第16話 古井戸
「『メリーゴーランド』ダッテ?! エマサンが隠れた所じゃナイカ?! こっ、こうしちゃイラレン!」
突然火が灯ったような表情を見せるポール。もう居ても立ってもいられない......そんな表情だ。今にも敵中目掛けて走り去りそうな勢いを見せてる。
するとそんなポールの心中を察した火炎放射器女は、だだっ子をなだめるような口調で静かに語りを始めた。実に落ち着き払っている。
「まぁ、待て待て待てっちゅうに......天下無敵の柊恵摩の事だ。お主なんぞが行かなくたって大丈夫だと思うがな。
これからあたしはあんたに『マーメイド』に関する大事な情報を流してやろうと思ってるんや。
そんな好機逃して、のこのこ助けになんか行ったら、きっと柊恵摩は激怒すると思うぞ。職務放棄だ! ってな具合にの」
天下無敵の柊恵摩!
『マーメイド』の情報!
女の口から発せられたそんな2つの爆弾キーワードは、熱り立つポールの脳に見事冷や水を流し込んだのである。
走り出した途端に、急ブレーキを掛けられたポールの身体は、バランスを崩し、今にも倒れそうになってしまう。
「な、なんでエマサンの事ヲ?! そ、それに『マーメイド』の情報ダト?!」
「だから、立ち話もなんだろって言ってるんじゃ」
「ワ、ワカッタ......」
ポールのそんな従順な反応を心待ちにしていたのだろう。火炎放射器女は、ホッとしたような表情を浮かべる。しかし直ぐにそれを打ち消した。
きっと他人に心の中を見透かされるのが嫌なタイプなのであろう。
でもまぁ、もし本当に公安の人間だったとしたならば、職業柄そう簡単に心の中をさらけ出す訳にもいかない。むしろ、そんな仕草は当然と言えるのでは無かろうか。
やがて火炎放射器女は、『レストラン花畑』の中に入って行くのかと思いきや、
「ナニ、そっち?」
やたらと薄気味悪い裏手へと回って行ったのである。
『竜奴瑠病院』における幻覚、『夢の国』入口での幽霊少女騒動......すっかり人間ならざる者との出会いがトラウマ化してるこの男に取っては、そんなちょっとした薄気味悪さすら、たちまち『怪談話』へと脳が直結してしまう訳だ。
そして直ぐ様、ポールの目に飛び込んで来たものと言えば......
なんと、なんと!寄りによって......井戸だった。
しかも『リ○グ』そのもの。今にも下から『貞○』の手が出て来ること間違い無しだ。
「さぁ、行くよ。自分も付いて来いや」
とにかくこの女の発言は常に唐突。おまけに説明が全く足りていない。(因みに関西弁)
この怪しき古井戸を前にして、『行くよ』と言われても、どこをどうしてどうすればいいのか?
などとポールが戸惑っているうちにも、
「よっこらしょ」
ガラガラガラ......火炎放射器女は、井戸の中へと鮮やかに姿を消して行ったのである。
その行動に何の躊躇も無かった。飛び込む前に覗き込んでもいやしない。きっと彼女に取っては日常的行動以外の何物でも無いのだろう。
「ナ、ナニゴト?!」
慌ててポールが井戸の中を覗き込んでみると、今度はガラガラガラ......ロープに繋がれた片手桶が、地上に舞い戻って来てる。
見れば5メートル下で、火炎放射器女がおいでおいでポーズを取ってるでは無いか。きっとこの片手桶にしがみ付いて降りて来いと言ってるのだろう。
この直方体なる空間に、水は無かった。舞い上がった埃の微粒子がやたらと鼻につく。きっと空井戸に変貌を遂げてから、長い年月が経過しているのだろう。
ちなみに、恐る恐る少し片手桶を引っ張ってみた。そこそこに弾力がある。
ロープの先には重石が付いてるらしい。体重を掛ければ絶妙なバランスが取れて、ゆっくり下降していく仕組みになってるのだろう。
「ワカッタ......」
暗がりではっきりとは見えないが、貞○の姿は見えないから、取り敢えずは降りてみる事にした。ここで拒絶していても、話が先に進まない。
そんな訳で、
「ヨッコラショ!」
井戸に足を掛け、身体を空中に投げ出してみたのである。すると......
ガラガラガラッ!
「ヌウォーッ!!!」
予測に反し、ほぼ自然落下。
「聞いて無いッテ!」
ドサッ! バサッ!
「ンググググ......」
2秒もしないうちに火炎放射器女の足元で根絶していたのである。




