第4話 優先順位
ルナリアの涙を見た日からカントの行動は変わった。
「公爵家の晩餐会と伯爵家の夜会が同日ですか……。……ルナリア姫は伯爵家のほうに参加されるそうですからそちらで」
ある時は執務室で招待状を見ながらそうつぶやく。
「ルナリア姫、本日はぜひ一曲お相手いただけませんか」
「申し訳ありませんわ。少し疲れてしまっておりますの。今宵はご遠慮させていただきますわね」
「そう仰らずに。少しだけでも構いませんから」
「……失礼。少しよろしいでしょうか。ルナリア姫、主催の伯爵が呼んでおります」
またある時は、しつこい貴族に絡まれて困っていたルナリアを助けた。
余りにも自分らしくない行動を繰り返している。そう自覚したカントは、執務室で一人思慮を巡らせた。
「……近頃の僕は、なぜあんな行動を?」
近頃の判断を反芻する。当時並べていたメリットデメリットをもう一度並べてみる。リスクやコスト、得られるリターン。合理的な判断をしたときと、自分らしくない判断をしたときの条件を並べてみる。
「……おや」
自分らしくない行動をした時、そこには何かしらルナリアが関わっている。そう気づいた彼は、再度その判断を分析した。
「……伯爵家の夜会におけるメリットは、ルナリア姫に会えること。あの貴族に話しかける目的は、ルナリア姫を助けること……。なるほど。……優先順位が書き換わっている、と見て間違いはないでしょう」
カントは顎に手を当てて思考を続ける。
「……原因は不明ですが、基準が曖昧なままことを進めるのは好ましくありませんね」
このまま判断に一貫性がないのでは、不要な隙を生む。
「……暫定的に基準を更新しましょう。ルナリア姫を最優先事項として仮置きします。基準の修正は今後の判断、といたしましょう」
カントはそう言って机の上に書類を広げる。ペンを動かしながらも、頭の隅ではルナリアの涙が引っかかっていた。
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