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第24話 徳田次郎

 バサッ、ドドドドッ......


 大きなスコップで屋根に降り積もった雪を地に投げ落とすその男もまたやたらと大きかった。


 身長190センチ、体重100キロ超。口の回りを髭で弧を描いたその風貌は正に山男。雪山と聞いて、これほどまでに似合う漢も居なかろう。


 この2日間、雪は休む間も無く永遠と降り続いている。今雪を落としたばかりだって言うのに、屋根は直ぐに真っ白。これじゃあ切りが無い。


「全く、よく降ることだ。おっと......もうこんな時間か」


 気付けば既に朝の10時を回ってる。山中の孤児院、『ひつじの杜』の下働きたる徳田次郎とくだじろうの仕事は、何も『雪降ろし』だけと言う訳では無かったらしい。


「子供達のランチを作らねば! せ~の~、よっと!」


 日常の如く2階の屋根から雪のベッドへと飛び降りる徳田。すると、バサッ。そんな大きな音が山々にこだまする。


 いつもならそんなダイブ音を合図に、「ワンワンワンッ!」と犬小屋から飛び出して来るバロンだったが、なぜだか今日に限って、シ~ン......静寂を通していた。


「おや、寝てんのか?」


 訝しい表情を浮かべながら、バロンの木製御殿を覗き込んでみると、そこはもぬけの殻。リードの先と小屋の金具を繋ぐナスカンフックが外れてる。


「なかなか頭のいい奴だ」


 自然と笑みを浮かべる徳田。とは言え、バロンとこの『ひつじの杜』へやって来てから早3年。過去にこんな事は1度も無かった。


 何か有ったのか? 


 浮かべた笑みとは裏腹に、一抹の不安に駆られる雪山の大男だった。すると、


 もしかして?!


 何か思い当たる節でも有るのだろうか? そんなバロンの足跡を追うようにして徳田は『ひつじの杜』の正面玄関を潜り抜けて行った。


 そしてたどり着いたその場所はと言うと......


「やっぱここか」


『医務室』そんな木札が掛けられた部屋だったのである。


 ドクン、ドクン......なぜだか激しい胸の高鳴りが。気付けば頭に降り掛かった雪を払い、大鏡の前で身だしなみを整える徳田。そして大きく深呼吸。ハ~、フ~......


 やがてドアノブに手を掛けると、


「失礼する」


 そんな社交辞令を経た後、扉を開いてみた。すると、


「おお......」


 なんとそこには、2日間死んだようにベッドで眠っていた美しき女性が身体を起こして、ク~ン、ク~ンと鼻を鳴らすバロンの頭を撫でているではないか。


「あなたは?」


 一方、そんな雪山の大男の到来に気付いた美しき女性はと言うと、恐れるどころか、驚くどころか、なおも優しき笑顔を披露し続けてる。


 見れば頭は包帯で巻かれ、顔半分が完全に覆い尽くされてる。しかし、その者の優しさを知るには半分だけで十分だった。


「い、意識が戻ったんだな......そ、そいつは良かった。俺は徳田次郎。ここでで下働きしてる無骨者だ」


 語りながらも、思わず目を逸らしてしまう徳田。もしかしたら、その者の外見上の美しさに加え、内面から滲み出る重厚なオーラに圧倒されてしまったのかも知れない。


 この人は女神か?! 


 その時、徳田が頭に浮かんだ言葉と言えば、凡そそんな言葉だけ。きっと彼の目にはマリア様が映し出されていたのだろう。


「あなたが私を助けてくれたのですね。ありがとう」


 徳田のそんな胸の高鳴りを他所に、女神はと言うと、なおも天使の笑顔を浮かべてる。


「お礼なんて......飛んでも無い。あんたはこの深い森の中で倒れてた。俺達は人の道として当たり前の事をしただけだ。もし礼を言うんなら、このバロンにしてやってくれ」


 徳田は2日前その者が雪山で深傷を負って倒れていたこと。そして、バロンが第一発見者であることなどをこと細かく説明した。


 きっとこの人は......


 何でこんな所に居るのかまるで分かって無い筈。故にまずはそこを説明してあげなければ話が先に進まない......多分そんな機転が働いたのだろう。なかなか頭の回転は早いようだ。



「そう......あなたが私を見付けてくれたのね。ありがとう、バロン」


 一方、包帯だらけの手で命の恩人の頭を撫でるその者。そして、ク~ン、ク~ン......鼻を鳴らしながらその手を舐めるバロン。


 そんな2者の様子を目の当たりにした徳田はと言うと、なぜだか首を傾げてる。その理由はと言うと、


「不思議だ......この犬は警戒心が強くて、なかなか見ず知らずの人に懐く事は無いんだが......」


 どうやら、そう言うことらしい。


「そうなんですか......もしかしたらあたし達、生まれた時から赤い糸で結ばれてたのかもね、バロン。キャッ、キャッ!」


 気付けばバロンは、そんな美しき顔をペロペロ舐めてるではないか。


「おっ、お前、調子にノリ過ぎだぞ!」


 決してバロンに嫉妬してる訳じゃ無い。はしゃぎ過ぎて、折角塞がった傷が開きようものなら一大事だ。自らそう言い聞かせる徳田だった。


 すると、そんな団欒とも言える声に誰かが気付いたのだろうか? 突然『医務室』の扉が開放を見せた。


「一体どうしたのですか?」


円香まどか先生!」


 見れば、そこには高貴な雰囲気を漂わせた1人の老婆が。



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