第15話 枷の真実
呼んでも呼ばなくてもカントは部屋に来た。食事を食べさせてくれたり、適当な本を置いていったり。それだけのことが妙に心地よかった。
今日もルナリアはベッドの上で絵本を読んでいた。読んでいるのは「人間のロビン」だ。くまの男の子と人間のぬいぐるみの、柔らかく心温まる友情が綺麗な絵と共に綴られている。
「……ふふっ」
彼女は小さく笑い声をこぼす。そうしてしばらくページをめくっていると、喉が渇いてきた。ベッドの近くにある水差しに手を伸ばす。
「……そういえば、鎖が突っ張ったことないわね。あいつ、どんだけ長いの用意したのかしら」
そう呟きながら、彼女はなんとなしに後ろを見た。ひゅ、と息を呑んだ。鎖はどこにも繋がっていなかった。
「……え? は?」
鎖を手繰り寄せる。鎖は一切突っ張ることはなく、全部寄せることができた。……たまたま切れてただけかも。そう考えて反対の手枷の鎖を手繰り寄せてみる。鎖は一切突っ張らない。手枷も足枷もどこにも繋がってなかった。
「……まさか」
ルナリアは窓辺に立つ。窓枠に手をかけて、窓を開けてみる。一切の抵抗もなく窓が開いた。柔らかい風が薄いカーテンを照らす。
「……開いた」
じゃあ、ドアは? ドアには流石に鍵がかかってるわよね?
彼女はドアノブに手をかける。手が震える。ドアノブを回せば、一切抵抗なく回った。ゆっくりとドアを押せば、キィと音を立ててドアが開く。視界の先には、重厚だが明るい廊下が広がっていた。
ルナリアは恐る恐る一歩踏み出す。彼女の動きを阻むものは何もない。ルナリアはそのまま、一歩、もう一歩と歩き始めた。
廊下を進む。話し声はほとんど聞こえないが、人の気配がある。当てもなく歩いていると、部屋の扉が開いているのが見えた。「なんだろう」と中を覗いてみる。
中ではカントが書類仕事を進めていた。口を一文字に引き結び、書類に視線を向けたかと思うと空中に視線を動かす。時折指でとん、とん、と机を叩いていた。
(あいつ、まつ毛長いのね)
しばらく彼を見つめていると、ふと、彼の視線がルナリアに向いた。
「……おや」
「……入ってもいい?」
「ええ、どうぞ。そちらにソファが」
カントに勧められるままソファに座る。
「紅茶でも飲みます?」
「……じゃあ、飲む」
「少し待っててくださいね」
彼は笑って大きめのマグカップに紅茶を入れてくれた。温かくてホッとする。ルナリアが紅茶を飲み始めたことを確認し、カントはまた書類仕事に戻ります。
「……何してんの?」
「領地経営ですよ」
ルナリアは書類に視線を向ける。記載されていたのは有名な新聞社の名前だった。
「……新聞社に見えるけど」
「バレましたか」
「……世論操作?」
「そんなとこです」
「ふうん」
ルナリアは興味を失ったように紅茶に口をつける。
「……これ、外そうかな」
「では、これを」
カントはそう言って鍵を取り出すと、彼女に手渡した。
「……なんで持ってんの」
「スペアキーですよ」
「そう」
ルナリアは鍵を指先で弄ぶ。しばらく見つめてから、ゆっくりと手枷に差し込んだ。かちゃりと音がして枷が外れる。
「これ、どうすればいい?」
「そこら辺に置いてていいですよ」
「はあい」
外した枷をソファに置く。思ったより何も変わらなかった。
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