第6話 ダンジョン初見
冒険者が集う街、ロムクラス。
そのギルド集会所からほど近い場所にある宿屋──“子の花”。
そこに部屋を取ってもらった私は、はやる気持ちを抑えられないまま、モニターのようなアイテムの前に陣取っていた。
『──先生、聞こえているかしら』
「おおおおすごっ!! 聞こえてます!……私の声も聞こえてますか?」
モニターから聞こえてくるソフィーさんの声に、思わず興奮して身を乗り出す。
『聞こえているわ。今、付けるわね』
ソフィーさんがそう言うと、ぶぅん、という音とともに、モニターに狭く薄暗い洞窟のような場所が映し出された。
──ダンジョンのライブ映像だ!!!
「映ってます! すごい……これがダンジョンの第一層なんですね……!」
私が意識を失って、ついぞ見えなかった景色に、興奮が抑えきれない……!
私が転移したときは、ダンジョン入り口にある広場のような場所で気分が悪くなって、ダンジョンの入口に近付くと──気付いた時には病院だったんだよね。
『そうね、ここが第一層の“始まりの小路”……私も久しぶりすぎて、あまり覚えていないのだけど』
転移陣が五層ごとにあるから、第一層を探索するのは二、三年ぶりくらいらしい。
まあ、ゲームでも最初のマップなんて行かないしね。
でも、私からすれば初めてのダンジョンの景色。
この暗ーい感じとかも雰囲気があって、いいよね……!
「ではソフィーさん──第一層に入ったご感想は!?」
『……か、感想?……そうね、懐かしい気持ちよ』
「他には? 気温とか湿度とか、緊張するーとかないんですか!?」
『まあ、ないわね。だって第一層だし……』
「いやあ、ダンジョンを舐めすぎですよ!」
『行ったことない先生に言われたくないわ』
「うぐぅ……」
ソフィーさんの発言に私はダメージを受けつつも、とりあえずテーブルの上のジュースをグイっと飲む。
──うん、この“マジメロンジュース”──結構イケるね。
ソフィーさんから巻き上げたお金で、その辺で適当に買ったやつなんだけど。
『じゃあ、さっさと入るわよ。今日は第一層だけでいいのよね?』
「はい、その代わり楽しんでくださいね?」
『……わかったわよ。もう、楽しむって何……』
ため息をつきつつ、ソフィーさんは始まりの小路を歩き始めた。
……そう。転映具なるアイテムを利用すれば実質的なダンジョン攻略ライブ配信を楽しめると分かった私は、早速ソフィーさんに“弟子にする条件”を追加したのだ。
それは──“私の代わりにダンジョンを楽しむところを見せること”。
もう何が何でも弟子になりたいソフィーさんは二つ返事で了承したけど、今は何だか少し不満そうだ。
すっかり観戦モードの私とは裏腹に、ソフィー視点の映像はせわしなく揺れながら、“始まりの小路”をずんずん先へ進んでいく。
「……だいぶ早足ですね」
『そりゃ、早く終わらせたいもの。だって今さら第一層なんか探索しても、何にもならないんだから』
「……楽しまないと、今日の稽古は無しかなー」
『楽しい! 楽しいわ! ほら、間もなく最初の魔物部屋よ!』
「おおおっ! 魔物だとっ!?」
視界が開けると、そこにはソフィーさんの言う通り、大きめの部屋が広がっていた。
大きさは体育館ほど。
そして、そこに点々と存在する影は、まさか……!
「あれが、魔物……!?」
『そうよ。ホーンラビットとスライム、あとは、ビッグラットね』
ソフィーさんが転映具をズームして、部屋の中の魔物を映してくれる。
ホーンラビット──中型犬くらいの大きさの、立派な一本角が生えたウサギだ。
灰色の体毛と赤い目をしていて、見るからに獰猛そうなのがイイ。
続いて、スライム。
目・鼻・口がついた可愛いやつ──ではなく、緑色のドロッとした液体が蠢いている感じで、気持ち悪い……! 臭そう……!
それがまたグッド!
最後は、ビッグラット。
……ただのデカいネズミやん!? と思ったけど、ネズミのすばしっこさで動き回られたら、結構厄介そうだよね。
齧られたら、普通の人なら死んじゃうだろうし。
そんなところがステキ!
『全員、雑魚ね』
「まあそうですよねー。最初の部屋なんだから。とりあえずもう少し魔物を観察させてください」
『……分かったわ』
ホーンラビット、スライム、ビッグラットの三匹を見ながら、マジメロンジュースをグビッと。
うーん、いいねぇ。おつまみも買えば良かった。
『……そろそろ、次の部屋に進んでいいかしら』
「いやいや、目の前に魔物がいるんだから、戦おうよ」
『分かったわよ……はあ……』
ソフィーさんはため息とともに、早足にスライムに近寄ると、転映具を持っていない手で剣を抜いて、横一閃。
ズバッと切り裂かれたスライムは、一瞬で絶命し、煙となって消えた……。
…………。
「味気なっ! 戦闘味気なっ!」
「……仕方ないでしょう。弱いんだもの」
「これじゃあ、スライムがどんな魔物で、どんな戦い方をするのか、とか、何も分からないんですけど!?」
「そんなの気にしたことないわ……。それより、ドロップアイテムよ」
「おおっ! ドロップアイテム!?」
目を凝らすと、ドロッとした何かが落ちているのが分かる。
「それは……?」
「スライムなんだから“スライムゼリー”よ。持って帰らないといけない?」
「当たり前! スライムゼリーかー、どんな触感なんだろう? 食べれます?」
「……食べてみたら? 先生なら大丈夫なんじゃない?」
「まあ私のHPは98742だからね。これで死んだらスライムゼリーは最強の毒物ってことになる」
そう言ってはしゃぐ私をよそに、ソフィーさんはスライムゼリーを腰に提げた革製の素材袋に収める。
そしてさっさと次の獲物──ビッグラットに向かって歩を進めた。
ビッグラットはちょろちょろとソフィーの周りを動き回り、隙を見て齧ろうと飛び掛かってくるが……。
──スパァン!
……と、気持ちいい音とともに、一撃のもと切り捨てられた。
「ドロップアイテムは──”大鼠の小牙”ね。一応、これも持って帰るわよ?」
「いや味気な。まあ、うん、お願いします! で、それは何に使う素材なんですか?」
「さあ。第二十層くらいまではさっさと攻略したから分からないわ。ドロップアイテムもほとんど拾わなかったし」
「つまんなっ!」
「一応、〈識別の魔導書〉を読んでるからドロップアイテムの名称は分かるけれど、詳細は分からないの」
識別の魔導書とは、簡単に言うとゲットしたアイテムの説明が見れるようになる魔導書なんだとか。
魔導書にも出版社があって、それぞれの出版社でアイテムの説明の量が違ったりするらしい。
ソフィーさんは、一番説明が簡素なものを使っているそうだ。
……何それ欲しい。後でソフィーさんからお金貰って買いに行こ。




