第5話 弟子入りの条件
その後、魔法により再び元気になったソフィーさんの権力により、その日のうちに私はステータス測定をすることなく冒険者登録を終えることができた。
あんなに「測定結果が~」だの「受理されなくて~」だの言われてたのに……。
これが権力か……!
そして、お姉さんから無事、冒険者証をもらうこともできた。
これで、ようやく正式な冒険者になれたわけだ。
まあ、肝心のダンジョンには入れないんだけどね。ちぇっ。
銅褐色のプレートには、私の名前と、冒険者としてのランクが記されていた。
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【氏名】 クロノ・マコト
【ランク】 初級
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ランクは、もちろん初級。
ここから、ダンジョンの攻略実績に応じて、昇格していくらしい。
ただ、私はダンジョンに入ることが出来ないから、これ以上上げることはできないんだけど……。
……まあ、身分証が欲しかっただけだし!
そう自分を納得させて、私はソフィーさんが待つテーブルに向かい、腰かける。
「まさか、あなたがダンジョンアレルギーだとは……。そもそも初めて見たわ……」
「そうなんです……」
「あなたほどの人が、ダンジョンに入れないなんて……もったいなさすぎるわ……」
私が一番そう思ってます!!!
……とは声に出さなかったけど。
ソフィーさんは、私をしばらく眺め、何か考えるように口元へ手を当てると──。
「あなた、明日も私と稽古して頂戴」
「……はい?」
「というか、毎日、私の稽古に付き合って頂戴」
「な、なんでですか……?」
「どうせダンジョンに潜れないんなら、暇でしょ?」
…………まあそうだけどさ、言い方ってものがあるんじゃない?
そんな私の内心などつゆ知らず、ソフィーさんは平然と続ける。
「私は来週、パーティで第三十層のボスに挑むつもり。それまでにもっと強くなる必要があるのよ」
「……第三十層?」
「あなた、そんなことも知らないの?」
「は、はい。よく知らなくて……」
「はあ。じゃあ、ダンジョンについて簡単に説明してあげるわよ」
呆れ顔のソフィーさんによる、ちょっとしたダンジョン講座が始まった。
まず、この世界には一つの巨大な地下迷宮──通称、“ダンジョン”が存在する。
これはもちろんのこと知ってる。魔物とか宝箱とかあるやつだ。
ここからが初知り情報なんだけど、ダンジョンには五層ごとにボス部屋があるらしい。
そして、第三十層の突破が、最高ランクの神級への昇格条件なんだとか。
つまり、今より上のランクを目指すための、大事なボス戦が来週あるということだ。
そりゃ、レベルアップを焦るのも分かるし、私に稽古に付き合ってほしいのも納得。
……言い方はアレだけど。
「でも、第三十層って、そこに行くだけでも大変じゃないですか? 第一層からずっと潜っていくんですよね?」
「毎回そんなことしてたら、時間がかかって仕方ないでしょう。転移陣を使うのよ」
「転移陣……一瞬で別の場所に移動する、ってことですか?」
「他に何があるのよ。五層ごとに、各国が転移陣を敷いているの。それを使えば直接その階層に行けるわ」
「各国……?」
「……何も知らないのね。どこの国も、他国より先に最奥へ辿り着こうと競い合ってるんだから。冒険者を送り込む設備だって、国が予算を組んで設置してるのよ」
──つまり、各国が、それぞれで転移陣を用意して、五層ごとに敷設しているってことみたい。
だからソフィーさんたち一行は、第二六層から初めて、第三十層にあるボス部屋を目指せばいいってことになる。
……楽しそうで羨ましいよ。ちぇっ。
「そして私は、来週神級になって、先駆隊に加わるつもり。だから出発までに少しでも強くなっておきたいのよ。とにかく、明日から毎日、私と稽古して頂戴! いいわね?」
「嫌です」
「…………え?」
ソフィーさんは口が半開きで固まってしまった。
どうやら、断られるとは思ってなかったらしい。
「い、嫌って……どうして?」
「だって、私からしたらソフィーさんがそのゴーレなんとかに加わるとかどうとか、関係ないですし。冒険者登録はありがとうございました。それじゃあ、私はこれで──」
「ま、待って!」
席を立ち、出口へ向かおうとすると、ソフィーさんに服の袖をつかまれた。
「すみません、私、これからどうやって暮らそうか考えないといけないんで」
「──そう、お金! 今後謝礼を渡すわ! 衣食住は私が保証してあげる。ダンジョンに行けないなら、お金に困ってるでしょう?」
ソフィーさんが、まるで悪役みたいなことを言い出した。
…………だけど正直、めっちゃ魅力的な提案なんだけど。
だけど、今ここで急に「おっけーです!」って言ったら、なんかお金に靡いたヤツみたいで嫌だ……。
いや実際にお金に靡いたんだけども……。
そう思って、私はくっそーもったいねーと思いながらも、首を横に振った。
「いえ、結構です。自分のことは自分でやりますんで。それじゃ」
「お願い、待って! どうして!? 私がこんなに頼んでいるのに、どうしてよ!?」
……きっとソフィーさん、これまでちやほやされてきたんだろうな。
悪い人じゃないのは分かるけど、自信満々なところとか、私は苦手かも。
「……せ、先生。お願い……します」
「……先生? 私のことですか?」
「そうよ。弟子入りしてあげるわ! だから毎日、私の稽古に付き合って頂戴!」
ソフィーさんが「これでどうだ!」と言わんばかりの顔で、そう言い放った。
ソフィーさん的には、弟子入りが結構なことなんだろう。
……私には効果ないけど。
「弟子は募集してないんで。それじゃ」
「ま、待って……お、お願い……します。やっと、やっとレベルが上がったの。先生がいないと、もう上がらないんじゃないかって……ここで終わりなんて、嫌なの……お願い……」
ソフィーさんの声が、少しずつ小さくなっていく。
さっきまでの、絶対に自分の話が通ると思っていそうな態度は、どこかに消えてしまっていた。
私の袖をつかんだまま、こちらの顔をうかがってくる。
「……やっと、強くなれるようになったのよ。ここで終わりなんて、嫌なの」
……そんな顔されるとさすがに断れない。
本当に悩んでいたんだろう。
……それに、無職の私としては、お金を貰える手段として結構ありがたいし。
「……分かりました。そこまで言うなら、稽古に付き合います」
「ほ、本当!? 本当ね!?」
「はい」
「やった! ありがとう、先生!!」
ソフィーさんが子供のようにはしゃぐ。
さっきまでの不安そうな表情はウソのように。
私は小さくため息をつくと、もう一度椅子に腰を下ろした。
すると、ソフィーさんも向かいの席に座り直し、ウキウキで身を乗り出してくる。
「じゃあ、明日からお願いするわね! 場所は私の方で用意しておくわ! それとそれと、どこかでダンジョンでの私の魔物との戦いぶりも指南してほしいの!」
次々と私とやりたい稽古内容を話すソフィーさん。
でも……。
「それは……ソフィーさんもご存じの通り、私、ダンジョンに入れないので……」
「それなら大丈夫よ。先生はダンジョンに入れなくても、私の戦いは見てもらえるわ」
「えっ、どうやってですか?」
「転映具を使うのよ!」
「……転映具? なんですかそれ?」
ソフィーさん曰く──。
転映具とは、離れた場所に映像や音を送ることができるアイテムなんだとか。
解析が必要な未踏の地や、緊急事態が起こったときに、地上と連絡する手段として有能なんだけど、
そもそも非常に高級だし、嵩張るしで、必要な時にしか持ち込まないみたいだけど……。
「転映具を私が一つ持って潜れば、先生は地上にいながら、私の戦いぶりを見れるわ!」
へえー、私が地上にいながら、ダンジョンの中を見れるんだ。
…………ん?
「それって、リアルタイムですか? それとも後で映像を確認する感じ?」
「リアルタイムに決まっているでしょう。先生の声も私に届くから、気付いたことがあったら教えて頂戴ね」
「…………」
「……先生? どうしたの?」
「それだぁ!!!」
「きゃっ!? びっくりした!!」
思わずテーブルに両手をついて叫ぶ私に、ソフィーさんはビクッと全身を震わせた。




