第11話 密会の後
翌朝。ルナリアはカントの別邸で目を覚ました。ドレッサーの鏡を見たルナリアは、小さく嘲笑う。
「あたし、ほんとにぐしゃぐしゃだ」
白い肌には噛み跡が踊り、手首や首には指の跡が浮かぶ。だが。
「……あいつ、優しかった」
ルナリアには分かる。カントがどれほど丁寧に壊してくれたのか。
そんなことを考えながらベッドにごろりと横になっていれば、部屋のドアがこんこんとノックされた。
「ルナリア姫、入りますよ」
「ん」
短く了承すると、カントが部屋に入ってきた。その手には黒くいい匂いのする飲み物が乗ったお盆があった。
「……なにそれ」
「……コーヒー、というそうです。近ごろ手に入れたものですが、飲むと目が覚めますので」
「へえ。……どんな味?」
「かなり苦いですよ。飲んでみます?」
ルナリアはじっとカントを見て、そして、視線をそらした。
「……別にいい」
「おや。そうでしたか」
いい香りが鼻をくすぐる。ルナリアはベッドに横たわって、なんとなしに窓の外を見ていた。ふと、白亜の城が目に入る。
(……何も考えずにやったけど、このままじゃまずいよね……)
「ねえ、カント」
「どうかなさいましたか?」
「……なかったことに、してもらっていい?」
ルナリアがそう口にした瞬間、カントはコーヒーを飲む手を止めて、彼女をじっと見た。
「……まあ、できますが……」
「なに?」
「よろしいのですか?」
カントの視線から逃げるように、ルナリアは視線を逸らす。
「……あたし、王女だもん。……さすがにね」
「……分かりました。今夜のことは、僕の胸のうちに秘めておきます」
「……ほんと?」
「ええ。王女との密通はリスクでもありますから」
微笑みを浮かべるカントに、ルナリアは「リスクなのに、あたしを抱いたんだ」と軽く笑った。
「ええ」
「なんで?」
「さあ、なんででしょう?」
カントは人当たりの良い笑顔を浮かべる。ルナリアは「うさん臭い」と笑った後、「こっそり離宮に戻る方法、知らない?」と聞く。
「そこまで送りますよ。もちろん、誰にも見つからないように。ただし一つ条件が」
「条件?」
ルナリアはカントをまっすぐ見つめる。彼は「そう警戒しなくても。簡単なことです」と言ってから口を開いた。
「昨日みたいになったときは、必ず僕のもとへ」
「……カントを?」
「ええ。必ず呼んでください」
ルナリアはしばらく黙り込む。そうして、ふぅ、と息を吐いた。
「いいわよ。別に、あんたのこと嫌いじゃないし」
「取引成立ですね。では、戻りましょうか」
カントはそっとルナリアの手を取って歩き出す。明けきらない空の中、遠くで小鳥が歌っていた。
読んでくださりありがとうございました。評価、いいね、ブックマークをしてくださると励みになります。




