眠り
鳴ったのは机に置いてあるスマホだった。着信相手はお母さん。
「もしもし、お母さん。どうしたの?」
「さち、あのね」
私はこのとき頭の中では解きかけの数学の問題を読んでいた。りこから教わった公式にあてはめて、途中式を書いていくと答えが分かった。
「りこちゃんが、事故にあったって」
「・・・・え?」
解きかけの問題の答えは頭の中から消え去った。
その後りこが運ばれた病院を教えてもらい、すぐに向かった。りこからもらったマフラーだけを首に巻いて家の鍵をしめた。
大丈夫だ。きっと事故っていっても少しぶつかっただけ。念のため病院に行っただけだ。もしかしたら骨折とかもしてるのだろうか。その時に寒々しい格好をしていたら、りこのほうが怒るだろう。
心を落ち着けて、でも気持ちと足は焦って、病院に向かって自転車をこいだ。
すぐに病院につき、受付でりこの名前を伝え病室を教えてもらった。息を整えながら病室へ歩いた。301、302、303。部屋のネームプレートを確認して、ドアをノックもせず開けてしまった。
そこには包帯を巻かれて意識のないりこが横たわっていた。
「・・・・・・・・・・・・りこ?」
頭の中は一瞬で真っ白になった。頭にもガーゼや包帯が巻かれ力なく目を閉じているりこを見て、あまりにも現実感がなかった。
「さちちゃん、来てくれたのね」
りこのお母さんはずっとりこの手を握ってうつむいていたが、私に気づくと声をかけてくれた。その声で私も現実を理解した。
りこは事故にあった。それも大きな事故に。
「おばさん、りこ、は?」
「頭を打ってて、意識を失ってるそうよ。きっと目が覚めたら、いつもみたいに笑ってくれるわよ。さちちゃんも、こっちで璃子に声をかけてくれる?」
「う、ん」
眠るりこの傍らに座ると機械のピッピッという音が耳に響いた。しかしこの音はりこの心音だ。この音がある限りりこは大丈夫だ、と思えた。
「・・・・りこ、私きたよ。お母さんに、りこが事故にあったって聞いて驚いたんだから。目が覚めたら前に話した肉じゃが作ってあげるから」
本当に、本当に驚いたんだ。勉強は頑張るから。りこの好きなもの、なんでも作るから。
「お願いだから、目を開けてよ」




