第10話 インターホンと連絡網
後日、学校の連絡網から、こんな連絡があった。
『保護者の皆様へ』
見慣れたような出だしから入る文章。
『この度は、大変なご迷惑をおかけしましたこと、お詫び申し上げます』
やけに丁寧で、誰かが作ったような、そんな文章が連なっている。
『本校生徒3名が行方不明となり、誘拐を視野に、捜査を行っています』
その連絡は、すぐに本題に入っている。
『危険人物が周囲にいる可能性が高いため、不要不急の外出は控えるよう、伝えることをお願いいたします』
そして、すぐ終わる。とても簡潔で、質素な文章だった。その文章からも、焦りを感じてしまうほどだ。
「ねえ、大丈夫かなぁ?」
結愛がすごく心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「さぁな。とりあえず、引きこもってろってことだろ?」
「そう、だと思うけど⋯⋯」
結愛は、なぜか心配そうに周囲を見渡した。どれだけ心配しても、助からないってのに。
「ねぇ、やっぱり私、大丈夫かな⋯⋯」
結愛は、前からずっと『大丈夫』と繰り返し言うようになっていた。もう、口癖以上の何かなのかもな。
「心配すんなって。放っておきゃなんとかなるんだよ、こういうのは」
フォローになってるのかもわからないが、一応フォローしておく。一応。
「そういうことじゃなくて。私、何も言われないかな、って」
「⋯⋯言われる?」
俺は、色々考えてみた。ただ、思いつかない。結愛が何か言われる理由を、一切思いつかなかった。
「まぁ、大丈夫っしょ」
俺は軽い気持ちで結愛にそう声を掛けた。
『ピンポーン』
俺が結愛を慰めていると、インターホンが鳴った。
「はー――」
「だめ。不審者、かも」
結愛の目つきは、鋭いものだった。すべてを脅かす⋯⋯は、言い過ぎか。
「テレビ局の者です。行方不明の事件について知っていることなどありませんでしょうか?」
インターホンの向こう側から、そんな声が流れる。テレビか。めんどくさいし、居留守でいいや。
「静かにしてないと。バレちゃうかも」
結愛は、息を殺していた。
「おぉ、そうだな」
俺はそんな結愛に、珍しく感心しながら、声を落とした。
「多分、ああやって家を回ってるんだろうね」
「そ、そうだな」
珍しい。結愛がこんなに冷静なの。珍しくてたまらない。
「私と優磨くんの時間を、奪おうと、してるんだよ?」
⋯⋯気のせいだった。いつもの調子だったな、結愛。
「あ、お、おん⋯⋯」
しばらく待っていると、ようやく庭から出ていく姿が見えた。
「ふぅ。なんとか、耐えた」
「うん。2人きりの時間を奪われずに、済んだね?」
ノーコメントで。と、心の中で突っ込んだ。
結愛は当たり前だよね? と言いたいような表情でこちらを見つめてくる。
「ねぇ、私たちだけの時間って、あとどれだけ、なのかな?」
結愛がそう言ったとき、俺の頭は理解しきれなかった。
「⋯⋯?」
俺は首をかしげながら、結愛の方を向いた。
「ううん! なんでもないよっ! それは、ずーっと、だもん!」
すっかりいつもの調子に戻った結愛。心の奥底では、安心している俺がいた。
「そうか。ならよかった、のかも、な」
「うんっ!」
思いっきり首を縦に振った結愛。その拍子に、机にあごをぶつけていた。
「いった〜!」
そこには『ドォン』という音とともに、結愛の悲鳴が響き渡るのだった。
「ははっ、大丈夫かよ」




