第2話 PLOV(プロフ)
そんな美緒とは対照的に、摩耶の方はと言うと......
またこの人は笑顔を浮かべてるじゃない! 逆境に追い込まれ過ぎて頭がおかしくなったとか?
いいえ......
この人は正常よ。あたしなんかとは全く違った精密機械みたいな知脳を持った人だから。何か想像を超えた秘策を持ってるに違い無いわ。そうよ、きっとそうよ!
そんな風に思ったんで、率直に聞いてみた。
「何か秘策でも有るんでしょ? ちなみにこの階は社員食堂の階なんだけど」
「秘策? そんなの有ったらいいわね。まぁ、無いことも無いんだけどさ。フッ、フッ、フッ」
「どっちなのよ?」
「まぁ、任せておきなさい」
「......」
スタスタスタ......
スタスタスタ......
そんな噛み合わない会話を繰り広げながらも、素早く厨房の影へと隠れて行く余裕? の2人だったのである。
そして時計の針は更に進み、この時点で残された時間は17分。
目標はここから3フロア上がって20階に存在する執行役員の財前徳一の部屋で重要情報を奪取すること。
果たしてこの17分と言う短い時間内でそんな離れ業が出来得るものなのだろうか?
しかもこの後、敵の傭兵はこの社員食堂に雪崩れ込んで来ることは明らかだし、今正に想像を絶するキラースパイダーも戦に加わろうとしてる。
それはもう2人に取って、絶体絶命と言わざるを得ない状況だ。でもまぁ、それは普通ならではの話。
しかし今ここには普通じゃない美緒が居る。そのことを決して忘れてはならなかったのである。
※ ※ ※ ※ ※ ※
一方そのほんのちょっと前。
1階の警備員室では、
パチッ!
「ん? な、なんだ?!」
突如、視界が真っ暗になってしまった。更に10数個にも及ぶ防犯カメラのモニターもお付き合いでダウン。正に目を瞑っているのと何ら変わりない状況に陥ってしまったのである。
「停電か?! なら何で自家発電に切り替わらないんだ?!」
その答えは実に簡単。
美緒と摩耶が電源線をスパッと切り落としたから。もちろんこの時点では、そんな侵入者の存在など、彼等が知るよしも無かった訳では有るのだが......
そして更に5秒も経過すると、次なる慟哭の世界が訪れる。
『地下1階で火災が発生しました。30秒後には二酸化炭素が放射されます。速やかに避難して下さい。地下1階で火災が発生しました。30秒後には......』
そんなアナウンスが館内中に響き渡った訳である。
「地下で火災だって?! さっき警備員達が地下見に行った筈だろ。奴らはどうしちまったんだ?!」
「さっきから電話してますが、全く出ません!」
幸いにもこの警備員室だけは、非常照明が生きてたらしい。程なく光を取り戻したのである。それだけは救いと言えよう。
「侵入者が居るやも知れん! よし、うちらも地下へ急行するぞ!」
「「「「「了解!」」」」」
ダダダダッ......
因みに彼らが持ち出した物と言えば、警棒などと言う『柔』な代物じゃ無かった。短銃、ライフル、そして手榴弾......軍隊を超えた特殊部隊にも匹敵するレベルの重装備だったりもする。
繰り返しになるが、ここは平和憲法に守られた平和な国、日本だ。しかも首都東京の中心部、丸の内ときてる。
ならばなぜ、そんな『ランボー』達がここに屯してるのだろうか?
その答えは、そんな者達で無ければ守れない重大な何かがそこに存在してると考えるのが妥当では無かろうか。
更に、
「全く......揃いも揃って全員地下行っちまった。今頃行ったってもう居るわきゃねぇだろう。浅いな。
さてと......じゃあ俺も行くとしようか。まぁ、どう考えても上だろな。ふぁ~......」
既に美緒達の行動を見切った強者までもがそこに存在していたのである。
身長190センチ超。黒いレザースーツで身を固めたその者は、どこをどう見ても日本人には見えない。
髪の毛は雪のように白く、2つの瞳はアラル海のごとくエメラルドグリーンに輝いてた。西洋と東洋を足して2で割ったような顔立ちだ。
ボソボソと絞り出す口調は日本語でありながらも、どことなくロシア語のテイストが加わってる。
もしかしたら彼の出身地は、ロシアもしくは旧ソ連に属したような国なのかも知れない。まぁ、現時点では決して想像の域を超えた話では無いのだが......
そんな異国の徒は、愛用の日本刀を襷に掛けると、コツコツコツ......ゆっくりと階段を上り始めた。
「参ったな......20階も上がったら足が太くなっちまうぜ。全く......たかがヴァローナ倒したってだけの連中だろ。
COYOTE様も心配し過ぎだぜ。なんせ、俺なんかをここへ寄越した位だからな。さぁ、とっとと始末して島へ帰るとしよう。PLOVの味が妙に恋しくなって来たぜ」
そんな独り言を呟きながら、ふと足を止め西の方角に目を向ける孤高の戦士。もしかしたらそんな方角に彼の故郷が有るのかも知れない。
「ふぅ......」
やがて1つ大きなため息をつくと、再び重い足取りで階段を上り行くその者だった。




