12 ブルーノ様とやっと再会できました
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エメルディ公爵邸サロン。
「アリッサ、元気そうで良かった。一年近く会えず気がおかしくなりそうだった」
ブルーノ様が感極まって、私の手を握る。
いつもと違う手。
「アリッサ、プリシラに襲われたと聞いたが、大丈夫なのか」
「ええ、公爵様も、お医者様も良くしてくださって」
「そうか、顔を見て安心した。ずっと心配していた。それにあんな手紙を」
あんな手紙って、だってあれは。
「アリッサ、あんな別れ話は、到底受け入れられない。父上を説得し、公爵閣下にも、あなたを返していただくようにお願いしている。もう少し待ってくれ」
「ブルーノ様、それは無理よ」
「なぜ、何が」
「今回のお話は、国王陛下からのお話。無碍にはできないわ」
「打診じゃないか、王命じゃない」
打診は王命と同じ、こちらが心の準備をする時間を設けてくださっているだけ。
それだけ大きな問題なのに。
「好きだ。ずっとアリッサだけを見て来た。将来を共に生きる約束だっただろう」
「ブルーノ様、状況が変わったの。今すぐベルモント領を何とかしなくてはならないのよ」
「今は、エメルディ公爵家が采配してくださっている。それを引き継ぐだけなのだから」
ブルーノ様って、こんな考え方をする方だったかしら。
「ブルーノ様、引き継ぐだけではないのよ」
「公爵家の使用人にできるなら、サフィエル侯爵家にもできる」
「……それはそうかも知れないけれど、そう簡単には」
サフィエル家は絹織物の産地。
ベルモントは農業と養蚕が盛んで、蚕の繭をサフィエル家に納めていた。
でもブルーノ様は実際の養蚕も農業もご存じない。
エメルディ家は、国の主な産業を全て把握している人材、いえ人財が揃っていて、国の重鎮である公爵として各領地への助言をする立場。
「俺にはできないって言うのか」
ブルーノ様が気色ばむ。
「そうじゃないの、ブルーノ様」
「政略結婚なんて、年だって十も離れている、しかも冷たい御仁だと聞いている。俺は、アリッサを幸せにしたいんだ」
何を言うの?ブルーノ様。
今、扉近くには、ミレーヌさんとフォリーが控えているのに、公爵様を悪く言うなんて。
「お願い、わかって、ベルモント領民のためなの。それに公爵様はそんな方では」
「君は、そうやっていつも自分を犠牲にする。プリシラ殿が来てから、どんな目に遭ったのか忘れたのか」
「覚えているわよ」
殺されかけたのだから。でも、何故か言えなかった。
「俺が何とかする。だから早まるな!」
早まるなって、そう言うことではなくて。
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オスカーの執務室。
ブルーノとの面会の様子を侍女頭ミレーヌが報告していた。
「そうか、わかった。ご苦労だった」
「あの、旦那様」
「なんだ」
「これを、アリッサ様が」
「!」
ミレーヌが差し出したのは、銀の書状盆にのっている手巾だった。
公爵家の紋章が丁寧に刺繍されている。
しかも、公爵本人の瞳色の糸で。
これは亡き妻が、特別に染めさせた糸だった。
この色を、彼女も選んだのか。
「アリッサ様が、亡き奥様の刺繍糸で」
「あの時、これを刺していたのか」
「旦那様が大量のドレスを贈られた日に、何かしたいと仰って。差し出がましいとは思いましたが、亡き奥様の形見の刺繍机をお貸ししたのです。それからお時間がある時は刺繍を。最近は孤児院への訪問で長時間のお手伝いをされて、庭のお手入れなどもお忙しくしてらっしゃるので。時間がなかなかないようですが。明るい日が差し込む窓辺にいらっしゃる時は、亡くなった奥様が戻られたのかと思うほど」
「アリッサは、これを守ろうとしたのか」
「おそらく。大切に扱っておられましたから」
公爵はそれを手に取る。
そこには、オスカーの名が。いやまだ途中だった。
あと一文字、足りない。
「ありがとう、ミレーヌ。これは私が貰っておこう」
ミレーヌが部屋を辞したあと、オスカーの心は泡立った。
波が引くような静けさを取り戻すため、オスカーはその手巾を胸に当てたまま、茫然としていた。
——手放してやらねば、な。




