第112話:亡霊の一助
高速道路。
黒いセダンが二台。
俺たちの車を取り囲む。
銃声。
被弾。
山上が必死に運転しているが、大きめのバンとはいえ、装甲車ではない。
このままだと保たないだろう。
めぐみは俺を心配そうに見つめ、みずきはパソコンで何やらやっている。
あさみは、頭を抱えて半狂乱だ。
鷹宮は、助手席から拳銃で応戦している。
この車が今も走り続けられるのは、彼のおかげだろう。
デポル二名も俺を怪訝な表情で見ている。
俺は呑気に思考を整理していた。
もはや恒例だ。
そして、何故か気分がいい。
「ハイになっているのかもしれないな」
思わず一人ごとが漏れる。
「みんなには、心からすまないと思っている」
頭を下げ、鷹宮のライフルに弾を装填する。
利き手ではない左手。
手が震え、おぼつかない。
だが、これでいい。
(みんなにはすまないが、俺は……おもしろくなってきたんだ)
右手を失い、暴行をされた。
大切だと思える仲間たちも危機にさらされている。
一から作り上げてきた居場所も、会社も、資産も奪われた。
(では、今俺にあるのはなんだ)
ライフルに弾が装填できた。
(残ったのは、なんの価値もない俺の命だけ)
窓を叩き割り、銃口を出す。
スコープから運転手の頭を狙う。
力強く引き金を引いた。
反動で、左肩が吹っ飛んだかと思うほどの衝撃。
狙撃には慣れていない。
弾は運転席を逸れた。
しかし、牽制にはなる。
次々に引き金を引く。
だが、先に着弾したのは俺たちの車のタイヤだった。
車が蛇行する。
山上が必死にハンドルを回しバランスを取る。
路肩に止め、二台の車に挟まれる。
ゆっくりと降りてくるスーツ姿の男たち。
「めぐみ。そこの短剣を俺の右腕の切断部へ巻いてくれ」
めぐみは一瞬、躊躇したが何も言わずに巻いてくれた。
左手には警棒。
(こいつらがしっくりくるな)
鷹宮と共に車を出ようとした時、トラックが走ってくるのが見える。
そしてそれは、俺たちの方向へ。
ブレーキも踏まずに突っ込んできた。
セダンの一台に突っ込み、ペシャンコにしてしまった。
男たちは、潰された者、吹き飛んだ者。
もう一台から四人の男たちが出てくる。
鷹宮がすかさず銃撃する。
俺も飛び出し、一人を斬りつけ、もう一人を警棒で叩き伏せる。
瞬時に制圧できた。
俺単体の力ではない。
中型のトラックから、一人の男が降りてくる。
荷台には、△△食品センターと書かれている。
面影がある。
十年以上前。
中学一年のとき。
吉田さおりを拉致監禁し、暴行未遂。
俺が殺す気で殴り続けた男。
井口おさむの息子。
井口ゆうたは、ゆったりと口を開く。
「久しぶりだな。久世恒一」
記憶がフラッシュバックする。
吉田さんに酷い目をあわせようとしたクズ野郎。
今世で一番初めに、殺そうとした人間の一人。
「井口先輩」
「親父に止められてたけど、ようやく居なくなった。だからーーぶち殺しに来てやったよ」
井口おさむの面影はあるが、雰囲気がまるで違う。
井口おさむが冷静沈着なら、井口ゆうたは天上天下唯我独尊。
自分の名前ではなく、親の名前で喧嘩することになんの恥すら感じない小物。
だったはずだ。
「まさかあなたが井口おさむの息子だったとはね。ここ数年で知りましたよ」
「教員連中が俺にヘコヘコしてたのに合点がいくだろ?」
そういえばそんなこともあったが、今はそれどころではない。
「まあトラックに乗れよ。行き先は東大阪のお前の行きつけだろ?」
「どういうつもりで?」
「お前をぶち殺してもよかったが、国に殺される方が悲惨だろうと思ってな。高みの見物を決め込みに来たのさ」
一切信用できない。
だが、こちらの車も動かない。
めぐみが井口から目を離さず、口を開く。
「乗るしかないね。あの人のこと、心底嫌いそうだけど」
そうだ。
乗るしかない。
何かあれば消せばいいさ。
前向きに思考を切り替え、井口ゆうたのトラックに乗り込んだ。




