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古代AI少女と始める異世界救済旅 〜知識は神話級なのに、常識だけが致命的に足りない〜  作者: 磯辺


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17/30

神託碑か古竜の巣か

「右は神託碑が過密設置(かみつせっち)されており、発見確率(はっけんかくりつ)が九十四パーセントに上昇します」


「左は?」


「神託碑はゼロですが、古竜(こりゅう)の巣を直進します」


「どっちも詰んでるだろ!」


 朝の巡礼道(じゅんれいどう)に、俺の声が響いた。


 鳥が飛び立つ。


 エリシアが深くため息をついた。


「あなたたち、いつもこうなの?」


「今日はまだ始まったばかりだぞ」


「恐ろしいことを言わないで」


 アイリスは胸を張った。


「私は古代文明の最高傑作です」


「今それ関係ある!?」


 俺は道の先を見た。


 巡礼道は本当に二手に分かれていた。


 右の道は、白い石畳が残っている。


 ところどころに小さな神託碑が立っていて、朝の光を受けて白く光っていた。


 見るからに整備された道だ。


 つまり、見つかる道だ。


 左の道は、ほとんど道ではなかった。


 森の奥へ伸びる獣道。


 木々が不自然に曲がり、地面には大きな爪痕(つめあと)のような溝がある。


 遠くに、黒い岩山が見えた。


 その稜線(りょうせん)が、竜の背骨みたいにぎざぎざしている。


「なあ」


 俺は聞いた。


「古竜の巣って、具体的には?」


「古代竜種の休眠領域(きゅうみんりょういき)です」


「休眠?」


「はい。現在、活動反応は低いです」


「つまり寝てる?」


「おそらく」


「起きたら?」


「周辺地形が変化します」


「死ぬって言え!」


「死ぬ可能性があります」


「言い直しても嫌だな!」


 エリシアが左の森を見た。


「古竜なんて、王国の北部山脈にいるものだと思っていたわ」


「この個体は移動型です」


 アイリスが言う。


「巣と表現しましたが、正確には一時滞在領域(たいざいりょういき)です」


「言い方を変えても、危険なのは同じでしょう」


「はい」


「はいじゃない」


 俺は右の道を見た。


 神託碑が多い。


 たしかに多い。


 五十歩先にも、さらにその奥にも、白い碑が立っている。


 そのひとつが、わずかに青く明滅(めいめつ)していた。


「右は無理だな」


「発見確率九十四パーセントです」


「残り六パーセントは?」


「祈る」


「お前がそれ言うな」


 エリシアが静かに言った。


「右を進めば、神託碑に私たちの位置を拾われる」


「たぶんな」


「左を進めば、古竜の巣」


「たぶんな」


「あなたの“たぶん”は、本当に不安ね」


「俺も不安だ」


 アイリスが左の道を指す。


「推奨経路は左です」


「古竜の巣なのに?」


「神託碑がありません」


「古竜がいる」


「神託碑は確実に情報を送信します。古竜は現在、睡眠中です」


「寝てる危険物と、起きてる監視網なら、寝てる危険物を選べってことか」


「はい」


「嫌な合理性だな」


 エリシアが短く息を吐いた。


「でも、右は選べないわ」


 彼女は外套のフードを深く被り直した。


「神託碑に拾われたら、ミストリアへ入る前に終わる」


「王都にも伝わるだろうな」


「ええ」


 俺は左の森を見る。


 爪痕。


 曲がった木。


 黒い岩山。


 どう見ても人が入る道ではない。


 でも、右よりはまし。


 そう思ってしまう時点で、もうかなりおかしい。


「分かった」


 俺は言った。


「左だ」


「了解しました。古竜の巣を直進します」


「その言い方やめろ。不安しかない」


「では、神託碑を迂回(うかい)します」


「最初からそう言え」


 俺たちは左の道へ入った。


 石畳はすぐに消えた。


 足元は湿った土に変わる。


 木の根が地面を()い、ところどころで盛り上がっている。


 右足に響く。


 一歩進むたびに痛い。


 エリシアが横から俺の腕を支えていた。


「無理なら言いなさい」


「無理」


「早いわね」


「でも進む」


「答えになっていないわ」


「最近そればっかり言われてる」


「言わせているのはあなたよ」


 アイリスは前を進む。


 足音がほとんどしない。


 森の中では、銀髪が妙に目立つ。


 外套を被せても、雰囲気が隠れない。


 老人が神秘的と言ったのも分かる。


 見た目だけなら。


「アイリス」


「はい」


「最高傑作禁止、継続な」


「不満です」


「古竜に自己紹介するなよ」


「相手が古代竜種であれば、正式な識別情報(しきべつじょうほう)を提示する方が安全です」


「本当にやりそうで怖い」


「必要に応じて行います」


「禁止だ」


「古竜相手にも?」


「古竜相手ほど禁止だ」


 エリシアが眉を寄せた。


「古竜は言葉が通じるの?」


「個体によります」


 アイリスが答える。


「高位竜種は人語、古代語、魔力波形による意思疎通(いしそつう)が可能です」


「つまり話せるかもしれないのね」


「はい」


「怒らせたら?」


「都市一つ程度なら焼失します」


「聞かなければよかったわ」


「参考情報です」


「参考にしたくない情報もあるのよ」


 森の奥へ進むほど、空気が重くなった。


 鳥の声が消える。


 虫の音も少ない。


 木々の幹には、黒い()げ跡のようなものが残っていた。


 火事の跡ではない。


 一直線に走る、細い黒い線。


 まるで何か熱いものが通った跡だ。


「これ、何だ」


「竜息の残滓(ざんし)です」


「りゅうそく?」


「竜の吐息(ブレス)です」


「さらっと言うな」


 エリシアが木の黒い跡に触れようとする。


 アイリスが止めた。


接触非推奨せっしょくひすいしょう。まだ微量の熱が残っています」


「何年前の跡なの」


「推定、二十七日前」


「最近じゃない!」


「古竜基準では最近ではありません」


「人間基準で話しなさい!」


 俺は木から離れた。


 二十七日前にここで吐息を吐いた古竜。


 それが今、寝ているかもしれない。


 いや、寝ていてほしい。


 全力で寝ていてほしい。


「アーデル」


 アイリスが前を指す。


「前方に魔力反応(まりょくはんのう)


「古竜か?」


「いいえ。小型です」


 茂みが揺れた。


 俺は反射的に身構える。


 エリシアも外套の内側で短剣を握った。


 いつの間に持っていたのか。


 王女、油断ならない。


 茂みから飛び出してきたのは、小さな蜥蜴(とかげ)だった。


 ただし、普通の蜥蜴ではない。


 背中に小さな角があり、口元から薄い煙が漏れている。


 目が金色に光っていた。


「小竜です」


 アイリスが言った。


「こりゅう?」


「小さい竜種。古竜の周辺に発生する眷属(けんぞく)に近い存在です」


「つまり?」


「子分です」


「最初からそう言え」


 小竜は俺たちを見て、首を傾げた。


 かわいい。


 少しだけかわいい。


 そして口から火の粉を吐いた。


「かわいくない!」


 俺はエリシアを引いて後ろへ下がった。


 火の粉が地面に落ち、枯れ葉を焼く。


 アイリスが前に出る。


「敵対反応は低いです」


「火を吐いたぞ!」


「威嚇です」


「十分敵対だろ!」


 小竜はまた口を開いた。


 アイリスが手を伸ばす。


「待て、何する気だ!」


「対話します」


「できるのか?」


「不明です」


「不明で手を出すな!」


 アイリスは小竜の前にしゃがみ込んだ。


 小竜が首を傾げる。


 アイリスも首を傾げる。


 しばらく、銀髪の少女と煙を吐く蜥蜴が向かい合った。


 何だこの時間。


「……交渉中か?」


「いいえ」


 アイリスは真顔で答えた。


「かわいいです」


「お前もそういう感想あるんだな!」


「重要調査対象に指定します」


「やめろ。蜂蜜菓子と同じ分類にするな」


 小竜がアイリスの袖を噛んだ。


「あ」


 アイリスが袖を見る。


 村でもらった服の袖に、小さな穴が空いた。


 アイリスの表情が止まる。


「装備品質がさらに低下しました」


「そこかよ」


 小竜は袖を引っ張る。


 アイリスも引っ張り返す。


「離してください」


 小竜が、きゅる、と鳴いた。


「離してください」


 きゅる。


「交渉決裂です」


「どんな交渉だ」


 エリシアが小さく笑った。


 本当に小さくだ。


 すぐに真顔へ戻ったが、俺は見た。


「何か?」


「いや」


「言いたいことがあるなら言いなさい」


「王女も笑うんだなと思って」


「失礼ね」


 小竜はアイリスの袖を引っ張ったまま、森の奥へ歩き出そうとした。


 アイリスも引っ張られる。


「おい、連れていかれるぞ」


「認識しています」


「抵抗しろ」


「袖の損傷拡大(そんしょうかくだい)を避けています」


「じゃあ脱げ」


「不適切です」


「そこは常識あるのか」


 エリシアが言った。


「この小竜、私たちをどこかへ連れていこうとしていない?」


 俺は小竜を見る。


 たしかに、攻撃というより案内のようにも見える。


 袖を噛む案内はどうかと思うが。


「アイリス」


「はい」


「誘導されてるのか?」


「可能性があります」


「罠か?」


「可能性があります」


「便利だな、その言葉」


「はい」


 小竜がもう一度、きゅる、と鳴いた。


 その奥から、低い音が響いた。


 地鳴りのような音。


 森全体が、わずかに震える。


 エリシアが息を止めた。


 俺も足を止める。


 小竜だけが平然としている。


「今のは?」


 俺が聞く。


 アイリスは森の奥を見た。


「古竜の寝息(ねいき)です」


「寝息で地面が揺れるのかよ」


「はい」


「やっぱり帰らないか?」


「右の道へ戻れば、神託碑により発見されます」


「分かってるよ!」


 また地鳴り。


 今度は少し長い。


 森の葉が揺れ、木の枝から小さな実が落ちた。


 小竜はその実を口で受け止め、飲み込んだ。


「自由だな、こいつ」


「かわいいです」


「だから分類するな」


 小竜は袖を離した。


 そして、前足で地面を掻いた。


 土の下から、古い石板が見えた。


 そこには、薄い青い線が刻まれている。


 神託碑とは違う。


 もっと古い。


 王城地下で見た古代文字に似ていた。


 エリシアがしゃがむ。


「これ……」


「触るな」


 俺は止めた。


 エリシアは手を止める。


 アイリスが石板を見る。


「古代保守経路(ほしゅけいろ)の標識です」


「保守経路?」


「神託碑の基幹線(きかんせん)とは別の、旧式魔導通信路です」


「つまり?」


「神託碑に感知されにくい裏道です」


 俺は小竜を見た。


 小竜は金色の目でこちらを見返す。


 そして、きゅる、と鳴いた。


「もしかして、案内してくれてるのか?」


「可能性があります」


 アイリスは小竜を見て言う。


「小型竜種による自発的誘導。珍しい現象です」


「理由は?」


「不明です」


 小竜は今度はエリシアの外套の裾を噛んだ。


「ちょっと」


 エリシアが眉を寄せる。


 小竜は軽く引く。


 森の奥ではなく、石板の先。


 青い線が草の下へ伸びている方向だ。


 俺は足元を見る。


 草の下に、かすかな石畳がある。


 隠れているが、道だ。


 古い。


 かなり古い。


「これ、使えるのか」


「はい」


 アイリスが頷く。


「ただし、古竜の腹部付近(ふくぶふきん)を通過します」


「腹の近く!?」


「巣の中心を避けるには、この経路が最短です」


「避けてるのに腹の近くなのかよ!」


「古竜が大きいためです」


「そういう問題か?」


 エリシアが小竜を見る。


「この子、私たちをそこへ案内するつもりなの?」


「可能性があります」


「どうして?」


 アイリスは一瞬黙った。


 それから言う。


「古竜は神託網の監視対象外(かんしたいしょうがい)です」


「監視対象外?」


「神託が、命令できない?」


「はい。オラクルシステムにおける登録外野生個体とうろくがいやせいこたいです。システム側の認識は『エラー領域(エラーりょういき)』または『未定義(みていぎ)巨大質量(きょだいしつりょう)』に分類されます」


「……神託の目が、届かない場所」


 エリシアが、低く呟いた。


 消去されかけた王女が、その言葉の重さを噛みしめるように、静かに黒い森の奥を睨んだ。


「それを先に言え」


「今、言いました」


「またそれか!」


 小竜が、きゅる、と急かすように鳴く。


 遠くでまた寝息。


 地面が揺れる。


 俺の右足に響く。


「進むしかないか」


 エリシアが言った。


「右は神託碑。左は古竜」


「で、左の中にも裏道がある」


「ただし古竜の腹部付近」


「最悪の中の、ましな最悪だな」


「分かりやすいわ」


「便利に使うな」


 アイリスが小竜に向かって真剣に言った。


「案内を受諾します。ただし袖を噛む行為は禁止です」


 小竜はアイリスの袖を見た。


 それから俺の外套を見た。


「こっちを見るな」


 小竜はきゅる、と鳴いた。


「今の鳴き声、何か含みがなかったか?」


「翻訳不能です」


「嫌だな」


 俺たちは小竜の後を追った。


 青い線の刻まれた石板は、草の下に点々と続いている。


 右の巡礼道からは離れていく。


 神託碑の光も見えなくなった。


 その代わり、森はどんどん暗くなる。


 古竜の寝息が近くなる。


 一歩ごとに、空気が熱を帯びる。


 風が湿る。


 木々の葉が、竜の呼吸に合わせて揺れていた。


 やがて、森が開けた。


 俺は言葉を失った。


 目の前に、山があった。


 いや、山ではない。


 黒い鱗。


 岩のように重なった背。


 森の木々よりも太い角。


 大地に横たわる、巨大な竜。


 古竜だった。


 眠っている。


 ただ眠っているだけで、空気が震えていた。


 エリシアが俺の腕を掴む。


 アイリスも珍しく足を止めた。


「……活動反応、低」


「本当に寝てるんだな?」


「はい」


「起こすなよ」


「努力します」


「努力じゃ不安なんだよ」


 小竜は平然と古竜の足元を歩いていく。


 小さすぎて、踏まれたら終わりだ。


 俺たちも後を追う。


 古竜の腹の下を通る道は、古い石畳でできていた。


 なぜこんな場所に道があるのか。


 考えたくない。


 考える余裕もない。


 俺たちは息を殺して進む。


 俺の右足が石に当たった。


 小さな音。


 かつん。


 全員が止まった。


 古竜のまぶたが、わずかに動いた。


 俺の心臓も止まりかけた。


「アーデル」


 アイリスが、表情を一切変えずに小声で告げた。


「心拍数の上昇、および呼吸音の拡大を確認。古竜の覚醒を誘発する恐れがあります。今すぐ呼吸を停止してください」


 無茶を言うな、と俺が目を見開いた瞬間。


 エリシアが、後ろから俺の口を容赦なく手で塞いだ。


「……静かに」


 俺は必死に頷いた。


 古竜のまぶたは、それ以上動かなかった。


 地鳴りのような寝息が続く。


 助かった。


 たぶん。


 小竜がこちらを見て、きゅる、と鳴きかけた。


 俺は全力で口元に指を当てる。


 小竜は首を傾げた。


 そして、ものすごく小さく、きゅ、と鳴いた。


「賢いな」


 俺が小声で言う。


「かわいいです」


 アイリスも小声で言った。


「今それ言うな」


 古竜の腹の下を抜けると、古い石の柱があった。


 柱には青い線が走っている。


 その先に、低い洞門(どうもん)が開いていた。


 洞門の奥は、薄暗い通路になっている。


「これは?」


「旧式保守道(ほしゅどう)です」


 アイリスが言った。


「おそらくミストリア外縁部へ接続しています」


「神託碑には?」


「接続していません」


「本当だな?」


「はい。ただし内部構造は不明です」


「お前の“ただし”が毎回怖い」


 エリシアが洞門を見る。


「入るしかないわね」


「古竜の腹の下よりはましだな」


「比較対象が悪すぎるわ」


 小竜が洞門の前で止まった。


 そして、アイリスの袖をもう一度噛んだ。


「禁止しました」


 アイリスが真顔で言う。


 小竜は袖を引っ張らない。


 ただ、少しだけ噛んだまま、金色の目でアイリスを見ている。


 アイリスはその目を見返した。


 少しの沈黙。


 風が止まる。


 古竜の寝息だけが遠く響く。


「……案内終了、という意味でしょうか」


 アイリスが言った。


 小竜は袖を離した。


 それから、俺たちに背を向け、古竜の方へ戻っていく。


 数歩進んで、振り返る。


 きゅる。


 小さな声。


 アイリスは前を向いたまま、瞳の明滅を止めた。


「小型竜種の魔力波形から、固有識別信号を受信。私のデータベースに『トカゲ、かわいい』として正式登録されました」


「だから勝手に分類するな。……まあ、助けてもらったんだから礼くらい言え」


 アイリスは少し考えた。


 そして、洞門の奥へ消えていく小さな背中に向かって、軽く頭を下げた。


「案内、感謝します。次回の蜂蜜菓子は、二等分での供給を検討します」


「そこはルカを削るのね」


 エリシアが、低く笑った。


 俺たちは洞門へ入った。


 中はひんやりしている。


 壁には古代文字が刻まれ、ところどころに青い線が残っていた。


 神託碑の青白さとは違う。


 もう少し古く、弱い光。


 アイリスの瞳がわずかに明滅する。


「記録層、微弱反応」


「読むなよ」


「接続はしていません。通路情報のみ取得しています」


「ならいい」


「ただし」


「やっぱり来た」


 アイリスは前方を見た。


「この通路は、ミストリアの地下礼拝堂付近へ接続している可能性があります」


 エリシアが足を止めた。


「地下礼拝堂?」


「はい」


「教会の中へ出るということ?」


「可能性があります」


 俺は頭を抱えた。


「つまり、指名手配犯が、よりによって教会都市の地下礼拝堂に出るかもしれないってことか」


「効率的です」


「何で毎回、効率が犯罪寄りなんだよ!」


 エリシアが、泥に汚れたドレスの裾を強く握り直した。


「……いいわ。初手で大聖堂の真ん中に放り出されるよりは、地下の暗闇の方が、身を隠すには『合理的』でしょう?」


 俺は思わずエリシアを見た。


「あんた、毒されるの早いな」


「誰のせいかしら、国賊大誘拐犯」


 アイリスが満足げに胸を張った。


「私の影響による、共犯者の知性向上を確認しました」


「お前は調子に乗るな」


 通路の奥で、白い光が揺れた。


 神託碑の光ではない。


 もっと淡い。


 鐘の音が、遠くから聞こえた。


 一度。


 二度。


 三度。


 エリシアが顔を上げる。


「教会の鐘……」


 アイリスの瞳が細かく明滅した。


「浄化儀式、準備段階進行中」


 俺は痛む右足を引きずって、前を見た。


 白い光の向こうから、かすかに声が聞こえる。


 誰かが祈っている。


 大勢の声だ。


 聖女のいる都市は、近い。


 俺たちは、地下の古い通路を進んだ。


 神の道ではない。


 神託の目を外れた、古竜の腹の下を抜ける道だ。


 その先に、教会都市ミストリアがあった。

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