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第13話 飼ってよ

 後ろで行われている求婚劇には目もくれず、ルナリアは玉座の間を出た。このままここで暮らしていけるわけがない。良くてノーチェと同じ扱いだ。……だったらいっそのこと。そう考えたルナリアの頭に、カントの声がよぎる。


『昨日みたいになったときは、必ず僕のもとへ』


 窓枠にハンカチを結べば、来てくれるかもしれない。でも。


「……待つの、やだ」


 離宮の薔薇園に足を向ける。隅に追いやられるようにつるバラがあった。……妙に隙間が広い。

 体を差し込む。髪やドレスが裂けるのもお構いなしに通り抜けた。つるバラだけでなく、トリカブトの花びらも頭についている。


「……カントの屋敷、どっちだったかしら」


 彼女はボロボロになった髪やドレスを隠そうとしないまま、辺りを見回す。その時だった。


「おや、お散歩ですか?」

「……カント」


 カントがいつも通りの笑顔を浮かべて声をかけた。


「ねえ、カント」

「どうかなさいました?」

「あたし、壊しちゃった」


 ルナリアはへらへらと笑う。カントは声のトーンを変えず、「そうですか」と相槌を打った。


「何その反応」

「驚いたほうがよかったですか」

「……別に」


 ルナリアはふい、と視線を逸らす。


「……あのさ」

「なんでしょう」

「壊してよ」


 カントは微笑みを浮かべる。


「あんたのとこで壊れたい」

「……なら、うちに来ます?」

「いいわね。どうせなら、飼ってよ」


 ルナリアはけらけらと声を上げて笑う。


「いいですよ」

「いいの?」

「では、そのように」


 カントはす、っと手を差し出す。ルナリアは大笑いしながらその手を取った。





 ファーブラ公爵邸に着いたところで、ルナリアは「縛ってよ」と笑った。


「……なるほど。では、すぐ手配します」


 カントはそう言って使用人に指示を出す。しばらくすると、金属の枷が用意される。カントは分厚いベルベットで裏打ちされたそれを、一つずつルナリアの手足に嵌めた。彼は枷に鍵をかけると、その鍵をベッドサイドにある引き出しに入れた。


「鍵はここにありますから」

「そう」

「必要になったら呼んでください」

「……分かった」


 ルナリアが頷いたのを確認すると、カントは「今夜はもう休みます?」と微笑む。


「……ねえ」

「なんでしょう」

「……ここにいて、って言ったら怒る?」


 ルナリアはカントに視線を向ける。彼は軽く微笑んだ。


「構いませんよ」

「……いいの?」

「ええ。その方がいいでしょう?」

「あんたらしい」


 ルナリアは笑いながらベッドに倒れ込む。何にもできない、という安心感で息が楽になる。だんだんと瞼が下がってきた。


「……おやすみなさい」


 意識が途切れる直前、視界の端で彼の影が揺れた気がした。

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