第108話:打破
山上はセンスの塊のようだった。
あさみから教わったキックボクシング。
たった一度の実戦。
そして、殺し。
出会うデポルをぎこちなくも打撃と斬撃で消していく。
一人、二人。
俺が今世で初めてデポルと殺し合いをしたとき。
一方的に殴られ、涙と鼻水を垂れ流しながら死に物狂いで勝利を掴んだ。
山上、ひとみ、井口にめぐみ。
何故俺の周りは才能に恵まれるタイプばかりなのか。
同じ努力型と信じていたみずきも、めぐみの影響もあり、俺とは違うタイプになりつつある。
(嫌になるね。圧倒的な差も、嫉妬心も。研鑽を重ねても届かない)
目の前で暴れ狂う山上を後ろから追いながら、バールで留めをさしていく。
五人目のデポルを殺したところで、一階の出入り口に到着した。
入り口の前には、四人。
デポルと思わしき男たちが三人。
そして明らかにオーラが違う男。
細身で格闘には無縁といった印象を受ける。
だが、簡単には近づけなかった。
山上もそれを感じ取っている。
必要以上に近づかず、攻め方を考えている。
めぐみが口を開く。
「あれが、今回の黒幕かな。一見無害そうに見える」
俺含む全員が感じ取っている異様な雰囲気。
その男が笑顔で問いかけてきた。
「君が久世恒一だな。テレビで見るより、目が獣に近いな。そちらの麗しい女性が加藤めぐみ。想像していたより、やるようだな」
それぞれの分析を述べる。
その男が言い終わる前に、山上が短剣を投擲した。
俺もそうする。
相手の間合い、流れに合わせてやることはない。
すかさずデポルが短剣を左腕で受けた。
山上は、距離を詰め、デポルの頭部に右の蹴りを打ち込んだ。
「くっ……」
蹴りを入れた山上の方が後ろへのけぞる。
デポルは拳を固め、山上の顔面に叩き込んだ。
俺たちの足元まで吹っ飛ばされる。
「く、久世……すま、ない」
気を失った山上から視線を正面の連中に戻す。
俺は、バールを強く握り直す。
身体を支えてくれているめぐみの体調も戻らない。
少しだけ時間を稼ぐ。
ここに鷹宮がいないということは、こいつらとはすれ違いになっているはずだ。
「俺たちをこんな何もないパーティ会場に招待したのは、あなたですか?」
「そうだな。ここは待合室なようなものだ。本会場はこれからお連れするところだったのだよ」
「で、あれば一度家に帰してもらえますかね。衣装がボロボロなので、ドレスコードはきちんとしたいタイプなんですよ」
男は微笑む。
一歩、また一歩。
デポル三人を引き連れ、近づいてくる。
時間稼ぎはバレている。
(全く……勘のいいおっさんは嫌いだよ)
その時、扉の向こう側から大勢の怒声や悲鳴が聞こえてきた。
次に複数の銃声。
俺はため息をついた。
「嫌になりますね」
「ほう。何がだい?」
「集団リンチに拉致、監禁。挙句には銃声。本当にここは日本なのかな。そんな風に思ってしまうことがですよ」
俺とめぐみ、連中との距離は三メートル程度。
バールを構えた時、扉ごと壁を破壊するトラックの荷台が見えた。
状況把握に、ほんの一瞬。
「久世ぇぇぇ!!!!」
聞き覚えのある誰か。
デポルを二人轢き殺した。
残る一人をバールで薙ぎ払う。
男は目の前にトラックが突っ込んできたにも関わらず、冷静そのものだった。
懐から拳銃を出す。
「させねえよ」
バールを振り回して、牽制する。
「乗れ!」
めぐみは、動き出した山上に肩を貸し荷台へ。
真壁は運転席から発砲し、牽制する。
真壁の弾丸が男の拳銃を弾き飛ばした。
(殺しておきたいが、分が悪いか……)
男は、拳銃を拾い上げることもなく、ただこちらを見ている。
「あなたの目的は?」
「君たちを見ておきたかった。もっと言えば話し合いをしたかったかな。愉快な仲間もいて、中々面白そうじゃないか」
俺もこいつを目に焼き付けておく。
必ず殺す。
「久世!」
右腕の痛みがぶり返す。
右腕を押さえながら、荷台に乗り込んだ。
痛みと眩暈で意識が飛びそうだ。
外では銃声が聞こえる。
(世も末だな、俺が元いた時代より治安が悪い)
急発進し、再び壁をぶち破る。
もう外をみる気力すらない。
一瞬、トラックが止まった際に誰かが乗り込んできた。
「出せ!」
ボルトアクションライフル。
鷹宮が、狙撃していた銃声だった。
これで逃げきれるか。
不安、緊張、身体の不調。
乗り心地の悪いトラックの荷台から見る空は、思いのほか青く、美しいものに見えた。




