第13話 飼ってよ
後ろで行われている求婚劇には目もくれず、ルナリアは玉座の間を出た。このままここで暮らしていけるわけがない。良くてノーチェと同じ扱いだ。……だったらいっそのこと。そう考えたルナリアの頭に、カントの声がよぎる。
『昨日みたいになったときは、必ず僕のもとへ』
窓枠にハンカチを結べば、来てくれるかもしれない。でも。
「……待つの、やだ」
離宮の薔薇園に足を向ける。隅に追いやられるようにつるバラがあった。……妙に隙間が広い。
体を差し込む。髪やドレスが裂けるのもお構いなしに通り抜けた。つるバラだけでなく、トリカブトの花びらも頭についている。
「……カントの屋敷、どっちだったかしら」
彼女はボロボロになった髪やドレスを隠そうとしないまま、辺りを見回す。その時だった。
「おや、お散歩ですか?」
「……カント」
カントがいつも通りの笑顔を浮かべて声をかけた。
「ねえ、カント」
「どうかなさいました?」
「あたし、壊しちゃった」
ルナリアはへらへらと笑う。カントは声のトーンを変えず、「そうですか」と相槌を打った。
「何その反応」
「驚いたほうがよかったですか」
「……別に」
ルナリアはふい、と視線を逸らす。
「……あのさ」
「なんでしょう」
「壊してよ」
カントは微笑みを浮かべる。
「あんたのとこで壊れたい」
「……なら、うちに来ます?」
「いいわね。どうせなら、飼ってよ」
ルナリアはけらけらと声を上げて笑う。
「いいですよ」
「いいの?」
「では、そのように」
カントはす、っと手を差し出す。ルナリアは大笑いしながらその手を取った。
◇
ファーブラ公爵邸に着いたところで、ルナリアは「縛ってよ」と笑った。
「……なるほど。では、すぐ手配します」
カントはそう言って使用人に指示を出す。しばらくすると、金属の枷が用意される。カントは分厚いベルベットで裏打ちされたそれを、一つずつルナリアの手足に嵌めた。彼は枷に鍵をかけると、その鍵をベッドサイドにある引き出しに入れた。
「鍵はここにありますから」
「そう」
「必要になったら呼んでください」
「……分かった」
ルナリアが頷いたのを確認すると、カントは「今夜はもう休みます?」と微笑む。
「……ねえ」
「なんでしょう」
「……ここにいて、って言ったら怒る?」
ルナリアはカントに視線を向ける。彼は軽く微笑んだ。
「構いませんよ」
「……いいの?」
「ええ。その方がいいでしょう?」
「あんたらしい」
ルナリアは笑いながらベッドに倒れ込む。何にもできない、という安心感で息が楽になる。だんだんと瞼が下がってきた。
「……おやすみなさい」
意識が途切れる直前、視界の端で彼の影が揺れた気がした。
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