第1話 爆弾
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「ちょっと、どうしたらいいのよ?! 全然身体動かないんだけど!」
美緒は全身に巻き付いたネバネバ糸を振りほどこうと必死。でも無色透明なるそんなネバネバは、動けば動く程に身体との密着面積を増していき、ただ体力を消耗するばかりだった。
百戦錬磨の彼女とは言え、ここはもう悲鳴を上げること位しか出来なかったらしい。
「大丈夫! キラースパイダーって言っても、所詮は蜘蛛の糸。ただのたんぱく質の塊に過ぎないわ。バッグの中にいっぱい刃物隠してるんでしょ。慌てないで片っぱしから切り落として!」
「わ、分かったわ!」
因みに、2人に残された時間はたったの18分。
それが過ぎてしまえば、全ての電力が復活して無数の敵がとぐろを巻いてやって来ることは明らかだ。そうともなれば、こんな所で張り付きゲームを楽しんでる場合じゃ無かった。
なので美緒は摩耶の提言通り、さっさと全身に絡み付いた『糸』を、バサッ、バサッ! 片っぱしから切り落としていったのである。
やがてそんな仕事をあっさり済ませると、今度は摩耶にサバイバルナイフをトス。
「ほれっ」
「あんがと」
そして彼女も美緒に続いて、
バサッ、バサッ!
やっぱ切れ味は抜群。面白いように金縛りが解けていった。
一方、蜘蛛糸の振動を感じ取ったキラースパイダーはと言うと、音も立てずに頭上からヒタヒタヒタ......補食するが為の行動を開始する。
たかが蜘蛛、されどそれは巨大蜘蛛......大きさが2メートルともなれば、どう見たってモンスターにしか見えなかった。
赤外線スコープを通して目に映るそんな狂喜なる姿は実におぞましく、恐怖心MAX! それはまるでパニック映画を3Dメガネで鑑賞してるのと何ら変わりは無かった。
やがて身体の自由を取り戻した美緒は、そんなおぞましきモンスターから目を反らすと、今度は静かに口を開き始める。
「仕方が無いわね......さぁ、角に寄って」
「ど、どうすんのよ?!」
「予定変更。20階まで行くのは無理そうだから、17階でフロアーに出るわよ。苦肉の策ね」
そんな言葉を吐き出すよりも早く、美緒は既に何かをリュックから取り出し、17階の扉に貼り付けてる。
「ちょっと、何やってるの?!」
「いいからロープにへばり付いて頭抱えて。吹き飛ばされても知らないわよ。はい、3、2、1......」
「吹き飛ばされるって......爆弾? まさかこんな狭い所でそりゃあ無いでしょう。冗談言ってる場合じゃ......」
そして、
ドッカーン!!!
大爆音と竜巻の発生と共に目の前が真っ白になったのでした。
「ひえ~! やっぱそれか!」
気付けばロープは風で暴れ、四方から襲い掛かる小石やら埃やらが容赦無く摩耶の頭に降り落ちて来る。
ゴトゴトゴトッ!
ボボボボボンッ!
もうどっちが上だか下だか、右だか左だか......とにかく粉塵で何も見えないし、身体か毬のように宇宙遊泳してる。
「痛いっ! 痛いって!」
「そんな所で遊んでないで、早くこっちに飛びなさい! 化け物に食べられちゃうわよ」
慌てて声のする方へ目を向けてみれば、17階の扉に大きな穴が。そんな穴の向こうでは摩耶のロープを手に持った美緒がおいでおいでとポーズを取ってる。
この状況を見れば、美緒がプラスチック爆弾で扉を吹き飛ばしたことは明らかだ。
そんな美緒の余りに早過ぎる行動と思考に、摩耶はもう舌を巻くこと位しか出来なかったらしい。
「美緒さん......あなたって本当に人間?」
「ネズミに見える?」
「もういいわ......それで、ここからどうやって20階まで行くの?!」
「そんなことより、まずはこの化け物から逃げることが先決ね」
見れば穴の大きさは直径2メートル以上。キラースパイダーがいくら大きいと言っても、容易に通り抜けられる空間だ。そんな穴を見れば見る程に、
「もっと小さい穴にしといた方が良かったんじゃない?」
とでも言いたくなる。(もう言っちゃってるのだが)
「そんな調節が効く位なら始めっからそうしてるわ。おっと......思ったより動きが早いわね。さぁ、行くわよ!」
「りょ、了解!」
バサッ、バサッ、バサッ!
一方、目にも止まらぬスピードで壁を伝い降りて来るキラースパイダー。どうやら期待を裏切り大爆発程度のことで怯んではくれなかったらしい。
不自然な程に大きな口を開け、そこから大量の唾液が流れ落ちて来てる。ダラダラと......
あんな鋭い牙に咬み千切られて死ぬ位なら、いっそのこと爆死した方がましだと素直に思ってしまう摩耶だった。
「多分今の音を聞き付けた兵隊達がこの17階に押し寄せて来ると思うんだけど......キラースパイダーも居るし、残念だけどここは撤退するしか無いんじゃない?」
今の状況を冷静に分析すれば、この摩耶の発言は実に懸命と言える。ところが美緒はと言うと、
「逃げるですって? もしかしてあなた寝ぼけてるの?」
余裕の笑顔でそんな暴言ミサイルを発射したのでした。全然諦めて無いし、死ぬつもりも無いらしい。




