↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/14

第12話「青空のみにたま」

「なぁ、たまちゃん」


「ん?」


「今日の空、めっちゃ青ない?」


弥那子が空を見上げる。


雲ひとつない、夏の青空だった。


隣にいる珠美も、つられるように空を見上げる。


「……そうやな」


「そこはもっと驚いてぇな!」


弥那子が頬を膨らませる。


「はいはい。この件、ちょっと前にもやったやつや」


「そうやったっけ? でも今日も青いで! 一緒に感動しような!」


「……そやなぁ」


珠美は弥那子を見て、ふっと笑った。


「ふふっ。でも、みなこのそういうとこ、好きやで」


「なんて?! 今なんて?!」


「なんでもない」


「言うたやん!」


珠美は前を向いて、何事もなかったように言う。


「ほんま、ええ天気やな。今日一日、ええことありそうや」


「なー、たまちゃん! もう一回言うてーな!」


「もう言わへん」


「お願い!」


「嫌や! なんでいっつも、それ何回も言わせようとするんよ!」


「だって聞きたいねんもん!」


「なんでそんなん聞きたいんよ」


弥那子は少し黙った。


そして、さっきまでの勢いが嘘みたいに、小さな声で言った。


「……だって、たまちゃん大好きやねんもん……」


「……」


珠美が黙る。


「なんで黙るん」


「……ありがとう」


「……それだけ?」


「それだけや! ほら、学校行くで!」


珠美は照れ隠しのように、走り出した。


「あっ、待って! たまちゃん速い!」


「バスケ部エースやからな!」


振り返った珠美が笑う。


「ほな、うちは茶道部エースになる!」


「なんやそれ!」


笑い声を響かせながら、二人は走っていく。


夏の朝の風が、二人の背中をそっと押していた。


* * *


四時間目が終わるチャイムが鳴ると同時に、


「やったー! お昼やー!」


弥那子が勢いよく立ち上がった。


「おい、神楽岡。少し早いぞ」


先生に注意される。


「すんません」


教室に笑いが起こる。


珠美は、やれやれと困ったような顔をしていた。


まるで、元気すぎる妹を見る姉のようだった。


「たまちゃん、今日はどこで食べる?」


「どこでもええよ」


「ほな、あそこ行こ。みにたま専用食堂」


「……ああ、五歳児がおるとこな」


珠美がニヤリと笑う。


「おらんわ! 今日は箸忘れんと持って来てるわ!」


弥那子は得意げに弁当箱を振った。


カチャカチャ――。


……と、鳴るはずだった。


「あれ?」


弥那子が弁当箱を覗き込む。


珠美が吹き出した。


「ほら、やっぱり五歳児がおる」


「……たまちゃん、スプーンある?」


「あるよ」


珠美はそう言って、にっこり笑う。


そして弥那子の頭を、ぽんぽんと軽く撫でた。


「……」


弥那子は少し照れくさそうにしながらも、どこか嬉しそうに笑った。


「よっしゃ! 行こ!」


「はいはい」


二人は並んで教室を出ていった。


* * *


弁当を食べながら、珠美がふと時計を見る。


「明日でもう一学期終わりやな」


「ほんまやな! テストも無事乗り切ったし、あとは夏休みを満喫するだけや!」


「そうやな」


「なーなー、たまちゃん。夏休みどこ行く?」


「海行きたいけど、京都は海遠いしなー」


「そうやな。琵琶湖は近いけどな!」


なぜか得意げな弥那子。


「琵琶湖、泳げるんかな?」


「知らん」


「やっぱりプールか」


「そやな。市民プールやな」


「ほな、西京極のあそこは?」


「ええやん! そうしよ!」


二人の夏休みの予定が、なんとなく決まっていく。


「……あ、でも」


珠美が弥那子を見る。


「みなこ、宿題終わらせなアカンで」


「え!?」


弥那子の箸を持つ手が止まった。


「宿題は後でええやん!」


「アカン! また夏休みの最後に泣き見るで」


「ほな、一緒にやろ!」


「ん?」


「宿題合宿やろ! たまちゃんチで!」


珠美は少し考えてから、ため息をついた。


「しゃーないな……」


「やったー!」


弥那子はスプーンを持った手を、高々と上げた。


その顔は、もうすっかり夏休みだった。


* * *


放課後。


遠くには大きな積乱雲が浮かんでいる。


蝉の声が、いつもの帰り道を賑やかにしていた。


「たまちゃん、アイス」


「ん? くれるん?」


「ちゃう! 買いに行こ」


「ああ、そっちか」


「こう暑いと、家までもたへんわ!」


「そやな」


二人はいつものようにコンビニへ寄り、新しく出たアイスを買った。


店を出て、並んで歩きながら食べる。


「たまちゃんのやつも一口ちょーだい」


「ええよ。みなこのもちょーだいよ」


「ええよ。はい、先あげる」


「ありがとう」


珠美が弥那子のアイスを一口かじる。


「美味しいな、これ!」


「そやろ!」


弥那子は嬉しそうに笑う。


「ほな、次うちの番」


「はいはい」


珠美がアイスを差し出す。


「あむっ!」


弥那子が大きく一口。


「――あー! みなこ! 多い!」


「えへへ」


「ほんまにもー。しゃーないみなこやなー」


「これも美味しい!」


弥那子は満足そうに頷く。


そして、いたずらっぽく笑った。


「たまちゃんの味がする!」


「はぁ?! 何言うてん!」


珠美の顔が一気に赤くなる。


それを見て、弥那子はニシシと笑った。


「ふふっ」


「もう、みなこは……」


そんなやり取りをしながら歩いていると、いつもの河原公園が見えてきた。


どちらから言うでもなく、二人は公園へ入っていった。


* * *


まだまだ、夏の日は暮れない。


木陰のベンチに並んで腰を下ろす。


川を渡る風が、少しだけ涼しかった。


しばらく二人で黙って空を眺める。


そして弥那子が、ぽつりと言った。


「なぁ、たまちゃん」


「なに?」


「空が青いな」


珠美も空を見上げる。


「ほんまやな」


「感動した?」


「みなこは感動しぃやなぁ」


珠美が笑う。


「まぁ……そういうとこも好きやけどな」


「今何て?!」


弥那子が勢いよく振り向く。


「またや……。なんでもない!」


「ある! もう一回言うて!」


「嫌や!」


「なー! お願い!」


「暑苦しいな、みなこは! もう言わへん!」


「うちも、たまちゃん大好きやから!」


「知らん!」


「お願いやって! たまちゃん!うちらみにたまの仲やんか!」


「もー! しつこいなー! みなこは!」


珠美は笑っている。


弥那子も笑っている。


夏の青空の下。


今日も二人は、いつものように戯れ合っていた。


――何でもない一日。


そんな毎日が、これからも続いていく。


青空の下で。




「青空のみにたま」を最後まで読んでいただきありがとうございました。


何でもない、事件もイベントもない、本当に何でもない日々を過ごす二人。

でもこうやって二人で過ごせる高校時代には限りがあって…。


あと1話、おまけ回があります。

何でもない日常ですが…。


それでは、また次の物語でお会いしましょう。


灯野 紬



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。