第11話:命の使い道_めぐみ案件編②
すみません、張り切って書いてたら、いつもの倍以上の文字数に。
時間のある時どうぞ(;`・ω・´)
入学してから約半年が経過した。
そして俺は、「加藤ベアトリクスめぐみ」に公開プロポーズをした。
確かに彼女は美しいが、一目惚れをした、ということではない。
ある確信があって、あえてあの形を取った。
これまでの経緯を整理する。
この半年、徳島と大阪を往復しながら、水谷ひとみの弁護士業務補助と、ホームページ制作の仕事をこなしていた。
一方で、クラスの【加藤フィーバー】は少し落ち着きを見せていた。
そんな中で、俺はある違和感に気づく。
(夏なのに、長袖とタイツ)
顔、首、手以外の素肌を、一度も見たことがない。
偶然とは思えなかった。
俺には覚えがある。
虐待を受けている子どもは、衣服で隠れる場所に傷を負う。それを隠すための服装になる。
前世でも、今世でも見てきた。
――俺自身がそうだったからだ。
前世でも今世でも、「教育」「しつけ」という名に隠れた暴力。
世の中、親になってはいけない人間で溢れている。
俺の父親も、恐らく彼女の親も。
こういった家庭もあると想像できない馬鹿たちは、示し合わせたかのように語る。
「家族なんだから話し合えばわかりあえるよ!」
「お父さんとお母さんは絶対に子供のことを一番に思ってくれているよ!」
確かに、本当にそうならそれがベスト。
誰しもそうでありたかったと思う。
しかし現実は違う。
虐待の報告件数は、何万件と報告されている。
だが、そんなものは氷山の一角だ。
俺も、あいつも、その中にすら含まれていない。
そして一度だけ見えた、鎖骨あたり。
深めの切り傷。
傷は新しく見えた。
自体は急を要するかもしれない。
「虐待?大丈夫?話聞こか?」
水谷ひとみのように上手く聞く気もしない、そもそも誰が話すだろうか。
それでも、日に日に衰弱していく様子を見て、確信に近いものがあった。
(昔の自分を重ねてしまうな…)
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そして――その日。
教室で見た加藤の顔には、生気がなかった。
直感する。
今日、死ぬのだと。
俺は悩みに悩んだが、意を決して彼女にこの言葉を伝える。
「加藤さん、俺と結婚してください…!!」
教室の空気が止まった。
よくよく考えれば、二人の時でも良かったのだ…
口から出て一秒も経過していないが、後悔の念が襲ってくる。
「えっっ、でも喋ったことない気がするけど...」
(そりゃそうだ…)
「…あっ、いっ、一目惚れしました!」
何とか言葉を搾り出す。
「…入学してから、半年くらい経ってるけど...…ごめんなさい!」
俺の人生初プロポーズは、わずか三秒で終焉を迎える。
教室がざわつき、やがて笑いに変わる。
もっといい方法はなかったのかと、自問自答を繰り返す…
しかし、本題はここからだ。
「わかった、聞いてくれてありがとう。じゃあその代わり今から五分だけくれないかな。安心してほしい。追加の告白ではないから。」
「…五分だけなら」
一度断らせてから、本命を通す。
前世で何度も使った手法だ。
周りのクラスメイトからは、
『高嶺の花に勢いで告白して振られたバカ』
に映るだろうが、それは仕方ない。
しかし、目的は達成した。
廊下の端に移動し、誰もいないのを確認する。
俺は静かに言った。
「虐待を受け続けて、今日死ぬつもりなら辞めておけ。まだやれることはある。」
これは仮説提案。
仮説をぶつけ、先方の思いや正解に近づけていく。
元ITセールスとして、基本中の基本だ。
「…虐待なんてされてない。されていたとしても、あなたのような一般の高校生では何もできない」
落ち着いた声だった。
諦めが混ざっている。
ごもっともな返答だ。
逆の立場なら、俺でもそう思う。
ここで一つカードを切る。
「信じられないと思うけど、俺は現役の弁護士なんだ。」
ガラケーを取り出し、画面を開く。
表示されているのは、弁護士登録番号と簡易の登録情報。氏名、生年月日、登録年。
加藤は画面を見つめる。
「…あなたが本当に弁護士だとしても、だからといってあなたをいきなり信用することはできない」
(…こいつ、めちゃくちゃいいな)
この疑り深さ、よほど辛い思いをして必死に生きてきたのだろう。
前世の俺も中々酷かった。
周りに流され、自分の意思もないまま、人知れずデポルに殺された。
「そうだな。それでいいと思う」
無理に詰めない。
名刺を取り出して差し出す。
「気が変わったら連絡してほしい」
それだけ言って、その場を離れた。
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(もっと踏み込んでくれてもよかったのに…)
高校の屋上で、名刺を見つめていた。
高校生で弁護士かーー笑える。
何をどう考えたら、そうなろうと思えるのだろうか。
そもそも高校生で、弁護士なんてなれるのか。
得体の知れない感じが増して、少しだけ彼のことが気になった。
…ただ同時に僻んだ。
私はこんなにも不幸だというのに。
(…もう。終わろう)
今回も、同じだ。
防縁高校に来れば何か変わるかもしれない。そう思った。
けれど現実は変わらない。
限界は、とっくに超えていた。
「私の人生は、ここで終わるようになってるんだ」
思わず呟いた。
父のことを思い出す。
家族で三人で揃っていた時、楽しかったことも。
あの時間だけで、十分だった。
フェンスを越える。
躊躇はない。深呼吸も必要ない。
四回目。
これで最後。
ーー身体を前に倒した。
天と地がゆっくりとひっくり返るような感覚に囚われる。
ほんの一瞬だけ。
(……あの人、変な人だったなぁ)
そんな考えがよぎった。
そして。
重力に引かれるまま、落ちた。
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「なあ」
「…」
「これで一回死んだようなものだと思うし、一回俺に話してみてほしい」
落ちたはずだった。
なのに、私は宙にいた。
無数の傷跡がある右腕が、ガッチリと私の右腕を掴んでいる。
正直かなり痛い。
「帰ったふりしてつけてたの?何故そこまで私に構うの?」
「利用できそうだから」
冗談には聞こえなかった。
少し間があく。
「…ぷふっ、あははははは!」
普通は違うはずだ。
こういう場面では、もっとそれらしい言葉があるだろう。
「助けたい」とか。「放っておけない」とか。
そして恋愛小説さながら、私が恋に落ちる場面ではないのか。
もっとも物理的に落ちそうなのは、確かだが。
真っ直ぐな目で、それを言う。
(この人、嫌いだ。でも…悪くはない)
「でも信用できない!」
笑いながら、そう言った。
「当然ですね」
即答だった。
否定も、弁解もない。
目が笑っていない愛想笑いはこうも不気味なのかと、自分がしてきたことを思い出す。
「でも、話す価値はあると思う」
「どうして?」
「今死ぬはずだった人間が、まだ生きてる。それだけで状況は変わってる。これからもまだ死ぬ気なら、死ぬ気で何でもできるでしょう」
「……」
何も言い返せなかった。
三度も死んでいるが、結局何もできなかったのだから。
「だから、一回だけでいい。話してみてほしい」
静かな声だった。
押し付けるでもなく、引くでもない。
ただそこにあるだけの言葉。
「……わかった」
気づけば、そう答えていた。
「…全部は話さないかもしれないけど」
「okです」
男はあっさりと頷いた。
顔色ひとつ変えず、私を引っ張り上げる。
床に足がつく。
現実に連れ戻されたような感覚だった。
男は、何事も無かったかのように、ペンと用紙を取り出す。
「では、まずこのヒアリングシートに名前からお願いします。」
「…ちょっと待って」
思わず遮った。
「それ、今やるの?」
「……えっ、仕事なので」
「はあ……」
思わずため息が出る。
なんだ、この人。
さっきまでの空気はどこへ行ったのか。
「……ほんと、変」
そう言いながら、紙を受け取りペンを握る。
その瞬間、手が震えた。
ぽたり、と。
紙に水滴が落ちる。
気づいたら、涙が流れていた。
「……あ」
止まらない。
力が抜けて、その場に座り込む。
「……怖かったんだ」
口から、勝手に言葉がこぼれる。
「死ぬの、怖かったんだ……」
三回死んだ。
それでも、慣れなかった。
毎回、同じだった。
怖くて、苦しくて、それでも――
「本当は……生きたかった」
視界が滲む。
父の顔が浮かぶ。
「……お父さん」
守ってくれた人。
あの人の分まで、生きたかった。
「……ごめんなさい」
声が震える。
こんな終わり方をするはずじゃなかった。
――でも。
ちらりと、目の前の男を見る。
表情は変わらない。
ただ、そこにいる。
慰めるわけでもなく、心配するでもなく。
それだけなのに。だからこそ。
(……この人なら)
そう思ってしまった。
今までとは違う。
理由はわからない。
けれど――
「……一回だけ」
小さく呟く。
「利用されてみようかな」
誰に向けたわけでもない言葉だった。




