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第11話:命の使い道・前編_めぐみ案件編②

ーー久世フェーズ


二〇〇六年十月。


入学してから、約半年が経った。


そして俺は。


加藤ベアトリクスめぐみに、公開プロポーズをした。


「加藤さん。俺と結婚してください……!」


教室の空気が止まった。


自分でも、なぜこの形を選んだのかと思う。


二人きりの時でよかった。


廊下でも。


放課後でも。


いくらでも機会はあった。


なのに、よりによって教室。


人の目がある場所で。


言葉が口から出た瞬間、すでに後悔していた。


「えっ……でも、喋ったことない気がするけど」


その通りだった。


「あっ、いっ、一目惚れしました!」


何とか言葉を絞り出す。


加藤は、困ったように笑った。


「……入学してから、半年くらい経ってるけど」


「……」


「ごめんなさい」


俺の人生初プロポーズは、三秒で終わった。


教室がざわつく。


すぐに笑い声が広がった。


高嶺の花に勢いで告白して、振られた馬鹿。


周囲には、そう映っただろう。


それでいい。


むしろ、その方が都合がいい。


本題は、ここからだ。


「分かった。聞いてくれてありがとう」


俺は頭を下げた。


「じゃあ、その代わりに今から五分だけくれないかな」


加藤の眉が、わずかに動く。


「安心してほしい。追加の告白ではないから」


「……五分だけなら」


一度断らせてから、本命を通す。


前世で何度も使った方法だ。


営業でも交渉でも。


人は一度大きな要求を拒否すると、次の小さな要求を受け入れやすくなる。


俺は加藤を連れ、廊下の端へ向かった。


周囲に人がいないことを確認する。


そして、声を落とした。


「虐待を受け続けて、今日死ぬつもりなら、やめておけ」


加藤の表情が消えた。


笑顔も。


困惑も。


さっきまで浮かべていた、作り物のような柔らかさも。


すべてが、すっと消えた。


「まだ、やれることはある」


やはり。


この半年。


違和感は、ずっとあった。


夏でも長袖。


脚にはタイツ。


顔、首、手以外の素肌を、一度も見せない。


一度だけ、鎖骨のあたりが見えたことがある。


そこには、深い切り傷があった。


しかも、新しい。


虐待を受けている人間は、衣服で隠れる場所に傷を負うことが多い。


俺には覚えがある。


前世でも。


今世でも。


俺自身が、そうだったからだ。


日に日に、加藤から生気が抜けていくのも分かった。


今日の顔は、特にまずかった。


あれは、死ぬ人間の顔だ。


俺は知っている。


何度も見た。


鏡の中でも見た。


「……虐待なんてされてない」


加藤は、落ち着いた声で言った。


「されていたとしても、あなたのような普通の高校生では何もできない」


正論だった。


逆の立場なら、俺でもそう思う。


だから、次の札を切る。


「信じられないと思うけど、俺は弁護士なんだ」


携帯を取り出す。


画面には、弁護士登録番号と登録情報を表示していた。


氏名。


生年月日。


登録年。


加藤は、画面をじっと見つめた。


長い沈黙。


「……あなたが本当に弁護士だとしても」


加藤は静かに言った。


「だからといって、いきなり信用することはできない」


その返答に、少しだけ感心した。


疑う。


警戒する。


簡単には、すがらない。


よほど辛い環境で、必死に生きてきたのだろう。


「そうだな。それでいいと思う」


無理には詰めない。


名刺を取り出し、差し出す。


「気が変わったら、連絡してほしい」


加藤は名刺を受け取った。


けれど、その目はまだ俺を信用していない。


それでいい。


信用は、最初から要求するものではない。


「じゃあ」


俺はその場を離れた。


これ以上、踏み込むべきではない。


本人が助けを求めなければ、できることには限界がある。


そう思いながら、廊下を曲がる。


だが。


加藤の顔が、頭から離れなかった。


あれは、諦めた人間の顔ではない。


今日、終わらせると決めた人間の顔だ。


俺は足を止めた。


そして。


来た道を、振り返った。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・コメントで応援いただけると嬉しいです。 #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公 #社会風刺
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