志望校
不快な音がした。首の後ろからだった。何の音だろうか。私が私の髪を切った音なのか。それとも肉を傷つけた音なのか、分からなかった。闇の中ぼうぜんと立ちつくしていると、部屋の明かりがついた。
「さち・・・・・?」
「お母さん、おかえりなさい」
肩や首筋に張り付く髪の毛が鬱陶しかった。それでもそれを表に出さないようにお母さんを迎える言葉を口にした。
その時のお母さんの顔は色んな感情でぐちゃぐちゃだったのだと思う。それとも私がそんな顔をしていたのだろうか?
「さち!」
私はお母さんに抱きしめられた。背中と後頭部に手を回されて、がっしりと。
「お母さん、お願いが、あるの」
「なぁに、さち」
「高校の進路、変えてもいいかなぁ」
涙があふれてきた。
「ここは、りこの思い出が多すぎて、すぐに涙が出ちゃうよ。ここにいるのが、辛い、んだ」
「うん、うん。わかった。どこに行くの?」
「まだ、決めてない、けど・・・・。寮のある所がいい」
「そっかぁ・・・・・。うん、わかった。でも条件があるわよ」
「なに?」
「勉強をがんばること。バイトとか無理しちゃだめよ」
「うん」
「たまに帰ってきて。お母さんも寂しいよ。電話もたくさんしよう」
「うん、もちろん」
「それと、髪の毛、ちゃんと整えよう。さちの綺麗な髪、可愛くしよう」
「私、りこにも髪の毛褒めてもらったのに、切っちゃった・・・・」
「りこちゃんに笑われないように、綺麗にしておこうね」
お母さんと揃って泣いてから、髪の毛を確認した。ザンバラに切ってしまった髪は確かに整えたほうが良さそうだ。
翌日は美容室へ行って綺麗にしてもらった。そして志望校についても考え直したいことを先生に伝えて、進路先をまた探し直した。




