第9話 着信
※ ※ ※ ※ ※ ※
一方それとちょうど同じ頃。
バタバタバタ......
今度は、今ポートを飛び立ったばかりのヘリコプター内へと舞台を移す。
「上空は安定してます。13分後には目的地へ到着の予定です」
「そうか......」
パイロットによるそんな報告は決してネガティブなものじゃ無かった。にも関わらず後部座席の依頼者の方はと言うと、なぜか不安の表情を隠し切れない。
気付けば無意識のうちに、シュポ......タバコなんかに火を点してる。どうやら意識は明後日の方向へ向いてるらしい。
「お客様、禁煙ですよ」
「え、あ、す、すまん」
突然我に返り、携帯灰皿に吸殻を押し込める依頼者。どうにもこうにも落ち着きが無い。
その理由は何かと言うと、
美緒さんだけならまだしも......
もう1人素人が居るからな。
美緒さんがしっかり摩耶を守って、摩耶がしっかり美緒さんをサポートすれば、心配はいらんのだが......
あの2人の関係が複雑なだけに......どうも心配だ。
どうやら不安の種は、そんなところだったらしい。
因みに、東京湾を左に眺めながら摩天楼のど真ん中へと突き進むヘリコプターの側面には【KARULA航空】などと言う文字と流星のマークが認められてる。
きっと美緒の養母たるあの人が協力してくれたに違い無い。全く頭が下がる思いだ。
(※美緒の義母に関して詳しく知りたい方は『傷だらけのGOD 極神島の秘密』を是非ご参照下さい)
そんな眠らぬ東京中心部の街並みは、深夜と言う時間帯であるにも関わらずやたらと明るかった。
北東には東京スカイツリー、北西には東京タワー、そして丸の内と言う名のビル群......それら全てが摩天楼の象徴となり得ていたに違い無い。
しかし今はそんな景観に見惚れてる場合じゃ無かった。なぜなら、これから命を掛けた救出劇が始まろうとしてる訳なのだから。
その日の長い夜は、むしろこれから始まると言っても、決して過言では無い。
やがて、
「間も無く帝工本社ビル上空に差し掛かります」
「よし、時間通りだな。暫くは近付かないで旋回しててくれ」
「承知致しました」
言うまでも無く、このヘリを手配した依頼者とはEMA探偵事務所屈指の武闘派、藤堂圭一に他ならない。
ならばなぜ、そんな圭一がヘリで帝工本社ビル上空へやって来たのかと言えば、それこそ言うまでも無いこと。ビルに潜入した美緒と摩耶の2人を救出するが為だ。
そんな重大任務を任された当の圭一はと言うと、
「あと3分か......いよいよだな」
どうやら武者震いが始まったらしい。
そんな血走る目で窓の外を見てみれば、1階から24階まで全ての窓が光を失ってる。それはまるでビル自体が死んでしまったかと、圭一が錯覚する程の静けさだった。
もっともそれは外観上だけの話であって、ビルの中では、てんやわんやが行われてることくらい容易に想像出来ることではあるのだが。
因みにビルの灯りが消えてると言うことは、2人が電源を落とすことに成功したと言うことになる。
そんなビルの様を見て、少しだけ胸を撫で下ろす圭一だったのである。
「よし、そろそろ時間だ。縄ばしごを降ろしてくれ。でもまだビルには近付くな。先に気付かれて先手を打たれても困るからな」
「了解です」
ヒュルルルル......
どうやら縄ばしごは無事に降りたらしい。下部を映したモニター画面には微風でなびくその姿が鮮明に映し出されてる。
美緒さん、摩耶......
こっちは準備完了だぜ。あとは君達が屋上に元気な姿を見せてくれればそれで終わりだ。頼んだぞ。マジで!
圭一が満を持して、ビルの直上への移動を指示しようとした正にその時だった。
ブルルルル......ブルルルル......
突如胸ポケットに振動が。
「ん、誰だ? こんな忙しい時に電話なんて!」
一瞬スルーを考えた圭一ではあったが、即座に考え直し、胸ポケットからスマホを取り出した。
そして液晶画面に映し出されてた名前......
それは何と!
【桜田美緒】
そんな名前だったのである!
「み、美緒さん、と、どうしたんだ?! 無事なんだろ。こっちは準備万端だせ。いつでも屋上から引き上げられるからな!」
この時既に圭一は最悪の事態を感じ取ってたのかも知れない。
なぜなら......
この状況下において、彼女が電話を掛けて来るなんて、有り得ない話だったのだから。




