第2話 ステータス再測定
「ダンジョンアレルギー……ですか?」
この街──ケンパバーンにある冒険者ギルドにやってきた私。
受付で”ダンジョンアレルギー”と書かれた診断書を渡すと、お姉さんは首を傾げた。
このお姉さんは、この前、私の冒険者登録をしてくれた人だ。
「はい……。ダンジョンに入ったら意識を失っちゃって……。なんか十万人に一人とからしいんですけど……」
私が症状について話すと、お姉さんは気の毒そうに眉を下げた。
「それは災難でしたねぇ。私もダンジョンアレルギーっていう名前は聞いたことあるんですけど、本当になってる人を見たのは初めてです」
「やっぱり超レアなアレルギーなんですね……はぁ……」
「お気の毒です……。とにかく、いただいた内容はマコトさんの登録情報に追記しておきますね。──って、そうだ。マコトさん」
「はい?」
「この前のステータス測定の結果なんですが……やっぱり受理されませんでした」
ステータス測定──ああ、冒険者登録のときにやったやつか。
登録情報に記載する用に、なんか水晶みたいな測定器に手を置いたんだった。
それだけで、各ステータスの数値が出てくるんだとか。
ただ、それで表示されたのがあのトンデモステータスだったものだから、測定器のエラーだと思われてるんだよね。
でも何度やっても同じ結果だから、受付のお姉さんも困って、呼ばれたベテランそうな職員さんも困って、最後に出てきた上司っぽい人も困ってた。
結局、どうしようもないからとりあえず出てきたステータスで本部に提出してみる──ってことになってたんだけど、やっぱりダメだったらしい。
「現在の最高レベルでも100前後ですし、記録に残っている人類史上最高のレベルでも120程度ですから……。さすがにマコトさんの947は、測定結果として受理できないそうで……」
「そりゃそう……」
神様、もう少し世間に馴染むくらいで良かったです──って言ったら贅沢か……。
「というわけで、お手数なんですけどもう一度測定をお願いできますか?」
「はい、それはいいのですが……」
同じ数字が出る未来しか見えない。
だって、実際にそのステータスなんだから。
そんな私の不安をよそに、受付のお姉さんは自信ありげに集会所の奥へと目を向けた。
「今回は、旧式の測定器を使ってみてほしいんです。訓練場の端に置いてあるのですが、あっちは仕組みが単純なので、今の測定器より正確に測れるんじゃないか、って話になりまして。ただ、古い方はステータスを一項目ずつ測らないといけないので、少し面倒なんですけど……」
「一個ずつ……それは確かに面倒ですね……」
HP、MP、筋力、知力、敏捷、精神、器用──つまり、七回測定する必要があるってことみたい。
……面倒だけど、仕方ないよね。
冒険者登録すると貰える冒険者証は、身分証代わりに使えるらしいのがデカい。
「分かりました、測ってきます……!」
「ありがとうございます。測定方法はそれぞれの測定器に書かれていますので。結果をこちらの記録用紙に記入して、お持ちください」
というわけで、私はお姉さんから用紙を受け取り、訓練場に向かった。
◇
ギルド奥の訓練場に入ると、そこには思っていた以上の人だかりができていた。
広い訓練場の中央には、木刀を持った冒険者たち。
その周りを、大勢の物見遊山な冒険者が囲んでいる。
そんな訓練場の入口には、大きな立て看板があった。
『【駆け出し冒険者応援!】冒険者ギルド主催 公開稽古【死なないでね】』
──死なないでね、って、稽古で? それともダンジョンで?
流石に後者だよね……?
物騒な言葉に注意を惹かれた後、講師の名前が書かれてている部分を見ると、そこには上から別の紙が貼られていて、こう書かれていた。
『本日の講師 至級冒険者 ソフィー』
ソフィーという冒険者が今日の講師らしい。
至級というのは、たぶん冒険者のランクだろう。
それにしても、冒険者ギルドもこういう催しをやってるんだなぁ。
確かに冒険者に成り立てで、いきなりダンジョンに潜ったら死んじゃう可能性も高いし、こういうのは大切なんだろう。
……講師として生計を立てるのもありかも?
そんなことを考えていると、どこからか苛立ちを滲ませた女性の声が聞こえてきた。
「全く、こんなことをしてる場合じゃないのに……!」
声のした方を見ると、そこには腰まで伸びた白金色の髪の女性が、木刀を片手に訓練場の中央で仁王立ちしていた。
その横で、今回の公開稽古の運営っぽい人が、困ったように顔を引きつらせているのも見える。
「す、すみません、ソフィー様……。ゴルデス様──ソフィー様のおじいさまが、急に腰を痛めてしまいまして……」
「分かってるわよ、そんなの。……来週には第三十層のボスなのに」
淡い青色の瞳を細め、ソフィーさんは大きなため息を吐く。
綺麗な人だけど、今は眉間にすごくしわが寄っていた。
どうやらあの人がソフィーさんで、急に代役を頼まれてイライラしているようだ。
それは、まあ……機嫌が悪くなるのも仕方ないけど。
──っと、それよりも測定、測定。
私は人だかりを避けるようにして、訓練場の隅へと向かった。
壁際には、何だかよくわからない古そうな器具がいくつも並んでいる。
サビだらけで放置されていたのがよくわかる見た目だけど、こういう原始的な仕組みのものほど正確で壊れにくいんだとか。
とりあえず、さっさと測定を済ませてしまおう。
今後の私の転生者人生を考える時間が必要だしね……。
何だよダンジョンアレルギーって……くそぅ…………!
私はアレルギーを、そして神様を恨みながら、早速【筋力】から測定を始めようとしたとき──。
「遅い……! そんなんじゃ第一層の魔物にすらやられるわよ!」
いつの間にやら始まっていたらしい公開稽古の声が聞こえてきた。
声の主は、ソフィーさんだ。
ちょっと気になって振り返ってみると、駆け出しっぽい冒険者の木刀が、宙を舞っていた。
ソフィーさんは流れるような足さばきで、その人の足を払って地面に転がすと、すぐさま木刀の先を喉元に突きつける。
「よそ見しない! 武器を落としたからって、そっちばかり見るとこうなるわよ! 相手は待ってくれないんだから!」
「は、はいぃっ!」
「次!」
──おおー、凄い。赤子の手をひねるように、次々と冒険者を無力化していく。
かなり実力差があるのが、誰の目からも明らかだ。
……というか、指導にものすごく感情が乗ってる。
そう思ったのは私だけじゃなかったみたい。
「……なんかソフィーさんイライラしてね?」
「まあしかたないよ、ボス挑戦前なんだって」
「しかも第三十層でしょ? 神級の昇格条件だし」
順番待ちをしている冒険者三人組が、そんなことを話しているのが聞こえてきた。
「それにしても、さすがソフィーさんだなぁ……」
「レベル69だぞ。国内屈指の冒険者なんだから、そりゃ俺たち初級じゃ相手にならんわ」
レベル69で国内屈指──なるほど。
じゃあ、やっぱり私のレベルは激ヤバではありそうだね。
……でもダンジョンに入れないから何の意味もないんだけど!!!
私もついでにイライラしつつ、【筋力】の測定器の前に立つ。
えっと……『備え付けの木刀で中央にある柱を叩いてください』……とのこと。
ふむふむ。じゃあ早速。
私は木刀を手に取ると、とりあえず中央の柱を適当にぶっ叩いた!
──ばしーんっ!
……すると、測定器がピコピコと音を立てる。
そして、『測定完了』と大きな音が鳴った。
……いや思ったより音が大きくて、何だか衆目を集めてしまっている。
『測定結果を発表します! あなたの【筋力】は──4701、4701です!』
そして、私の測定結果が、大音量で訓練場中に響き渡った。




