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第114話:座標変位3

ーー久世フェーズ


怖いくらいに、何事もなく到着した。


三橋は甘い男ではない。


既に防犯用品店も取り囲まれているのか。


ここまで手が回っているのか。


そうだとしたら。


かなはどうなる。


ひとみと約束した。


彼女も守らなくてはならない。


もう一つ、気になることがある。


気味が悪いくらいに、井口ゆうたも何もしてこない。


俺に再起不能にされ。


面目を潰され。


好き放題できなくなり。


中学卒業を前に転校までさせられた。


転校後も、一年近くはまともに動けなかったはずだ。


痛み分けとは言え、俺は顔、肩、腕。


何度も何度も殴り続けた。


「なんだよ。びびってるのか? 三橋に」


どうやら見抜かれていたらしい。


「ええ。どうやら警戒しすぎだったようですね」


それらしく返す。


「この辺りは大丈夫だろ」


井口ゆうたは全く気にしていない。


(何故だ)


疑心暗鬼になる。


そもそも信用できる相手ではない。


井口おさむの息子だから信用できる?


違う。


井口おさむの息子だからこそ、一番疑うべき相手じゃないのか。


何故、今さらそんなことを考える。


トラックへ乗る前に気付けよ、俺。


「お前んとこのハッカーが何も言わねぇんだから大丈夫だろ」


「お前、本当に余裕ねぇな」


呆れたようにため息を吐かれる。


そうだ。


みずきは銃撃戦の最中ですら、ひたすらパソコンを叩いていた。


目的地までの防犯カメラ。


店の周囲。


潜伏している人影。


全部確認していたのだろう。


何故それに俺が思い至らない。


「全く……嫌になるぜ」


自分の余裕の無さに、ほとほと呆れる。


「それはこっちの台詞だよ、クソ野郎」


「ここまで腑抜けてるとは思わなかった」


返す言葉もなかった。


イラついていると、建物から人影。


「よう来たな。有名人」


色黒で、小太り。


名前は知らない。


ひとみは、“ノブさん”と呼んでいた。


「ああ。そういえばそうでしたね」


揶揄うように笑いながら、奥へ案内してくれる。


ガレージへトラックを隠す。


井口ゆうたが荷台へ向かった。


「荷台の△△食品センターのパッケージとナンバー偽装するぞ」


「そこのデポル二人。手伝え」


二人は何も言わず従う。


手慣れた様子でパネルを剥がし始めた。


「おい」


再びノブさんが俺を呼ぶ。


今度は真面目な顔だった。


「右腕なくなった代わりに、短剣とリボン付いとるやんけ。それはどういうファッションなんや?」


右腕へ巻かれた短剣。


その柄には、めぐみが止血のため結んだリボン。


短剣にリボン。


物騒なのか可愛いのか分からない。


「けど、ゆっくりしてる暇はない」


「ひとみから血液パックと武器、防具、通信機器まで前払いでもろてる」


「あの人。死んでからやけに優しいですね」


自然と笑みが漏れた。


少しだけ涙も出そうになる。


「俺はそう思わへん」


ノブさんは鼻で笑う。


「血ぃ無くなったら補充したる。空になるまで働け」


「俺にはそう聞こえたで」


「ああ……」


そんな気がしてきた。


俺の中で作り上げた、優しい年上のお姉さん像。


全部妄想だった。


ただの死者への思い出補正だった。


水谷ひとみは、自分の余命を大切な人との時間ではなく。


大切な人の未来へ全部投資した女だ。


俺は最後まで、あの人の駒だった。


しかし。


「悪くない。それでこそ、あの人だ」


「ひとみは、そういう人」


ノブさんの後ろから、かなが現れる。


それだけ言うと、無言で俺の輸血準備を始めた。


めぐみは右腕の止血をやり直している。


相変わらず無口だった。


体調が悪い。


それだけではない気がする。


「久世くん」


鷹宮だった。


腕いっぱいに弾薬箱を抱えている。


「これも水谷さんから」


「天国からの差し入れとは、中々いいセンスだ」


鷹宮は弾薬を運びながら、左手でリボルバーを器用に回す。


昔やっていたゲームで、そんなキャラがいたな。


最もそいつは、三重スパイだったが。


鷹宮は得意顔で俺に渡してきた。


「君には、こんな物も残してる」


小さな段ボールを受け取る。


中には封筒。


USBメモリ。


数枚の紙。


「これは……」


録音データ。


監禁現場周辺の映像。


三橋との会話。


俺とめぐみが拉致される瞬間。


監禁されていた建物への出入り。


全部残っていた。


「どうして……」


みずきが静かに答える。


「ひとみさんが、生前にね」


「何かあるまえから、この辺り一帯の監視カメラを全部押さえろって」


「あのあと私は、防犯カメラを片っ端からハッキングした」


「みんなが戦ってる間も、その映像を回収して、必要な部分だけノブさんへ送ってた」


ようやく繋がる。


銃撃戦の最中。


移動中。


みずきは、ひたすらパソコンを叩いていた。


全部、このためだった。


USBをパソコンへ差し込む。


動画が再生される。


画面に、ひとみの顔が映った。


『久世』


『これ見てるっちゅうことは、うちは死んどるやろな……というのをいっぺんやってみたかっただけや。ほな』


画面が真っ黒になる。


「……えっ?」


山上とみずきの声が重なる。


再びひとみの顔が現れた。


(やると思った)


『ほな、本題入るで』


『このUSBは今渡すんが一番ええと思った。事前にあったら、これを元に組み立てるやろ。それじゃああかん』


『これをノブさんのとこで見てるなら、三橋に相当追い込まれてるはずや。で、あればその証拠もみずきがとってるはずや』


みずきを見る。


みずきは何も言わずに頷く。


(彼女も向こう側に行ったのだな)


少しだけ真顔になる。


『三橋は賢い』


『証拠も、人も、全部消しに来る』


『だから証拠が揃うまで待ったら負けや』


『まず生き残って、仕掛けられた証拠を作りつつ、本体を叩け』


『久世、わかるな?私と最初にした犯罪を』


思わず笑みが溢れた。


「ええ。忘れられませんよ。対石津への証拠の捏造ですね」


『まあ、どうせ久世は覚えてすらないやろうから言うたる。捏造せえ。お前どうせやられてるやろ。報道とか黒瀬とかに』


『だから、やり返したれや』


『ほな、あと頼んだで。ここまで手貸してやったんや。手ぶらでこっち来たらーー殺すで』


動画が終わる。


誰も喋らなかった。


「俺の親父が言ってたぜ」


井口ゆうたが汗だくで戻ってくる。


「久世陣営で一番厄介なのは、トチ狂ったデポル殺しのお前じゃねぇ」


「水谷ひとみだってな」


人脈。


金。


情報。


全部使って、死んでからも盤面を動かしている。


「けど、水谷が死んだ今」


井口ゆうたは、めぐみを見る。


「気を付けるべきなのは、加藤めぐみの方だってさ」


めぐみは何も答えない。


俺はそこで気付いた。


徳島を出てから。


まともに、めぐみの声を聞いていない。


ただ黙って。


俺の右腕を処置してくれている。


巻き直されたリボンを見る。


そのまま、めぐみへ視線を移した。


めぐみの瞳は。


怒りでも悲しみでもなかった。


何かを決めきれず。


何かを捨てきれず。


その狭間で揺れているような、今まで見たことのない目をしていた。

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ここまで読んでいただきありがとうございます。 この物語は 「正義と暴力の境界」 「人間と異種の曖昧さ」 をテーマに進んでいきます。 少しでも続きが気になれば、 ブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです( ^ω^) #現代バトル #社会問題 #ダークヒーロー #復讐 #高校生主人公
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