振り返り、長い髪の目出し帽の頭を机に叩きつける。


一度。


二度。


三度。


「やめろーーーーー!!」


投げられたナイフが、空気を裂いて飛んでくる。


それを掴み、そのまま投げ返す。


小柄な目出し帽の脚に突き刺さる。


距離を詰め、腹は蹴りを入れる。


足先に、骨を砕く重い感触が返ってきた。


肋骨が折れる感触。


ーー三人の処理が完了した。


そして。


デポルが立っている。


「ふぅ、お待たせしました」


「ダマレ!! コロシテヤル!!」


「宣言せずに、さっさとやればいいじゃないですか」


「ウオォォォォォ!!」


咆哮と同時に突進。


ーー遅い。


(ゴミ屑が!)


最短で踏み込み、拳を腹に叩き込む。


「硬い……が、これは初めてじゃない」


削る。


避ける。


叩き込む。


確実に削れている。


(このまま!)


その瞬間。


腹のナイフが引き抜かれる。


血が溢れる。


間髪入れずに、下腹部から胸にかけて切り裂かれた。


(……痛覚が鈍化しているのか。痛くはない)


だから止まらない。


拳。


肘。


膝。


脛。


これまで、デポルを壊してきた俺の武器でラッシュをかける。


「これで、ラスト!」


蹴り上げた右足が、デポルの首に直撃している。


骨までは折れなかった。


だがーー


デポルは白目を剥いて崩れ落ちた。


「……はぁ、はぁ……」


(……ここで、殺しきらなければ)


思いとは裏腹に、身体が冷える。


一気に。


火事場ボーナス馬鹿力タイム”が終了することを意味した。


「あ……れ」


視界が揺れる。


倒れる。


痛みは、遠い。


声が聞こえる。


加藤。


山上。


クラスメイト。


(……うるさい)


前世は一人で死んだ。


今回は囲まれて死んでいくのか。


(……誰が死ぬか)


こんなところで。


こんな雑魚一匹削りきれずに。


(俺の物語は、全部消すまで終わらない。使えるものは、全部使う)


「俺の……」


「どうした久世!?」


「けい……たい」


「探せ!!」


ぐちゃぐちゃの教室で、皆が携帯を探す。


瀕死の俺を放置して。


(……シュールだ)


「あったぞ!」


履歴を開く。


コール。


「はい、今忙しいから後にして、切るでー」


「貸したものを……」


「……何?」


「いつぞや……助けた……恩を……返せ…」


(あんたなら、短い言葉でも汲み取れるだろ)


「わかった。言え」


「高校に……デポル……暴行……事件」


「……弁護依頼やな?」


「……ええ。それと……」


「他は?」


「報道規制……」


短い間。


「引き受けた。今からそっち行く」


「……俺の処遇は……加藤……めぐみに……託す」


それだけ伝え、俺の意識は飛んだ。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです( ^ω^) #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公
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