第109話:灯火
ーー徳島県・山中
何となく見覚えのある廃墟。
いつだか、真壁や多数のデポルと戦いを繰り広げた場所。
俺は荷台に飛び乗ってから、気を失っていたようだ。
執拗な追跡を受けながらも、遠回りを重ね徳島まで逃げおおせた。
徳島は、井口の支配が行き届いていた。
今はどうか知らないが、少なくともこの廃墟は大丈夫とのことだ。
(本当か……?)
身体は動かないが手当がされている。
あの出血量で、よく死ななかったものだ。
(めぐみ……のおかげか)
数分か、数十分か。
朦朧とした意識が、徐々にはっきりしてきた。
ようやく気づく。
隣に人の気配がある。
めぐみか。
「起きたか、クソ野郎」
「あんたかよ」
隣には同じように寝かされている真壁だった。
「俺で悪かったな。そんなことよりお前、死にかけてたぞ」
こいつにしては珍しい。
いつものような小馬鹿にした物言いをしない。
「ええ。そうみたいですね」
「ふざけるなよ」
よく見ると目のクマが酷い。
冷や汗、乱れた呼吸。
こいつも重症を負っているのだろう。
真壁は続ける。
「お前は井口さんから託されたんだ。道半ばで終わることは許されない。死んでも成し遂げろ」
「……ええ。あなたに言われなくとも。あの人と同じ方向性ではないですがね。やりますよ、俺は」
真壁は険しい顔から穏やかな顔になる。
「俺はここまでだ。腹に数発喰らっている。助からない」
「……」
「加藤たちに、徳島と東京での拠点を伝えてある。俺と井口さんとだけで作った場所だ」
真壁は咳き込むたびに、吐血する。
俺が目を覚ますまで、耐えていたのかもしれない。
「必ず成し遂げろ。あの人があの世でお前の実績を見て、「よくやった」と思えるように。必ずだ。約束しろ」
「俺とあんたたちは、敵同士だろ。そんな義理はない……だが、″悪い″デポルは、この世から消してやるよ」
真壁は目を閉じ、ゆっくり呼吸する。
「それでいい。あの人がやってきたことを無駄にしないでくれ。だから俺はお前のようなガキのために、命をかけた」
「口が開けば憎まれ口。もう少し大人になった方がいいんじゃないですか?」
いつもの軽口。
しかし真壁からの返答はない。
目を閉じ、とても安らかに、とは言い難い。
けれども、「必ずやり遂げろ」
強い口調でそう言われているような、憎たらしい寝顔に見えた。
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真壁の亡骸を皆で運び、山中へ埋葬した。
傷が癒えたわけもなく、最低限の応急処置をして出発する。
真壁は元看護師だったらしく、俺や山上への処置を施したようだ。
自分の身体を、おざなりにしてまで。
これから東京の拠点に向かう。
そこには、食料や医療機器などが揃っているらしい。
めぐみや鷹宮、山上は真壁から共有を受けていた。
ひとみ、井口、真壁、山本。
共に戦った者。
敵対した者。
様々な者から、悲願や想いを託された。
勝手なことを。
しかし、それほど悪い気分でもなかった。
(能天気なのは、俺の数少ない長所だな)
振り返りも状況整理も完了した。
鷹宮が声を掛けてくる。
「久世くん。このルートで東京入りをする。これでいいね?」
鷹宮が簡潔に説明をする。
徳島から和歌山へ出港するフェリー経由で、再び関西へ。
このタイミングで、みずきを拾う。
今は安全な場所と護衛が数名いるらしい。
その後、東大阪を経由し、武器や物資の調達。
和歌山から海沿いおよび山間部を抜け、中部地方。
そこから、様子を見ながら山道を走行し、東京までいく。
東京。
あそこで全てが決まる。
そんな予感だけはあった。
(大冒険だな)
道中で敵と何度も出くわすだろう。
「まあまて。一度大阪に戻る」
「おいおい。もうボケたのか?」
「過去に一度、ひとみさんが紹介してくれた、とあるおっさんに会いに行く」
無線機、警棒、短剣。
これまでに扱ってきた道具を回してくれていた。
表向きは防犯用品店。
裏では、一般には流通しない物まで扱っている。
「鷹宮さんのその銃ももう飾りでしょう。弾薬の補充が必要です。東京までも、入ってからも敵は多い」
「それはそうだが……」
「真壁は死にましたが、彼の電話がまだある。デポルを呼びつけて撹乱しましょう」
幸いこの廃墟には、車がもう一台ある。
逃げおおせたこのトラックは、車種も番号も割れている。
「言うことを聞くのか?そのデポルは」
「さあ。やってみないとね」
「そういえば、真壁がある人物を頼れと言っていた」
俺はこれまで、真壁から″井口″以外の名前はほとんど聞いたことはない。
とはいえ、あてもない。
今は、どんな奴でも頼るしかないだろう。
呼び出し音が一回。
二回。
三回。
ようやく電話の向こうで、男が口を開いた。




