第3話 夜会での涙
夜会で踊り疲れたルナリアは、少しテラスで休憩することにした。物陰に隠れて手すりに身を預け、彼女が小さくため息を漏らす。その時、少し物音がした。ルナリアは急いで姿勢を正して微笑む。テラスに姿を現したのは、カントだった。
「お久しゅうございますね。ルナリア姫」
「お久しぶりですわ。カント様」
二人は柔らかく微笑み合う。先に口を開いたのはカントだった。
「お一人でいらっしゃるとは珍しいですね。少しお疲れですか」
「ええ。月を見ておりましたの」
「確かに、今宵の月は美しい。月に照らされた貴女の横顔も、いっとう輝いていらっしゃいます」
カントの声はやけに聞き心地がいい。これが魅了か、とルナリアは警戒を強めた。
「お褒めいただき嬉しいですわ」
(思ってもないことを)
彼女は寸分の狂いもない笑顔を浮かべる。カントは笑みを崩さないまま、ルナリアに視線を向けた。
「あまりご無理はなさらないでくださいね」
ルナリアはぴたりと動きを止めた。
「……無理を?」
「ええ。遠くからいつも見ておりましたから」
カントはしれっとそう答える。そんなはずないのに。
「そのように気を張っておられる必要は、どこにもございません。もしよろしければ、僕をあなたの騎士にしていただきたいものです」
これはただの社交辞令。甘言だ。ルナリアはそう分かっている。そのはずなのに。
気がつけば、涙がこぼれていた。
「は……? え、なにこれ……」
彼女はぽたぽたと流れる自分の涙に困惑する。カントはその様子を見て、軽く目を見開いた。その視線は、ルナリアに固定されていた。
しばらく硬直していた彼は、はっと思い出したかのようにハンカチを取り出す。カントは自身の背でルナリアをホールから隠すように立った。
「姫。少し触れても?」
ルナリアが頷いたことを確認した彼は、そのハンカチで彼女の涙をそっと拭う。
「……なんで」
「……なんでとは」
「……なんで、そう、してくれんの……」
「……自分でも分かりません。ですが、貴女を優先すべきと判断しましたので」
カントは静かに微笑む。その笑顔は先ほどと変わらない。そのはずなのに。なんだか少しだけ、温かい気がして。
ルナリアはカントの視線から目を逸らせなかった。
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