第3話 それはそれは丁寧な"教育"
「教育、してくるから。待ってて」
放課後、結愛は俺を置いて、校舎裏へ向かっていった。
「⋯⋯何をすんだ、結愛は」
俺はもう一度、あの生徒に、頭を下げた。心の中で。
俺がぼーっと結愛を待っていると、声がする。
「おいテメェ! ちょっと、来てもらおうか」
そこにいたのは、クラス随一の陽キャだ。そしてヤンキーっぽい見た目。
「な、なんですか?」
少し怖気づきながらも、一応丁寧に接してみる。そうすれば、案外見逃されるかもしれない。
「テメェどの面下げて『なんですか?』だ! 行くぞおめーら」
そのヤンキーの後ろから、ぞろぞろと男子が出てくる。
「連れてこい」
ヤンキーはそれだけ言うと、背を向けて去っていった。
「お前、なんであいつ怒らせたんだよ!?」
どうやらヤンキーの仲間にも、マシなやつはいるらしい。
「知らねぇよ。あっちが勝手に突っかかってきただけだ」
「そうか。すまんが、連れてくぞ」
そのマシなやつは、他の仲間に合図をした。
「そういえば、誰?」
俺が純粋に聞いただけなのに、沈黙が流れる。
しばらく、気まずい空気が流れた。
「東郷千鶴だ。覚えとけ」
そんなやついたっけなー、と記憶を掘り返してみるが、見当たらない。
「まあ、いいや」
「なんだそれ。とりあえず行くぞ」
俺は東郷ともう1人に腕を掴まれ、向かわされることになった。
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「よくやった。もう帰れ」
ヤンキーは仲間に、どっかいけと言うように、あごだけで追い払った。
それに紛れて、俺も行こうとしたが、もちろんバレるわけで。
「最初に、名前は⋯⋯?」
「名前ぐらい覚えとけよ。武蔵稜峨だ」
ヤンキーは、文句を言いながらも、一応答えてくれた。
「おいクソ陰キャ、どういうつもりだ?」
「どういうつもり、って、何が?」
俺には思い当たる節がない。何が、こいつを怒らせたのか、わからないのが、1番怖い。
「結愛様だよ! テメェみてぇなクソ陰キャがあんな学園のアイドルと付き合えるわけねぇだろうがよ!」
「⋯⋯あー、そういうこと?」
結愛と聞いて、ようやく理解した。多分、非公式ファンクラブにでも入ってんだろう。
「別に、ただの友達だよ」
「ただの友達が、こんなことできるわけねぇだろ?」
そのヤンキーは、俺に向けて、自分のスマホを見せてくる。
「お前、しれっと結愛を抱きしめてんじゃねぇぞ!? 恋人繋ぎもしてやがったしな!」
その声には、怒りだけでなかった。妬みや嫉妬も、感じられた。
多分、羨ましいんだろうね。
「えっと、昔ながらの、知り合い、っていうか⋯⋯」
「昔からの知り合い? ううん。私たちは、恋人、だよ?」
そのとき、その場に似つかわしくない、甘ったるい声がする。
「ねぇ、あなたが私の優磨くんを連れてきたの?」
結愛は、ものすごい笑顔で言ってくる。その笑顔の奥には、何も灯っていなかった。
「連れてこさせただけ、だ⋯⋯」
ヤンキーの後ろ方から、だんだんと声が大きくなってきた。
あるとき、ようやく影を視認できた。
「結愛、なんで、ここに⋯⋯」
「私の所有物の心拍数が、異様に上がってるんだもん。心配になって、見に来たんだ」
結愛は、笑顔ではない渾身の笑顔で言った。
「教育、してあげるから。逃げたら⋯⋯どうなるんだろうね!」
可愛い顔して、怖いことを言う。もう、見てるこっちが怖いよ。結愛。
「優磨くんは、教室戻って。次いなかったら、私⋯⋯」
「わかったよ! わかったから! 早まるなよ!?」
結愛は、少し首を揺らしてから、こう言った。
「それは、所有物次第、かな」
結愛はそれだけ言うと、体育館裏へ戻った。
何か声が聞こえるが、何を言っているかはわからない。これは、わからない方が、幸せなんだろうけど。




