番外編3 この上なく愛している
いつから、アリッサを愛し始めたのだろうか。
愛してやまないから、わからない。
心が少し乱れたのを感じたのは、庭園の遠乗りで、アリッサがのん気に靴を脱いで歩いた時だった。私を男として見てないのがよくわかった。それが妙に癪に障った。
しかし亡き妻の刺繍机を、プリシラの火かき棒から守った時は衝撃を受けた。
アリッサは、普通の伯爵令嬢なのに、いやパステーラの女系のしなやかさや品を引き継いでいるのか、突然、とんでもない行動をする。
私との縁談を「差し上げる」のに、刺繍机は譲らない。
初めて、ほしいと思った。
日に日に手に入れたくなる。
私色のドレスを作らせては衣装部屋に入れさせた。でも自信がない。だから、全く違う色のドレスも準備させる。
王城から帰宅した時に、出迎えるアリッサのドレスの色を確認するのが日課になった。
顔を見るより先に、床を見てドレスの裾で色を確認し安心してから彼女を見るようになった。
自分でも、少し神経質になっているのではないか、とも思ったが、確認は必要だ。
腹心のミレーヌの報告では、ドレスはアリッサが好きに選んでいると言うのを聞いて、ミレーヌを執務室から追い出してから、ニヤついてしまう自分に驚いた。
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しかし、ブルーノの情熱に負けた。
きっとあのくらい愛せる男なら、彼女も幸せになれるはず。
決意をして、彼女と夕食を共にし、庭園でダンスに誘った。
一年近い滞在で、すっかり元気になり、更に磨きがかかったレディになっていた。身に纏っているのは私色のドレス。
このまま、愛を乞うて腕の中に閉じ込めてしまいたい。
しかし、中年の老犬は、引き下がるべき。
いつの間にか愛してしまったのだ。
一人で眠るのが普通だった。
だが、もしここに居てくれてたら。
そう思った時から、顔を合わせられなくなった。
王城泊まりを増やしていく。
私にできることを探した。
アリッサの幸せのために。
陛下に願い出た。
——サフィエル侯爵家とベルモント伯爵家の縁を進め、まだ若いブルーノの後見になると言った時に、陛下が絶句されたが、そんなに驚くことではないだろう。
陛下は仰った。
「そんな面倒なことをせず、王命を出す。さっさと娶れば良いではないか」
それではアリッサが幸せになれない。
陛下に何度も申し上げて、最後は「好きにしろ」と許可をいただいた。
そうして、この日が来た。
花嫁のドレス姿は、美しくて眩しくて、生涯手に入らないものだと、よくわかった。
なのに、なぜ、その色あせた昔の王女殿下のリボンをしているのだ。
亡き妻をエスコートした時に見たリボン。
亡き父から、どんな意味があるのか説明は受けていた。
そして今日。
ブルーノがアリッサの手を取るのを見ていられなかった。
決闘を申し込んでしまいそうだ。
サイアスもあのリボンに気がついていた。
そして馬車が出発し、私はそこに崩れ落ちそうになった。
私は、オスカー・エメルディ公爵だ。
見送って見せる。いや、あとは使用人に任せよう。
思い出の庭園まで駆ければ誰にも見られずに、泣ける。
早く馬を、連れてきてくれ。
馬に乗ろうとした時、サフィエル侯爵家の馬車が大門の近くで立ち往生をしているのが見えた。
何があった。
アリッサは無事か!
サイアスが叫んでいる。
馬を走らせる。
アリッサ!
純白のドレスを持ち上げ、こちらに走ってくる。
何をしている。
靴を足で蹴り飛ばし、走っている間に、長靴下が脱げていく。
まさか私の名を呼んでいるのか。
アリッサ!
ドレスに足を取られながら、それでも走るのを止めない。
アリッサが手を出し、私の名を呼ぶ。
その手首には、色あせた細いリボンが揺れている。
ああ神よ。
女神が戻ってきた。
その手をしっかりと掴み、馬上へ引き上げ、抱きしめた。
使用人や騎士がいるのも忘れ、思わず口付けをしていた。
二度と離すものか。絶対に。
すぐに我が妻の部屋に閉じ込める。
そして、陛下に報告に向かう。
「無事に終わったか」
「はい、陛下、女神がこの手に戻りました」
詳細な報告を始めると、珍しく陛下が右手をあげて制する。
「なあ、オスカーよ。全てそなたの思う通りにしてよい。宰相にも話は通してある。監査部の案件は、あの後妻の件が終わったので、緊急はない。サイアスもいる。まずはしばらく休め。細君を失って二年以上も休みなく仕えてくれた。褒美として、半年ほど休め。女神ぼけが収まるまでな」
「感謝いたします。妻を愛でたく思います」
「オスカー、もう下がってよい」
邸に帰れば、アリッサがいる。
馬車の速さがもどかしい。
愛している。永遠に。
番外編まで含めて、これで完結です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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また次の作品でお会いできますように。




