↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/10

第4話 あなたの分も、あります

 灯火の聖女は、百年前、戦場で食事を作っていた。

 呪いによる飢えを和らげ、遠くへ運ぶ食事にも祝福を残した。

 ただし、食べ物なら何でも、何人分でも、ではなかった。


「記録にある限りでは、自分の意志で作り、食べる人へ渡すことが必要です。強制された供物には、働かなかった」


 イオさんは、本を閉じた。


「この人は最後に、祝福を結界へ捧げたとあります。守りは強くなった。ただ、その後、本人の竈に光が戻ったという記録はありません」


「検査の宝珠は、戦いや結界に使う光を測るものです。竈の祝福を測るためには、作られていません」


 半年の検査を思い出した。

 手をかざす。光らない。祈る。光らない。

 私は、壊れた灯りのように扱われた。


「では、神殿も、私の力を知らなかったのでしょうか」

「調べなければ分かりません。知らなかったことと、偽物と決めて罰することは、別です」


 その言葉を、私は何度も、頭の中で繰り返した。


 力の量にも、限度があった。

 大鍋を四つ仕上げたあと、五つ目では、祝福の光が弱くなる。

 翌日、休んでから試すと戻った。

 呪われていない私や厨房の人には普通の料理だったが、騎士たちには違いが分かる。


 私は、何もかも引き受けないことを覚えた。

 足りない日は、人数を分ける。出征中の分は、持ち運べる料理にする。

 休みの日には、祝福のない食事が出た。

 騎士たちは、それでも食べる。

 砦で生きていくための食事を、失うわけではない。


「あなたが来る前にも、私たちは食べていました」


 マルタさんが、洗った鍋を立てかけながら言った。


「美味しいと言ってもらえなかった。でも、腹を減らして剣は振れないでしょう」


 私は、彼女の手を見た。

 何年も、この厨房を動かしてきた手だった。


「ここを残してくださって、ありがとうございます」


 マルタさんは、鼻の頭をこすった。


「そういうのは、お茶を飲んでから聞くことにしたいね」


 その日は、私の休みだった。

 レオンも非番の時間を取り、町へ行くと言った。


「一緒に来るか。厨房の買い物があるなら、荷物を持つ」

「それは、仕事になってしまいます」


 彼は、口を閉じた。

 考え込んで、言い直した。


「君と、仕事以外の話をしたい」


 私は、帽子を取りに部屋へ戻った。

 鏡の前で、何度も髪を直した。


 町の小さな広場で、焼き菓子を買った。

 祝福のないものだ。

 レオンは、それを知っていて、自分の分も買った。


「無理に食べなくても」

「君が、どんなものを美味いと思うか知りたい」


 私は一口食べた。

 蜜の香り。硬い端。真ん中は、柔らかい。

 そう説明すると、彼は同じところを噛んだ。


「外と中で、違うのか」

「はい。次に作るとき、こんな形も試してみます」


 彼は包み紙を折って、菓子をしまった。


「味が戻ったら、またここへ来たい」


 私は、残りを急いで飲み込まないようにした。

 嬉しい言葉ほど、返事を慌ててしまう。


「一緒に、ですか」


 彼が、こちらを見た。


「一緒に」


 帰りは、彼の歩幅が少し小さかった。

 私は、その隣を歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。