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第8話 結末

 腹を空かせてた上に、喉も乾いてたんだろう。キラースパイダーはここぞとばかりに、そんな高濃度カフェイン含有スペシャルブルマンブレンドをベロベロと飲み始めたのである。


 すると化け物は、いきなり四方八方へ蜘蛛糸を吐き出し始め、猛加速でランボー達の元へとダッシュ! 8本の足が100本にも見える。


 一方、ランボー達の驚きと恐怖は尋常じゃ無かった。ライフルを構えようとも、手榴弾を投げようとも、手が完全にネバネバ糸で封印されてて、応戦のしようが無い。


「うわぁ、食べられちまうぞ!」


「こっち来るな!」


 もう全員顔面蒼白、数人失禁、中には気絶してる者さえ居る始末。もうエリート傭兵形無しだ。やはり彼等は人間としか戦う術を持って無かったらしい。


 ところが、ここで信じられない光景を目にすることとなる。


 果て? その光景とは......


「オットット......アララ......」 


 などとキラースパイダーがそう言ってたかどうかは不明だが、彼等の1メートル手前の地点でなんと! 軌道を外れ斜めに走り始めたのである。


 かと思えば今度は後ろへ下がったり、また真っ直ぐ走ったりと、それはもうどう贔屓目に見ても千鳥足。ネクタイを頭に巻いたサラリーマンの挙動と何ら変わりは無かった。


 そして気付けば......


 フラフラしながらエレベーターの直ぐ手前まで移動を成し遂げてたのである。


 するとここで美緒の目がギラギラと輝き始めた。もしかしたらこのシチュエーションこそが、彼女の思い描いてたエンディングだったのかも知れない。


「摩耶さん、これで終わりにするわよ。いい?! 気合い入れて!」


「き、気合い入れてって......何するのよ?!」


「チャンスはこの一瞬のみ! いいからあたしと一緒に走って!」


「わ、分かった! 走るわ!」


 そんなこんなで、顔を真っ赤に紅潮させてビーチフラッグ擬きのスタートを切る美緒。そして摩耶がそれに続く。


 そして2人の若武者が鉛となって突っ込んで行った場所......それはなんと?!


「落ちろ!」


「てやぁ!」


 ドンッ!


 キラースパイダーの背中だったのである。


 そして次の瞬間には、


「グワァ!」


 キラースパイダーが奇妙なうめき声を上げると、


 ヒュルルルル......


 グチャ!


 エレベーターの穴からダイブした化け物は、見事17階から1階まで落下を見せたのでした。


 それは正に、蜘蛛の中枢神経がカフェインで麻痺することを思い出した摩耶の左脳と、スプリンクラーの水を利用してキラースパイダーに飲ませることを発想した美緒の右脳が見事合体し、ようやく掴んだ勝利だったに違い無い。


 きっとこの奇跡は、末代まで伝説として語り継がれていくことだろう。


 ただここで掴んだものは、勝利だけじゃ無かったらしい。


「や、やったわね、美緒さん! す、凄い!」


「いいえ、あなたのお陰よ。奴を酔っ払いに出来なかったら勝てなかったわ」


@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@


 どうやら......


 互いを認め合う信頼関係がここで芽生えたようだ。むしろキラースパイダーとの勝利よりも、この後も長く続くであろうサバイバルのことを考えれば、そっちの方が得たものは大きかったのかも知れない。


 なんせそれまでは、ちょっとばかりいがみ合ってた訳なのだから......



「さぁ、20階に行くわよ」


「了解。さっさと片付けちゃいましょう!」



 この時点で2人に残された時間はもはや10分。


 ランボー達はネバネバ糸にハマって戦力を失って戦力はゼロだけど、電力が復活してしまえば、セキュリティが再稼働を始めて執行役員、財前徳一の部屋へ潜入出来なくなってしまう。


 そうともなれば、勝利の余韻に浸ってる時間など有る訳も無かったのである。



 そんな経緯で、邪魔者が居なくなった2人の若武者が一気に立ち去ろうとすると、


「あのう......何か忘れてやしませんか?」


「自分ら......全然動けないんですけど」


 見れば揃って情けない顔してるランボー達だった。せっかくそんな声を掛けてくれたものだから、


「いずれ誰かやって来るでしょう。それまで大人しく待ってなさい」


 目の前を駆け抜けながら、優しく応対してあげる美緒だった。



 ちなみに......


 邪魔する者が1人も居らず、更に目的地の扉にセキュリティが掛かって無いことを考えれば、10分と言うタイムリミットは決して不可能な数字じゃ無かった。


 きっと美緒中では、この時点でかなり楽観的憶測が脳を支配していたに違い無い。


 またそれを裏付けるかのように、目的地までは誰とも遭遇すること無く30秒足らずで到着することが出来たのである。そうともなれば、



「さぁ、着いたわ」 


 片で息をしながら摩耶が目を輝かせると、


「ここが執行役員、財前徳一の部屋ね」


 美緒は満足そうな笑みを浮かべた。それはきっと勝利を確信した笑顔だったに違い無い。



 もしこの時、


 美緒の優れた脳が、最後のアラートを発していたならば......


 もしこの時、


 数日前、最後の最後でマーメイドを奪還されたことを思い出していたならば......


 更にもしこの時、


 美緒が敵の中にも、優れた人間が居ることを情報として知っていたならば......


 この後起こる悲劇を未然に防ぐことが出来たのかも知れない。



 辞書で、


【勝って兜の緒を締めよ】


 と言う言葉を調べてみると、


『物事がうまくいっている時こそ気を緩めず、油断せずに心を引き締め、次の事態に備えるべき』


 そんな風に書かれてたりもする。


 精密機器を超えた脳を持つ美緒だけに、この時『兜の緒』を締めなかったことが悔やまれてならない。


 そして悲劇は、このようにして訪れてしまったのである。



「じゃあ、開けるわよ」


「どうぞ」


 ギー、ガタン。


 そして、


「オ・ヤ・ス・ミ」


プシュー......


「えっ? だ、だれだ?!」


「あっ! 外人......」


 バタンッ。


 バタンッ。


 ............


 ............ 


 ............


 気付けば2人は夢の中。


 グゴー、グゴー......


 大きなイビキをかいてネバーランドへと飛び立って行ったのでした。残念なことに......



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