第22話 斧
あらためて見直してみると、100キロは有ろうかと思われる重厚な木製カウンターは見事にひっくり返り、凛の右足の腿から下を完全に圧し潰している。
そしてその直ぐ横の壁には、未だ大きな『斧』がしっかりとフックで固定されていた。
「ヨシッ!」
するとポールは何を思ったのか、素早くそんなフックを外すと、『斧』を両手で持ち上げ始めたではないか。
一体何するつもりや?! そんな大きな『斧』に手を掛けて......
まさか?
まさか!
まさか!!
「凛サン......君を助ける為にはこうするしか無いンダ。チャット痛いと思うケド、我慢シテネ」
そんな不気味な発言を繰り出したポールの目は、やたらと血走っている。まるで何かに取り憑かれてるように見えたりもしなくは無い。
「ちょっと痛い』じゃ済まんだろって!」
「おい、おい、おい......頼むから止めてくれよ。そんな物騒なもん持って、どうしようってんだ?! さっきも言ったけど、あたしはいつでも死ぬ覚悟が出来てるんだっちゅうの! 君はさっさと......」
一方、目がいっちゃってるポールはそんな凛の叫びなど聞いてやしない。
「テヤァー!」
バシッ!
「トウリャアー!」
バシッ!
「止めろっ!」
ガシッ!
「痛いっ! 痛いっ!」
「もうちょっとダ。我慢シテッ! テヤァー!」
バシッ! ガシッ!
そして、
パキンッ。
見事、重厚木製カウンターは、まっ2つに割れたのでした。
「危ないって! 斧の刀が何回か足に触れてたぞ!」
幸いにも凛の身体のパーツは、どれも離反していない。これはもう結果オーライとして、喜ぶしか無かった。
とは言え、激しい揺れはそのレベルを増していくばかりだった。天井は崩れ始め、いつ全体崩落を起こしてもおかしく無い状況だ。
「サァ、急がないト! 立てるカイ?」
切迫した状況の中、凛はと言うと、未だ地にひれ伏している。一時的とは言え、カウンターに押し潰された身体のダメージは計り知れないものがある。自力で立ち上がる事など、到底不可能な話だった。
いち早くそんな状態を察知したポールは、
「サァ、僕に掴まっテ!」
然り気無くスーパー美女の身体を抱き上げ、自身の背中へと導いていく。このような火急な状況下において、もちろん疚しい気持ちなどこれっぽっちも無い......筈ですが。
一瞬ニヤけた表情を見せたイケメンハーフではあったが、視線を上げた途端に、表情が一気に凍り付く。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ......」
見れば唯一の出入口付近で火の手が上がり、既に天井まで燃え広がっているではないか! 既に真っ黒な煙が空間にモクモクと立ち込め、目を開ける事すら困難な状況だ。
しかも最悪な事に、その火は既にプロパンガスボンベを360度囲い込んでる。瞬きしてる間にも、引火して大爆発を起こしそうな気配。
「な、なにボサッと突っ立ってんだ?! 早く外出て逃げろよ! 炭になるぞ!」
一方救われた恩も忘れ、背中でワメき散らす凛。実際のところ、数秒後には、ドッカーン! 2人揃って『あの世行き』の列車に乗る事は間違い無さそうだ。
「外へ出るったって、どうすりゃイインダ?! 出口は火で塞がれてるジャン!」
カチカチカチ......爆発まで残り5秒。
「もはや、これまでか?!」
美男、美女の2人が志半ばに死を覚悟したその時の事だった。
ガッシャーン! ガタガタガタッ!
突如、大爆音が轟き渡ると共に、舞い上がった粉塵で視界がゼロとなる。
カチカチカチ......爆発まで残り2秒。
「なっ、なんだ? ガスボンベが爆発した?!」
「イッ、イヤ、何か天井から落ちてキタみたいデスヨ!」
見れば封印された階段の頂上が、空洞になっている。どうやら、天から降って来た大きな物体が、風穴を開けてくれたらしい。
ゴロン、ゴロン、ゴロン......やがて救世主とも言えるそんな大きな物体は、弧を描きながらガスボンベの前で停止する。
余りの一瞬なる出来事に、2人の顔はアングリ。時が止まってしまう。




