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これが普通の恋じゃないなんて、思ってもいなかった。〜家庭崩壊済みの彼女がヤンデレ化したら、俺が1番の被害者になった件〜  作者: 古治


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第4話 当たり前"だった"日常

 次の日、あの2人は、学校にはいなかった。

 昨日までは元気だったはずなのに⋯⋯。


「はぁ〜」


 容疑者は、両手をピンと伸ばしながら、呑気にあくびをしている。


「な、なぁ結愛」

「ん? どうしたの?」


 俺が声をかけると、椅子から落ちるギリギリまで近づいてくる。ていうか、もうほぼ立ってる。


「ちょ、近いって――」


 結愛は、俺の言葉も聞かず、容赦なく近づいてくる。

 気づいたときには、唇が重なり合っていた。


 しばらく唇が重なり合ったまま、結愛に抱きしめられ、離れたくても離れられなかった。


「知ってる? こうやって、挨拶する国もあるんだよ?」

「知らない。けど、ここは日本」


 ようやく離してくれたかと思えば、いらない知識を語ってくる。


「で、どうかしたの? 私の愛しい優磨くんっ!」

「⋯⋯とりあえず、聞きたいことがあって」


 俺は、結愛の唇が触れていたところを拭った。


「なんで拭うの!? 私そんなに汚い!?」

「あ、ちが、そういうわけじゃ⋯⋯」

「よかった」


 下を向きながら、結愛はそう言った。そしてこう言う。

 

「――なら、もう1回やっても、いいよね?」


 結愛は首をかしげながら、可愛げのない、理性を失ったような顔で、近づいてくる。

 俺は、断れなかった。断りたくなかった。屋上での出来事が、脳裏に蘇る。⋯⋯俺はそのまま、結愛を受け入れた。


 結愛の唇は、心地の良いような、そんな温度だった。


「⋯⋯優磨くん、やっぱ大好きっ!」

「そう、か。はは⋯⋯」


 結愛が離れたあと、俺はすぐに気づいた。周囲の冷ややかな視線に。

 頭を抱えながら、やってしまった。と、反省する。


「ねぇ、優磨くん。私たち、いいカップル、だよね!」


 周りの視線を見てから言ってもらいたい。


「ま、まあ、な⋯⋯」


 俺は断れずに、仕方なくうなずいた。

 そんな俺の態度に、結愛は飛び跳ねる。


「やっぱり!」

「お、おん」


 俺は、結愛に聞きたいことをすっかり忘れていた。


「ねえ、優磨くん、耳、ちょうだい?」


 結愛は手招きしながら笑顔で言ってくる。


「おん」


 俺は短く返事をし、耳を預けた。


「いいこと、思いついたの」

「⋯⋯いいこと?」

「うん」


 結愛の吐く、温かい息が、直接耳に入り込んでくる。


「私が、ずーっと、見ててあげる。私の所有物(かれし)の、優磨くんを」

「⋯⋯? 見てるって、どういう――」

「そのまんまに、決まってるじゃん」


 俺の耳を、その言葉が通過したとき、背筋が凍った。

 結愛の笑顔には、底しれない何かが眠っていた。その目は、()()、だった。

 

「それじゃ足りない? じゃあ優磨くんの、すべてを、管理して――」

「もう、いいよ。わかったから」


 これ以上、聞きたくなかった。これ以上、愛情がエスカレートする、⋯⋯考えないでおこう。


「全部私に任せてくれれば、いいんだよ? ぜーんぶ、お世話してあげるから」


 俺は、背筋の冷たさを誤魔化すように、机に突っ伏した。

 このときまでも、結愛の視線を、常に感じていた。



 ******



 俺はガチャリ、とドアを開く。俺の前に、誰かが家に入る。

 誰かは、靴を乱暴に脱ぐと、急ぐようにリビングへ向かった。

 その靴を、俺がしれっと直す。それが、いつしか当たり前になっていた。

 

「おかえり。優磨と、結愛ちゃん」


 家に帰ると、母が1人、キッチンで立っていた。トントントン、という音を響かせている。


「ただいまー! 今日の夜ご飯は!?」


 ドタドタと、足音を立てながら、キッチンへ向かう結愛。俺にはそれが、未だに新鮮でならなかった。


「そっか。いる、のか」


 まだ慣れないこの日常。学校のアイドルが、――結愛が、こんなところにいるなんて、()()()では、見当すらつかないことだった。

 あの日、結愛を迎えた、あの日。あれは、何時(いつ)だっただろうか――。

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