第8話 『街』
アラルよりご来訪のお客様が、高らかに笑い声を上げたその時だ。
「所長、たった今警備より報告が入りました。侵入者が2名、排水路に入り込んだようです!」
突如、そんな良からぬ報告が入って来たものだから責任者の所長は大慌て?!
かと思いきや......
実に落ち着いた様子だったのである。
「なんだ......どうせまた公安のネズミだろう。全く懲りない奴らだ。まぁ、排水路にネズミは付き物ってことだな......よし、一気に排水してネズミを退治しろ」
「承知致しました」
とは言っても、ちょっとタイミングが悪過ぎたようだ。
「なんだ、嗅ぎ回ってる奴が居るのか? もう君達だけの問題じゃ無いんだぞ。我々『ヴェロニカ』にも影響が出る話なんだからな。大丈夫なのか?」
思った通り、大事なお客様が過剰反応を示してしまう結果に。
「だ、大丈夫です。ご心配には及びません。ここはご存知の通り、地下1,000メートルの地中に位置してます。国家権力と言えども、入り込む余地などこれっぽっちも有りません。ですから、ご安心下さい!」
冷や汗タラリ......まぁ、そんなところだ。
「まぁ、君が安全だと言うのなら、きっと安全なんだろう。今回のことは一応『COYOTE』様には伏せておくことにするが、次はそうはいかないぞ。心してくれ」
「あっ、ありがとうございます!」
どうやらこの所長、
『ヴェロニカ』
『COYOTE』
この2つのキーワードにだけは、異常な敏感反応を示すらしい。彼等とこの施設との関係性は依然として不明ではあるが、歴然とした力関係が存在しているようだ。
そんな紆余曲折が有ったものの......
ここで待っていたかのように異色の人物が姿を見せる。
「お待たせ致しました」
「準備が整いましたので、私達と共にお越し下さいませ」
そんなお言葉を述べた2人の人物は、珍しく白衣姿じゃ無かった。きれいに髪を束ね、きれいな化粧を施し、そしてきれいな和装で固めたきれいな女性だったのである。
ここは銀座の並木通り? はたまた、大阪の北新地? いや、地下1,000メートルの炭鉱跡地だ。
「ほほう......君は本当に準備がいいな。今日の為にわざわざ招いたのか?」
みるみるうちに、顔が緩む来客様だった。
「いいえ、ここは炭鉱跡地と言ってますがそれは昔の話に過ぎません。今や1000人もの人間がこの地下の世界で働きそして暮らしてます。
地中深くに存在する一つの近代都市と考えて頂ければ間違い無いでしょう。商店街が有れば、学校も有りますし、役所も刑務所も有ります。
特に娯楽施設に関しましては、地上よりも充実してるんじゃ無いでしょうか。彼女らもここの住人に過ぎません。ただ、誰も直接太陽を見たことは無いかも知れませんが......」
「き、君達、そうなのか?」
「はい、私達は皆ここでの生活に満足しています。あたし達なんか、物心ついた時からここで暮らしてますので、地上の世界を知りませんし、別に知りたいとも思ってません」
確かに摩訶不思議な話だ。でも本人達がそう言ってるのだから、そうなのだろう。
「な、なるほど......」
「さぁ、行きましょう。私達と共に」
「わ、分かった。宜しく頼むよ。フッ、フッ、フッ」
そんな会話を経て、『楽園』なる1室を後にする4人の地底人だったのである。
コツコツコツ......
やがて、
「ここは?」
「『Sー1エリア』です。この辺り一帯はちょうど娯楽エリアになります」
「なんと?!」
来客が目を円くし、感嘆の声を上げるのも、決して無理な話じゃ無かった。
そこには地上のそれと何ら変わらぬ『街』が存在していたのである。
数々の店が立ち並び、その中には居酒屋、カラオケ、パブ、スナック、更にはちょっと怪しい店までちらほらと......
そんな娯楽エリアの中心を縦断するメインストリートの入口アーチには、『酔いどれ銀座』なる看板が大きく掲げられてる。
『酔いどれ』と名が付けられたストリートだけのことは有る。道行く面々も陽気な千鳥足があちこちで散見された。
そんな歓楽街も、唯一地上のそれと相違点が有ったとすれば、それはお日様が作り物であったこと位だろう。




