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第9話 無法地帯

「この地下都市には昼と夜が存在し、しっかりと春夏秋冬の季節も管理されています。今ここに居る者達はそれぞれ違った理由でここに来てはおりますが、皆ここの生活に満足しています。


 男が居れば、女も居る訳ですから、そこに家族が生まれるのも自然な流れとなります。ここで暮らしていれば、常に仕事は有りますから安定した収入が担保されてる訳です。


 そうともなれば、ここでの『自由』をわざわざ捨てて、厳しい地上の世界へ戻ろうとする者など居る訳も有りません。


 まぁ、戻ったとしても彼等には戸籍が無い訳ですから、地上での居場所は無いでしょうけどね」


「つまりだ......結局のところ、彼等に選択肢は無いと言うことになるんだろ?」


「現実的にはそうでしょうね」


「そう言うのを『自由』じゃ無くて『強制』って言うんだよ」


「いやぁ、こいつは手厳しい。何も言えなくなってしまいました。ハッ、ハッ、ハッ」



 そんな笑い声を轟かせてるうちにも、やがてご一行様の足は、とある店の前で停止を見せた。どうやら、ここが彼等の目的地らしい。


「さぁ、着きましたよ。ここの地下1階になります」


 見れば2人の和装美人が1歩先に進み、にこやかに手招きしてる。


「地下1000メートルの更に地下1階なのか?」


「地上から数えれば地下501階とでも言うんでしょうかね。まぁ、そんなことよりすっかり準備は整ってます。


 皆お待ちかねですよ。きれいなお姉さん達と上物のウォッカ......それと今回の主役、ジャ○キー達もね」


 正直なところ......


 所長は知っていた。この来客が異常なる趣味を持った変人であることを。


 ちなみに『死』とは、


 生命活動が不可逆的に止まることであり、医学的には、心停止、呼吸停止、瞳孔散大・対光反射の消失の3徴候をもって医師により死亡と判定される。


 そんなことらしい。


 更に、


 この世に生まれて来た者が避けられない『宿命』ともされている。


 そしてこの来客が持つ異常なる趣味とは、そんな誰しもが避けられない『宿命』に立ち会うことだったのである。


 もしそれを自らの力で行おうとすれば、それは『殺人』であり、もしそんなことがこの地下で行われるのであれば、そこはもう無法地帯と言わざるを得ない。


 そして今正に、そんな無法行為が『接待』と言う理由の為だけに行われようとしていたのである。残念な話では有るのだが......



 やがで4人の男女は、ゆっくりと無法地帯へと向かって階段を降りて行った。


 コツコツコツ......


 そんな階段には真っ赤な絨毯が敷かれ、それは正にレッドカーペット以外の何物でも無かった。図らずもこれから行われようとしてる『殺戮ショー』に相応しい色合いとなり得ていたことは間違い無い。


(以下参考)

【赤】警戒心、注意力を喚起し、人間の感情的興奮や刺激をもたらす。赤は色の中で最も長い波長を持ち、交感神経に刺激を与え体温•血圧•脈をあげる。



 やがて金色をまぶした重厚な扉が開かれると、


「ようこそお越し頂けました。私の店へ」


 扉のすぐ手前で、深々と頭を下げるこれまた和装の美人女史が待ち受けていた。ほんのりと鼻をくすぐる定番の香りはきっとシャネルの香水なのだろう。


 それは地下1000メートルの世界とは言え、不自由の無い流通網が敷かれていることの証と言えた。


 一方、店内へと目を向けてみると、煌びやかな光を発するシャンデリア、尻が完全に埋まりそうなソファー、更には足首まで埋まる絨毯にシャンパンタワーなどなど......


 それらもまた、地上の『高級クラブ』に存在するものと何ら変わりは無かったのである。


 ただ一つだけ......


 通常の店ではあり得ない設備がここに存在していたこともまた事実だった。


 全面ガラス張りのショーウィンドウ。それがそれだ。


「薬をくれ......早く......もう我慢出来ない......」


 そしてそんなショーウィンドウにはすっかりやつれた中年男性が1人。ガラスにへばり付いて、そんな懇願を繰り返していたのである。


「おう......いつの間に。さっき『楽園』に居た奴だろう」


 案内されたソファーに尻を落としながら、感嘆の声を上げる来客様。確かに不思議な話だった。



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