第6話 私はあの日――拾われた。
「優磨くん、どうすれば私に依存してくれるかな?」
私はあの日、優磨くんに拾われた――。
******
中学1年の春休み。
私は、呑気に前の家族と過ごしていた。
「はぁ〜。ちょっと、トイレ⋯⋯」
深夜、私がトイレで目を覚ますと、ついていないはずの電気がついている。いつもならこの時間、両親は寝ているはずなのに。
「何かあったのかな?」
私は扉を開けようとした。
「ちょっと、あなたこれどういうことよ!」
母の、大声が聞こえる。普段温厚な母が、ここまで叫ぶのは珍しかった。
「どうって、会社の同僚だよ」
「どうみても浮気じゃない! 腕を組んで歩くなんて、ありえないわ!」
扉の隙間から差し込む光は、今ではすごく眩しい。
「別にいいだろ。ちょっと仲いい同僚だ」
「嘘よ! 他にも証拠はあるんだから!」
ドンッ! と、何かを叩く音がする。
「んだよ、うるせぇな」
父は、わざと聞こえるように舌打ちをし、ため息もする。
「正直に白状しなさい! 浮気なんでしょ!?」
夫婦喧嘩は、かなりヒートアップしていた。
「離婚したきゃすればいい」
「何よそれ!?」
「はいはい」
父はそう吐き捨てると、こっちに向かって歩いてくる。
「結愛が起きるだろ。俺はもう寝る」
――まずい、バレる⋯⋯!?
しゃがんでいた私は、逃げようと、急いで立ち上がった。
その拍子に、足を滑らせ、ずっころんだ。
「いった〜」
ドォン! と、家中に、大きな音が響いた。
「なんだ結愛、起きてたのか?」
私はすぐに立ち上がる。
「あ、えへへ〜」
誤魔化そうと、私は手で後ろ髪をかいた。
「あ、大丈夫。浮気とか、何も⋯⋯」
そう言おうとしたとき、私でも気がついた。
「まさか結愛、聞いてたのか!?」
「え、えっと〜」
私は目を泳がせた。そんな私に、父が血相を変えて走ってくる。
「聞いてたのね?」
後ろから突っかかってきたのは、母だ。私の尿意は、いつの間にかなくなっていた。
2人の目つきにやられ、仕方なく白状することにする。
「⋯⋯聞いてました。ごめんなさい」
私は素直に頭を下げた。その日は、それだけで終わった。
******
後日、私の耳にはこんな言葉が入ってきた。
「結愛、落ち着いて聞け」
珍しく父が、私と2人きりで話そうとしてくる。
「母さんが――死んだ」
私はそれを聞いた途端、言葉が喉をつっかえた。絶句、まさにその言葉通りだった。
ただ、それを言う父に、一切悲しみの雰囲気を感じなかった。それどころか、喜んでいるような気がした。
「⋯⋯」
「俺は行く。準備がある」
そこからだった。私の父が、変わったのは。
父はしばらく家を外すことが多くなった。
しばらくしたとき、父は私にこう言う。
「荷物まとめろ」
「⋯⋯え、なん――」
「黙れ! 早くしろ!」
そんな父の口調を聞いたのは、初めてだった。
私はそのことに、何も反論できなかった。学校から帰った直後。動きづらい制服を身にまといながら、身支度を済ませた。
私は大きなバッグに全てを詰め込んだ。
最初は、引っ越しでもするのかと、少しはしゃぎ気味だった。
「ねえお父さん、もしかして――」
「お前は出てけ」
父は、冷酷にそう言い放つと、ため息を漏らす。そのため息には、悲しみは感じられなかった。
「⋯⋯わかった」
私は渋々家を出ていくことにした。今、父を怒らせたらまずい、そう判断した。
「⋯⋯とは言ったものの、どうしようかな」
家に泊めてもらえるような、そんな仲のいい友人はいない。
とりあえずなにかないかと、私はいつもの空き地に向かった。
******
「あ、雨」
私がしばらく歩いていると、急に黒雲が空を覆い、大粒の雨を垂らし始める。
「とりあえず、あそこでいいや」
私は、屋根になりそうな木々を見つけ、そこへ行く。
そこでしゃがみこんだ。
「これから、どうしよう⋯⋯」
気づくと、私の目からも、水滴が垂れていた。
頬をつたって流れる涙は、豪雨とともに地面に溶けた。
「あ、あの、だい、じょうぶ、ですか?」




