第4話 あなたの分も、あります
灯火の聖女は、百年前、戦場で食事を作っていた。
呪いによる飢えを和らげ、遠くへ運ぶ食事にも祝福を残した。
ただし、食べ物なら何でも、何人分でも、ではなかった。
「記録にある限りでは、自分の意志で作り、食べる人へ渡すことが必要です。強制された供物には、働かなかった」
イオさんは、本を閉じた。
「この人は最後に、祝福を結界へ捧げたとあります。守りは強くなった。ただ、その後、本人の竈に光が戻ったという記録はありません」
「検査の宝珠は、戦いや結界に使う光を測るものです。竈の祝福を測るためには、作られていません」
半年の検査を思い出した。
手をかざす。光らない。祈る。光らない。
私は、壊れた灯りのように扱われた。
「では、神殿も、私の力を知らなかったのでしょうか」
「調べなければ分かりません。知らなかったことと、偽物と決めて罰することは、別です」
その言葉を、私は何度も、頭の中で繰り返した。
力の量にも、限度があった。
大鍋を四つ仕上げたあと、五つ目では、祝福の光が弱くなる。
翌日、休んでから試すと戻った。
呪われていない私や厨房の人には普通の料理だったが、騎士たちには違いが分かる。
私は、何もかも引き受けないことを覚えた。
足りない日は、人数を分ける。出征中の分は、持ち運べる料理にする。
休みの日には、祝福のない食事が出た。
騎士たちは、それでも食べる。
砦で生きていくための食事を、失うわけではない。
「あなたが来る前にも、私たちは食べていました」
マルタさんが、洗った鍋を立てかけながら言った。
「美味しいと言ってもらえなかった。でも、腹を減らして剣は振れないでしょう」
私は、彼女の手を見た。
何年も、この厨房を動かしてきた手だった。
「ここを残してくださって、ありがとうございます」
マルタさんは、鼻の頭をこすった。
「そういうのは、お茶を飲んでから聞くことにしたいね」
その日は、私の休みだった。
レオンも非番の時間を取り、町へ行くと言った。
「一緒に来るか。厨房の買い物があるなら、荷物を持つ」
「それは、仕事になってしまいます」
彼は、口を閉じた。
考え込んで、言い直した。
「君と、仕事以外の話をしたい」
私は、帽子を取りに部屋へ戻った。
鏡の前で、何度も髪を直した。
町の小さな広場で、焼き菓子を買った。
祝福のないものだ。
レオンは、それを知っていて、自分の分も買った。
「無理に食べなくても」
「君が、どんなものを美味いと思うか知りたい」
私は一口食べた。
蜜の香り。硬い端。真ん中は、柔らかい。
そう説明すると、彼は同じところを噛んだ。
「外と中で、違うのか」
「はい。次に作るとき、こんな形も試してみます」
彼は包み紙を折って、菓子をしまった。
「味が戻ったら、またここへ来たい」
私は、残りを急いで飲み込まないようにした。
嬉しい言葉ほど、返事を慌ててしまう。
「一緒に、ですか」
彼が、こちらを見た。
「一緒に」
帰りは、彼の歩幅が少し小さかった。
私は、その隣を歩いた。




