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第120話:下剋上②

ーー久世フェーズ


スタジオは静まり返っていた。


カメラ。


照明。


観客。


誰一人として声を出さない。


それもそうだ。


指名手配された男が。


血塗れで、爆弾を連想させる物をつけている。


ここまでは作戦通り。


もちろん、めぐみの。


俺は高宮を見たまま口を開く。


「高宮総理」


「俺はここへ、あなたを責めに来たわけじゃありません」


スタジオがざわつく。


同時に勢いよく扉が開く。


黒いスーツ。


無表情。


三橋だった。


「総理」


軽く頭を下げる。


「遅くなりました」


俺は笑う。


(馬鹿が。初手からミスったな)


「紹介します」


「この男が三橋さんです」


「ここ数日、俺を殺そうとした人です」


乾いた笑い。


戸惑いの声。


誰も信じていない。


俺は続ける。


「右腕」


包帯を巻いた右肘を見せる。


「右目」


顔を上げる。


「これも彼が送り込んだデポルによってやられました」


三橋は鼻で笑う。


「おいおい、君」


「言いがかりはやめてくれないか」


「証拠でもあるのか」


(さあ、俺たちが生きながらえるか、お前が散るか)


俺は軽く深呼吸し、息を整える。


「あります」


俺はめぐみを見る。


めぐみがスマートフォンを操作する。


全国放送。


大型モニター。


映像が流れ始めた。


数年前のめぐみ拉致事件。


地下。


拘束されためぐみ。


山本。


デポル。


拉致監禁。


「おっと失礼しました」


「これは高宮総理のご友人であり、故人の山本誠さんが起こした拉致監禁暴行事件でしたね」


スタジオが静まり返る。


高宮は動じていない。


「今は、こちらをご覧ください」


さらに映像。


大阪から徳島へ。


徳島から愛知。


愛知から東京まで。


黒いバン。


何台もの車。


発砲。


爆発。


デポル。


俺たちを追い回す様子。


全て映し出される。


(まあ、一部合成だが)


三橋の表情は崩れない。


「こんなもの、編集映像だ」


「それに俺は知らない」


「偶然、総理警護のため近くにいただけだ」


「では何故ここへ来たんです?」


「総理の秘書だからだ」


言った。


その瞬間だった。


「なるほど、秘書だから」


俺は録音を流す。


『久世恒一を殺せ!』


『久世恒一、お前を殺せば三橋さんからボーナスが貰えるんだ』


スタジオのスタッフたちが、徐々に三橋から距離をあける。


三橋の顔色が変わる。


「録音なんて簡単に捏造できる。とんだ言いがかりだな」


「違いますか?」


テレビ局へ着くまでのカーチェイス映像。


銃撃。


何度も流れる。


「関東へ入ってからはらあなた自身も俺たちを追ってきた」


「そして見失い、この生放送を見て飛んできた」


誰も笑わない。


スタジオ全体が三橋だけを見る。


「これらも総理秘書の仕事なんですか?」


「政治家を爆殺することも」


「右腕を奪うことも」


「デポルへ殺害命令することも」


三橋は黙った。


俺はさらに言う。


「日本でしたよね、ここ」


静まり返る。


「拳銃」


「爆薬」


「拉致監禁」


「殺人未遂」


「傷害」


「まだ数えますか?」


三橋は思考を巡らせている。


(させないさ)


俺は三橋の左胸を見る。


少しだけ膨らんでいる。


「黒瀬さん」


黒瀬はすぐに理解した。


「カメラ三番」


「三橋さんの左胸へ寄ってください」


画面いっぱいに映る。


スーツの膨らみ。


ホルスター。


僅かに見える拳銃。


さすが黒瀬。


場数が違う。


この女も裏社会へ足を踏み込んでいるだけはある。


「あなたは警察なんですか?秘書ではなかったのですか?」


「秘書は拳銃の所持が認められていましたかね?」


「もし警察だとして、本来、警察組織の拳銃なら管理されていますよね」


一気に畳み掛ける。


三橋の額から汗が流れる。


俺は笑う。


「ご存知ですか?」


「拳銃って、一挺一挺全部癖が違う」


「発射された弾丸を調べれば」


「どの拳銃から撃たれたか分かる」


横目で高宮を見る。


動じていないように見える。


だが、その目は違った。


三橋を切り捨てる目だ。


俺は話を続ける。


「その拳銃。この日本で、どうやって調達されたのですか?」


三橋は答えない。


「俺が右腕を失った現場の住所と写真」


「SNSへ全部流してあります」


「血気盛んなSNSユーザー達が、もう向かってる頃かもしれませんね」


(現場は片付けさせただろう)


(だが、人任せなら見落としはあるかもしれない)


(気になるよな、三橋)


黒瀬が手元を見る。


SNS。


写真。


動画。


現地画像。


次々アップロードされていく。


スタジオがどよめく。


俺は最後に言った。


「さあ撃ちますか?三橋さん」


「総理秘書のあなたが」


「何故かお持ちの拳銃で、私を撃つんですか?ここ数日のように」


沈黙。


その時だった。


スタジオ入口が開く。


「動くな!」


公安だった。


(上手く説得できたか)


先頭には鷹宮が教えてくれた大柄な男。


『真実を自分の目で確かめろ』


鷹宮のその一言だけを信じ、ここへ来た。


公安たちが拳銃を向ける。


「三橋修司」


「銃刀法違反」


「殺人未遂」


「その他容疑で逮捕する」


三橋は抵抗できない。


手錠が掛けられる。


連行される直前。


先頭の公安は一瞬だけ俺を見る。


何も言わない。


そのまま踵を返し、三橋を連れてスタジオを後にした。


スタジオは静まり返る。


俺はゆっくり高宮を見る。


「それでは総理、お待たせしました」


「ここからが本題です」


「彼ほど冷静沈着な男が、あなたの前では、えらく取り乱していました」


「よほど厳しい教育を受けてきたのでしょうね」


高宮の表情が僅かに変わる。


「さあ始めましょうか」


「まずは、あなたの弁明から聞かせてください」


ここでしくじれば、人生の終わり、命の終わり。


血が沸騰する。


そよ風が吹くだけで、消えそうな蝋燭の炎のように。


一瞬で散りゆく俺の命。


全てを賭けて。


ここから、国崩しを始める。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・コメントで応援いただけると嬉しいです。 #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公 #社会風刺
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