14 償いは、初めてのダンスでした
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「アリッサ様、今日は旦那様が、夕食にはお帰りになるそうです。お食事をご一緒にと、先ぶれがまいりました」
「あ、こ、公爵さまっ、が?」
手に持っていた本を落としかける。
フォリーが唐突に教えてくれて、ちょっとだけ取り乱してしまった。
久しぶりにお会いできるのね。
「ではアリッサ様、夕食のドレスを選びましょう」
フォリーとドレスを見ていく。あれ?
「ねえ、フォリー、ドレスが増えてる気がするけれど」
「お気のせいでしょう。寸法直しでドレス店のアトリエにお預けしているものもありますし、戻ってきたものもありますし」
「そうね、気のせいかしら。でも増えてる気が。あ、フォリー、これ、とても綺麗」
「まあ、ほんとうに、きっとお似合いになります」
青みがかった緑の濃い色に薄い青のシフォンが重ねてある。
胸の下に幅広の漆黒のリボンが縫い付けられていて、これぞ、プリンセスラインという逸品。
少しは大人っぽく見えるかしら。
その黒いリボンには、小さな宝石が散りばめられている。
髪は結いあげ、後ろで大きく丸くまとめたお団子を囲むように巻かれた漆黒のリボン。
姿見のまえで、侍女たちが絶賛してくれる。
そして途中で、ミレーヌさんが革張りの箱を持って入ってくる。
「アリッサ様。首飾りをおつけしましょう」
「首飾り?」
「ええ、公爵様がこれをつけるようにと」
そして箱から出された首飾り。
それはエメルディ家を代弁すると言っても過言ではない素晴らしい宝飾品だった。
公爵様と同じ瞳の青緑色の大きな石がついていて、耳飾りも全て同じ色で統一されている。
これは、お借りしてはいけないものでは。
「ミレーヌ、あの」
「さ、公爵様はもうお戻りです。さあ急ぎましょう」
あっという間に首飾りは私の胸元におさまった。
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ドレスの支度が済んだころ、公爵様が迎えに来てくださった。
「公爵様、ごきげんよう、お久しぶりでございます」
「っ!」
公爵様が、手を差し出しながら、固まっておられる。
え?何かやらかした?
靴は履いてるわよ。
首飾り、つけてはいけなかったんじゃ。
「……何か変でしょうか」
「いや、女神が降臨したかと思った」
相変わらずお上手だわ。私は笑い出しそうになりながら、公爵様が差し出した手に、私の手をそっとのせた。
いつも、ぎゅって握ってくださるのよね。
「ふふふ」
「どうした、何かおかしいか」
「公爵様も素敵です」
「大人を揶揄うな」
「私も大人です」
「まだまだ、ひよっこだろう」
ひどい、子供扱いして。
少し睨むと、頬を指で押された。
「レディが頬を膨らませるものではないぞ」
あ!
その夜の夕食は、たくさんお話ししたわ。
公爵様も面白いお話をたくさんしてくださった。
そして食後に、お茶はどうかと、お庭のガゼボへ誘われる。
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心地よい春の風が、優しい色の花の中を通りぬけていく。
お茶の用意をすると、みんな下がっていった。
どこからか、ビオラの音が聞こえてくる。
「すっかり元気になったな」
「公爵様、そしてお邸の皆様のおかげです」
公爵様が笑顔で微笑んでくださる。ホッとする笑顔。
お茶を一口飲んでカップをおいた公爵様が、話し始める。
「プリシラの処罰が決定した」
「……っ!あの、どのように」
「結果だけ聞くか、全て聞くか」
「全て聞かせてください」
そう、私の人生を変えた人だから。
公爵様は、詳しく話してくださった。
——プリシラは後妻業という、高齢の男性を惑わし婚姻にこぎつけ、贅の限りを貪った女だった。そして私のお父様以外に、三人の男性と後妻婚を繰り返し、男性は全員が亡くなっていた。
事件性が疑われ詳しく調べたけれど、殺人の証拠はみつからず、高齢による病死で、因果関係を証明できなかった。
でも本来、残った直系の家族や親戚が相続するべき財産を、全て勝手に散財したことは明白だったそうだ。
「では、ただの欲しがりの強欲だったと」
「そうだ。相続できない財産を使い果たしたのは罪だ。その上、公爵家に押しかけ、当家の中で暴れ、あなたを傷つけた。公爵邸の一部も壊している。殺人未遂と器物破損は重罪。よって明日、ポンタンブッシュの収容所へ送られる」
「えっ、あの極悪犯罪者の収容所に」
「凶暴でな。牢番が、何人も噛まれている。女子修道院には牢がない。よって脱走不可能と言われる海の孤島に立つポンタンブッシュに生涯収容されることが決まった」
「そうなのですね」
「王城の牢屋からも、早く追い出してくれと言ってくるので、明日、特別船を出して護送する。最後に会いたいか」
私は迷った。プリシラに言いたいことは山のようにある。でも今更何を言うの。もう振り回されたくない。
でも、公爵様に任せっぱなしも、よくない。
「……会います。ベルモント家の人間として、見届けます」
「そうか、相変わらず潔い人だ」
「それは」
「褒め言葉だ」
嬉しくなって、少しはにかんだ。
お茶を飲み終えると、公爵様が手を差し出した。
「レディ、この庭園で一曲踊っていただけないか」
「ここで?」
「そう、揺れる花の中で微笑むあなたと、ここで踊りたい」
「靴が泥だらけになりますが」
「今に始まったことか」
私が言い返そうとしたら、また頬を突かれた。
「ほら頬を膨らませない」
そして手を取られて、踊り始める。
邸の方からビオラの音がまだ聞こえている。
珍しく公爵様の口数が少ない。
それでも、華麗なステップを踏みリードしてくださる。まるでお伽話のお姫様のよう。
「綺麗だ」
面と向かって言われると、どこか爆発してしまいそう。
腰を支えられている手が熱く感じる。
「アリッサ、ダンスの時は、顔をあげて。誰かそう言わなかったか」
顔をあげると目が合った。
「それが、舞踏会に行ったことがなくて。プリシラに譲っていたので」
「そうだった。デビュタントはどうしたのだ」
「パステーラの従兄がエスコートを。それ以外は今が初めてです」
「何もかも良く似合っている。姫というより女神だ」
少し強めに引き寄せられた。公爵様のお顔を見上げる。
漆黒の髪、引き込まれそうな青みがかった緑の瞳。
どこかで見た色。
「もう、公爵様ったら、褒めすぎです」
「私の色を纏うと、更に美しくなる」
あ、このドレスは、公爵様のお色。
恥ずかしくて、でも、心惹かれる色。
何かいわなくては、顔から火が出そう。
「あの」
「なんだ」
「そろそろ、償いをしないといけないと思っています」
「今、踊っている」
「え?ですから、償いを」
「アリッサ、初めてのダンスの栄誉を私にくれて感謝する。これであなたの償いは終わりだ」
ちょっと待って。
ちょうどダンスが終わった。
一礼をする。
そして公爵様が、私から手を離す。
「明日、プリシラの護送の立ち会いは、私が信頼するサイアスに頼んである。それであなたも償いは終わりだ。ブルーノ殿のところへ嫁ぐといい」
「え?公爵様、どういう」
「嫁入り支度は、公爵家から出す。パステーラ家とサフィエル家とも話し合いは終わっている」
「でも、陛下からの」
「陛下にはすでに、現況をご報告し、裁可をいただいている。そういう事だ。アリッサ、ブルーノ殿となら幸せになれるだろう」
そして公爵様は、庭園から立ち去られた。
私を一人残して。
春の風が、急に冷たく感じた。




