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第20話 ヴェロニカ

 この花輪凛なる公安切っての武道派......実は知力においても抜きに出ていた。


 であるが故、多少寂しい思いをしていたとしても、色恋ごときに惑わされて、判断を誤る事などは有り得ない。


 ポールの見え透いた色仕掛けなどは一刀両断に看破し、お遊び心でそんなポールの挑発に付き合っていた訳ではあるのだが、そんな年下イケメンハーフに、少なからず好意を抱いていた事もまた事実だったりもする。


 もちろん彼女は知っていた。


 ポールの事も、そしてエマの事も。更に何を求めて2人がこの廃墟村へやって来たかと言う事も。


 花輪凛......


 彼女が公安のエリートともなれば、きっと『竜奴瑠病院』でエマとポールの姿を見た瞬間、それに気付いていた事だろう。


 凛とポールの関係、決して『VS』とまでは言わないが、商売敵である事は間違い無い。


 にも関わらず、凛は2度までもポールを救った訳である。それには何かきっと大きな理由が有るに違い無い! そんな結論に達したポールは、



「手柄ヲ立てさせてクレル?」


 すっ惚けて聞いてみた。すると、


「そうさ。但しそれには条件が有る」


 それまでの軽い会話とは段違い。やたらと語気を強めてきてる。きっと凛に取っても、この会話が肝に当たる所なのだろう。


「ハテ......ソノ条件トハ?」


「なに簡単な事さ......あたしと一緒に、この森の更に奥の『炭鉱跡』へ乗り込む事さ」



 因みに......


 この村は、かつて炭鉱で栄えた村である事は周知の通り。であるが故、きっとこの森の更に奥に炭鉱跡が有るのだろう。


 一匹狼の凛が、敢えてポールとの協調を求めて来たと言う事は、それだけで炭鉱跡攻略の難儀さを計り知る事が出来る。


 どうやら......


 凛サンの言う炭鉱跡に、『マーメイド』の確信が有るんだな......


 直ぐにそんな結論へと脳が導かれるポールだった。



「お安い御用デス」


 とにかく次なるステップに進む為には、そう答えるしか無かったのである。


「いいだろう......ならばまず、あたしがこれまで調べ上げた事を全て話してやる」


 実際のところ、ポールは元よりエマすらも殆ど何も分かっていなかった。


 この地で『マーメイド』の足取りが途絶えた......ただそれだけの情報で、闇雲に飛び込んで来た訳である。


 そんな中、久しくこの森に潜み続け、そこで知り得た情報を全て流してくれると言うのだから、ポールに取っては願ったり叶ったりの話な訳だ。


 やがてポールはカウンター越しに身を乗り出して、凛が語り始めるのを待ち受けた。


 一方凛は、そんなポールを焦らすかのようにポケットから『マルボロ』を取り出すと、シュポ......火を灯す。そして鼻から煙を吐き出しながら、漸く重い口を開き始めた。


「『ヴェロニカ』って......聞いた事有るか?」


「ん? 伝説上の聖女の事なら知ってるケド。確か......イエス=キリストが十字架を負って刑場に向かう途中、顔をぬぐう布をささげたって人ダッケカ?」


「そっか......自分まだ何も知らないんだな、まぁいいだろ。ならば一から教えてやっから、よく聞いとけよ。


 まずは『帝国化学工業㈱』。その名も知れた物質加工会社だ。前身は『帝国工業』って言ってな......当時はとにかく何でも最先端を走ってて、常に世間を驚かせてた会社だ。


 あんたらが知ってるかどうかは分からんけど、この『夢の国』も『帝国工業』が造り上げた造作物だ。当時は大盛り上がりだったらしいぞ。


 創設者の財前源次郎ざいぜんげんじろうは戦時中、陸軍中将を勤めた強者だったって噂だ。戦後直ぐに進駐軍で行った『東京裁判』で、一切罪に問われなかった理由は定かじゃない。


 とにかく敗戦で意気消沈してる日本国民を勇気付けようと、色んな娯楽に手を掛けたそうだ。きっとこの『夢の国』もその一環だったんやろうな。


 この山一帯が、先祖代々財前家の所有地だったらしくて、そんな所有地で銅が掘れ始めたもんだから一気に資金が膨れ上がったって話だ。まぁ、一種の成金だわな」


「財前源次郎......初めて聞く名前ダ。デモ、戦後人民を力付けようと娯楽の発展に貢献したんダカラ、きっと善人って事なんダヨネ?」


 ポールは氷水を口に含みながら、もごもごカットインを入れる。


「今の話だけを聞いたら、きっとそう思うわな......でもそれは上部だけの顔だ。実際の顔は他の所に有る」


 凛は殆ど口に運んでいないマルボロを灰皿に押し付けながら、眉間にシワを寄せた。そして更に続けた。


「元々はあんたが言ったように善人だったのかも知れん。でもな......人間ってもんは、大金を手にすると、人が変わっちまうもんなんやわ。所謂『金の亡者』って奴だ。


 金を稼ぎたくてしょうがないから、その為にはどんどん金をバラまく訳さ。政界、行政、警察......ちょっとやそっとの悪事に目を瞑って貰う為にな。


 公安がこの森に目を付け始めたのは、何も『マーメイド』がここに送り込まれたからだけじゃ無い。もっとずっと前からの話なんだわ」



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